今回は、音振動計測用のFFTアナライザにとって、最もよく使われるアプリケーションの1つである「トラッキング解析」に関してお話します。トラッキング解析とは、振幅レベルが回転体の回転速度に対応してどのように変化していくかを刻々分析していく手法で、回転機械の共振周波数と回転速度との関係を求めることが主な目的です。ここでは、トラッキング解析の計測原理、FFT との関係、注意点などを簡単に述べます。
エンジン、モータ、発電プラントなどの回転機器から発生する音や振動等の周波数スペクトルには、その起振力が回転速度に依存するため、基本回転速度成分の他に回転速度の整数倍の強制振動成分や、その機器を構成している部品の共振による成分が現れます。また回転機器の回転速度は必ずしも一定ではなく、自動車のように低回転から高回転まで幅広い回転速度範囲を持つものでは、回転速度によって現われる信号成分も広い周波数範囲を変化します。この例のように、回転機器を構成している部品がどの回転速度で共振を起こしているのか、または回転速度の何倍の成分が共振しているのかを解析するのがトラッキング解析です。
検出器
図1 トラッキング解析のイメージ図
図1は、トラッキング解析の概念図を示したもので、このように、トラッキング解析は、通常の周波数スペクトル(周波数と振幅との2次元表示)に加えて回転速度のパラメータが加わり、3次元表示図となります。
回転体の起振力成分は、一般的に回転速度及びその整数倍の周波数となり、回転速度を変化させることにより連動してその周波数も変化します。回転速度の周波数を回転1次の次数成分と呼びます。例えば、1200 r/min の回転であれば回転速度を 60 で除算することにより、1 次の周波数は 20 Hz になり、1800 r/min の回転であれば 30 Hz となります。同様に n 次成分は、そのn 倍の周波数となります。
表1 回転速度と回転 n 次の周波数(例)
| 回転速度 (r/min) | 1 次成分(Hz) | 2 次成分(Hz) | n 次成分(Hz) |
| 600 | 10 | 20 | 10n |
| 1200 | 20 | 40 | 20n |
| 1800 | 30 | 60 | 30n |
| 2400 | 40 | 80 | 40n |
| 3000 | 50 | 100 | 50n |
トラッキング解析を行うためには、回転体の回転情報が必要となり、図 1 にあるように回転体に回転センサーを取り付け、FFT アナライザヘ通常パルス信号や交流信号を入力します。例えば、図1 の左側センサーは、検出歯車に近接させ磁気抵抗の変化からの誘起電圧を出力する電磁式回転検出器(交流信号が出力される)やホール素子を使った磁電式回転検出器(パルス信号が出力される)です。右側は、回転シャフトに反射テープを貼り付けて1パルス/1回転を検出する非接触式ハンディタコメータの例です。(注意:図1には、例として2つの回転センサーが描いてありますが、実際はどちらか1つを使うことになります。)
FFT アナライザでの回転設定の例を図 2 に示します。
図2 FFT アナライザでの回転入力の条件設定例
①パルス数
1 回転あたりのパルス数を入力
検出歯車の数 60 であれば、60 を入力
1 つの反射テープであれば、1 を入力
②カップリング
交流信号ならば、AC
パルス信号ならば、DC
③エッジ
立ち上がり/立ち下がり 通常どちらでも OK
④検出レベル
波形生成用電圧レベル(グラフの赤ライン)
DC カップリングでパルス波形ならば、2 V 程度に
⑤ヒステリシス
誤動作防止用のレベル、通常は 0.1 V 程度
⑥ハードウェア分周と分周数
通常はオフでいいですが、センサーによって FFT アナライザに入力される回転情報の周波数が 3 kHz を超えるようでしたらオンして適切な分周数を入力して下さい
外部からの回転情報に連動してその回転速度での次数成分をトラックしていくことがトラッキング解析の主たる機能ですが、現在 FFT アナライザで次数成分をトラックする方法として、次数比分析と通常の周波数分析との2つ使われています。
次数比分析は、外部からの回転情報からサンプリングパルスを作成して入力してくる音や振動の時間信号を回転速度に連動したサンプリング周波数でサンプルすることにより、回転速度に関係なく一定の幅の次数成分の周波数分析を行う手法です。このことにより、次数成分が回転速度に関わらず固定のスペクトルの分析ラインとなりトラックしやすくなります。また、FFT の時間窓の誤差も少なくすることができます。この次数比分析を使う手法を定比トラッキングと呼びます。
