これまでは、フーリエ級数、フーリエ変換、離散フーリエ変換などに関する基礎的なお話しをしてきましたが、これからは、その代表的な応用であるスペクトル解析についてお話しをすることにします。
音や振動などのような複雑な信号波形を基本的な周波数(正弦波)に分解してその強さを求めることをスペクトル解析(またはフーリエ解析)と呼びますが、これを実行する最も一般的な方法が、フーリエ変換技術です。以下、基本的な波形を使って、離散フーリエ変換(DFT)による計算方法と計算結果の縦軸値の意味合いを説明します。
最初に、今まで説明したフーリエ級数、フーリエ変換、離散フーリエ変換の定義式を再掲します。
●フーリエ級数
●フーリエ変換
●離散フーリエ変換(DFT)
実際の数値計算では、有限長のディジタルデータを扱いますので式(3)の DFT を使います。
ここで、式(2)から直感的に有限長の DFT 式(3)を導く説明をします。
時間波形 x(t)をサンプリング周期 τ(サンプリング周波数 f、f = 1/τ)で N 点だけサンプルすると、有限時間長 T は、T = Nτとなります。また、基本の周波数は 1/T、離散的な周波数は k/T となります。これらを使って、式(2)を有限離散化すると;
ここで、1/T と τ を省略してかつ積を和の形に替えると;
となり、有限長のフーリエ変換を式(3)で求めることが出来ます。
X (f)(あるいは、X (k))は時間波形 x(t)に含まれる周波数成分の大きさ(強さ)を表し、フーリエスペクトルと言います。フーリエスペクトルは、明らかに複素数なので;
ここで、|x(f)|を振幅スペクトル、θ(f)を位相スペクトルと呼ぶことがあります。
このように、フーリエスペクトルは、周波数毎の振幅と位相情報をもつ複素数です。
次に、フーリエスペクトルの大きさの次元を考えます。
有限長 T の時間波形 x(t)のフーリエ変換を式(5)で求めると、時間に関する積分演算なので明らかに、X (f)の次元は時間波形の次元と時間の次元との積となります。例えば、x(t)の単位が電圧(V)ならば、フーリエスペクトル X (f)の単位は Vs となり、さらにその値は有限長 T に比例することになります。
周期的信号のような確定的な信号では、計算する時間窓によってその値が変わるのは面倒ですので、通常の FFT アナライザでは、T で除算した値をフーリエスペクトルとしています。離散フーリエ変換(DFT)のコラム(メルマガ 138 号計測コラム)でも述べたように、式(5)の DFT 演算は N 点データを基本周期とする周期的な時間波形とみなしますので、「T で除算したフーリエスペクトル」は、式(1)での複素フーリエ係数と等価となります。すなわち、フーリエ変換のコラム(メルマガ130 号計測コラム)での式(10)にあるように、複素フーリエ係数とDFTから求めたフーリエスペクトルとの関係は(離散的な引数を合わせて書くと);
となります。
市販の表計算ソフトに付属している FFT ソフトなどを使って、具体的に数値計算してみることにしましょう。
時間窓長 T( = Nτ)に k 周期入る余弦波形 x (nτ)を考えると;
以下、式(11)と同じようにサンプリング周期 τ は省略します。
式(11)において、例えば N = 64、k = 4 を代入すると、時間信号 x(n)は 64 点の離散的なデータとなり、このデータを FFT 演算すると、同じく 64 点の周波数データが得られます(図 1 前回再掲した図)。

周波数レンジ
図1 DFT( FFT) における周波数領域のデータ並び(N = 64 の例)
この例では、図 1 の周波数データ列で、k = 4(正の周波数)と k = 60(負の周波数)の 2 箇所(赤丸の 2 点)にだけ表 1 の値が格納され、他のデータ列は 0 となります。
表1 式(11)に N = 64、k = 4 を代入した計算結果
| 周波数点(k) | 実数部 | 虚数部 |
| 4(正の周波数) | ![]() |
0 |
| 60(負の周波数) | ![]() |
0 |
この結果から、時間窓長 T(τ を省略した N)で除算して 2 倍(負の分も考慮)することにより、振幅 A が得られます。また、虚数部が 0 だから明らかにその位相は 0(deg)となります。
次に、位相を変化させた式(12)を計算してみます。
表2 式(12)に N = 64、k = 4 を代入した計算結果
| 周波数点(k) | 実数部 | 虚数部 |
| 4(正の周波数) | ![]() |
![]() |
| 60(負の周波数) | ![]() |
![]() |
上例と同じように、式(12)において、N = 64、 k = 4 を代入して FFT 演算すると、表.2 のような計算結果となります。この結果から、振幅は式(7)を使って A となり、位相は式(8)を使って、-π/4 (= -45 deg)と求めることが出来ます。
なお、信号成分の強さは、FFT アナライザの設定によって、振幅値(片振幅値)や実効値などとして表示されます。また、位相は、データ取得(時間窓)に依存しますので、通常はあるタイミングと同期して(トリガーをかけて)サンプルします。
次回は、パワースペクトルに関して、お話します。
【キーワード】
スペクトル解析、フーリエ解析、フーリエ級数、フーリエ変換、離散フーリエ変換(DFT)、フーリエスペクトル、振幅スペクトル、位相スペクトル、複素フーリエ係数、FFT、トリガー
【参考資料】
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「スペクトル解析」日野幹雄著 朝倉書店(1977 年)
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「ディジタルフーリエ解析(I)-基礎編-」城戸健一著 コロナ社(2007 年)
(2013年9月20日発行メールマガジンより抜粋)
まとめ
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音や振動などのような複雑な信号波形を基本的な周波数(正弦波)に分解してその強さを求めることをスペクトル解析(またはフーリエ解析)と呼び、通常はフーリエ変換技術がよく利用されます。
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フーリエ変換(または DFT)によって求められた周波数関数は、フーリエスペクトルと呼び、時間波形に含まれる周波数成分の大きさ(強さ)を表します。
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フーリエスペクトルは、周波数毎の信号の強さ(振幅)だけでなく位相情報も有する複素数です。
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通常の FFT アナライザにおけるフーリエスペクトルの強さ(縦軸値)は、その時間窓長で除算した値、すなわち複素フーリエ係数と等価として表示されます。
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フーリエスペクトルの位相は、データ取得(時間窓)タイミングに依存するので、通常はトリガーをかけてサンプルします。