それに対して、通常の周波数分析を使う方法は、分析自体は固定のサンプリング周波数を使い(すなわち通常の周波数レンジを設定する)、その時の回転速度に連動して毎回回転次数成分の周波数が変化するので対応する分析ラインをサーチする必要があります。また、その次数成分の周波数は非同期なので、分析幅にピッタリ合わず時間窓の影響を大きく受けます。この通常の周波数分析を使う手法を定幅トラッキングと呼びます。
図3は、3次元表示に対応したカラーマップで表現した、上記の2つの手法を比較したものです。
図3 定比トラッキングと定幅トラッキングの比較例
定比の横軸:一定次数(この例では 12.5 次)
定幅の横軸:一定周波数(この例では 500 Hz)
振幅の大きさは色で表現
図 3 でもわかるように、定比では、特定の次数成分は回転速度の軸に平行な線(図の赤線)となり、FFT での一定の分析ラインとなります。定幅では、特定の次数成分は回転速度に比例した斜めの線(図の赤線)となり、回転速度の変化に対して刻々その周波数が変わっているのがわかります。
そして、この次数成分に着目して、横軸を回転速度表示したものを回転トラッキング線図と呼びます。図4は、4つの次数を重ね書き表示した例です。
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図4 回転トラッキング線図の表示例(4つの次数の重ね書き)
横軸:回転速度 縦軸:音や振動の振幅
定比トラッキングと定幅トラッキングで、分析幅(周波数分解能)の違いを説明します。定比トラッキングでは、FFT の時間窓(例えばサンプル点数 1024)に回転速度にかかわらず回転 1 次の周波数の成分を整数倍取り込むようにサンプルしますので、周波数分解能は、回転 1 次周波数に比例することになります。そのため、一定比の周波数分解能となるため本手法を定比トラッキングと呼びます。それに対して、定幅トラッキングでは、通常の周波数レンジで分析しますので、回転速度に関わらず一定の周波数分解能となります。
次に、定比トラッキングの使用上の注意点を述べます。
定比トラッキング時の次数比分析では、通常回転速度に対応した外部からのパルスを分周逓倍してサンプリング周波数を作っていますが(最近のFFT では、ディジタルフィルタとリサンプリング手法で行なっています)、最大分析次数と 1 回転 1 パルス数を基準としたパルス逓倍率は、通常の周波数分析における周波数レンジとサンプリング周波数と同じく、2.56 のファクタとなります。
すなわち
となります。(表2)
表2 最大分析次数と逓倍率との関係
| 最大分析次数 | 6.25 | 12.5 | 25 | 50 | 100 | 200 | 400 | 800 | 1600 |
| 逓倍率(1 P/R 時) | 16 | 32 | 64 | 128 | 256 | 512 | 1024 | 2048 | 4096 |
このように、最大分析次数が大きくなるにつれてリアルタイムにサンプリング周波数を作成する処理負荷が重くなり、表3のように分析できる回転速度の上限に制限が出てきます。
表3 最大分析次数による分析できる回転速度の上限
| 最大分析次数 | 測定回転速度範囲 | サンプリング |
| 6.25 | 300~240000 r/min | 16 点/1 回転 |
| 12.5 | 200~192000 r/min | 32 点/1 回転 |
| 25 | 150~96000 r/min | 64 点/1 回転 |
| 50 | 150~48000 r/min | 128 点/1 回転 |
| 100 | 150~24000 r/min | 256 点/1 回転 |
| 200 | 100~12000 r/min | 512 点/1 回転 |
| 400 | 100~6000 r/min | 1024 点/1 回転 |
| 800 | 100~3000 r/min | 2048 点/1 回転 |
| 1600 | 100~1500 r/min | 4096 点/1 回転 |
定幅トラッキングにおける使用上の注意点は、分析する周波数レンジ(一定)によって、分析最大回転速度と最大分析次数が制限されるということです。
分析できる最大の回転速度 Nmax、最大分析次数 Omax、周波数レンジ Fr とすると
例えば、1 kHz レンジで、3000 r/min では、20 次までしか分析できないことになります。
FFT アナライザを使ったトラッキング解析全般の注意点ですが、回転速度を変化させるスピード(勾配)です。結局 FFT 分析は、時間窓時間内での平均振幅を求めているのに対して、回転体の音や振動信号は、長い時間スパンでは非定常な信号と考えられ、時間窓内で速く回転速度を変化させると、正しく振幅情報を得られなくなります。この注意点は、定比トラキッキングにおける低回転速度付近で特に注意が必要です。なぜなら、定比トラッキングにおける時間窓は、回転速度に反比例して大きくなるからです。回転スピードの変化に関するもう 1 つの注意点は、トラッキング解析では入力パルス信号から現在の回転速をリアルタイムに求めており、回転スピードが速すぎると設定された回転速度間隔通りに
データを収録できないことがあるということです。
これまで、話した定比トラッキングと定幅トラッキングの特徴をまとめたものが表 4 です。
最後に、車用エンジンの振動データを、定比と定幅で分析した3次元表示したデータ例をあげます。
図4が定比トラッキングでの測定事例で、次数成分の特徴をつかみやすくなっています。図5が定幅トラッキングで、2次成分はほぼ定比と結果となっています。また、ある一定の周波数付近と回転次数成分をぶつかっている点で、振動が大きくなっていて、共振周波数と推察できます。
表4 定比トラッキングと定幅トラッキングの主な比較
| 比較項目 | 定比型 | 定幅型 |
| サンプリング | 外部 回転速度に同期してサンプリング周波数が変化する。 |
内部 回転速度に無関係に一定のサンプリング周波数でサンプルする。 |
| 分析レンジ | 最大分析次数 6.25、12.5、25、50、100、200、400、800 分析したい最大次数から選択する。 |
周波数レンジ 分析したい次数と回転速度から周波数レンジを選択する。最大次数が制限される。 |
| 次数分解能(Δorder) | 最大分析次数/周波数分解能で一定 (例)50次で400ラインの時 0.125 |
回転速度の上昇に伴って最大分析次数は減少するので、次数分解能は細かくなる。 |
| 周波数幅(周波数分解能) | 回転速度に比例して大きくなる。(定比幅) | 回転速度に関係なく一定 周波数レンジ/周波数分解能 |
| トラックする方法 | FFT解析した一定のライン数を追跡していくだけでよいので、回転変換に対する追従性が良い 次数にあったピークをキャッチし易い。 (時間窓の影響なし) |
瞬時回転速度毎に特定の次数に相当する周波数を計算してその前後のバンドデータを追跡する。 次数成分が周波数分解能と合わないため、前後バンドから合成する。 (時間窓の影響大) |
| 1回転当たりのサンプル数 | 回転速度にかかわらず一定。 最大分析次数 × 2.56(=逓倍率) |
回転速度に反比例して少なくなる。 |
| オーバーオール周波数バンド | 回転速度に比例してバンド幅は大きくなる。 | 周波数レンジそのもの、 回転速度に無関係で一定。 |
図5 定比トラッキング測定事例
分解能と合わない
図6 定幅トラッキング測定事例
【キーワード】
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【参考】
小野測器技術レポート 「次数比分析とトラッキング解析」
小野測器Webページ 回転機器関連 計測器 概要
小野測器Webページ ハンディタコメータ(回転計)概要
(2017年11月21日発行メールマガジンより抜粋)
まとめ
- 回転体の振動騒音計測には、回転速度をパラメータとしたトラッキング解析がよく使われています。
- 回転体の回転速度を求めるセンサーとしては、電磁式回転検出器㸪磁電式回転検出器、タコメータなどがあります。
- トラッキング解析は、通常回転速度に連動した次数に着目して計測します。
- 次数をトラックする手法として、定比トラッキングと定幅トラッキングがあります。
- 定比トラッキングの特徴としては、
次数成分が一定のラインに固定されるので次数が着目しやすい
時間窓に影響されず次数分解能が高い
広い回転数範囲をトラックすることができる
定比型なので、ランダムな成分では回転速度によって次数成分のパワーが変化する場合がある。
などがあります。 - 定幅トラッキングの特徴としては、
外部サンプリング(逓倍機能)が不要
オーバオール値が回転速度にかかわらず一定
時間窓に影響されるので、次数ピークを検出しにくい
回転速度範囲がサンプリング周波数によって制限される
などがあります。