前回は、変換パラメータを複素数全体に広げ、フーリエ変換からラプラス変換を導入しました。ラプラス変換は、微分方程式を簡便に解く手法として発達してきた経緯がありますが、今回は、電気回路系や制御系で最も重要な解析手法である「伝達関数」についてお話します。さらに、この伝達関数から系の周波数特性を表現する周波数応答関数を求める方法を説明します。
本シリーズ「基礎からの周波数分析」において「フーリエ変換と畳み込み」(音の測定事例 - 第3回「騒音計によるさまざまな測定)と「伝達関数」(基礎からの周波数分析(17))で述べたように、インパルス応答h(t)の線形系に時間信号a(t)を入力すると、系の出力b(t)は、畳み込み積分で表すことができます。
.................................(1)
(注意:ラプラス変換を適用するために、h(t)=0(t<0)としている)
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図1 系の入出力関係とラプラス変換
「伝達関数」(基礎からの周波数分析(17))での説明と同様にして、式(1)の両辺をラプラス変換すると、ラプラス変換の性質により以下のような関係となります。
B(s)=H(s)A(s) .................................(2)
(注意:初期値を0としている)
このように、系の入出力の関係は時間軸上では畳み込み積分(式(1))となりますが、ラプラス変換(s領域)では、出力は、入力と系との積で与えられる(式(2))という、簡単な関係になります。式(2)から
.................................(3)
このH(s)を、図1における系(厳密には、線形時不変な系)の伝達関数と呼びます。すなわち、伝達関数は系のインパルス応答のラプラス変換で、入出力時間信号のラプラス変換の比として定義されます。
具体的な事例として、図2左の1自由度減衰振動系で、入力信号を外部からの力f(t)、出力信号を応答変位x(t)の系とみなして(図2右)、ラプラス変換を使ってその伝達関数を求めます。
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図2 1自由度減衰強制振動系モデル
「振動計測の基礎-2」(基礎からの周波数分析(23))で説明したように、この振動系に存在する慣性力、粘性抵抗力、復元力との合力が外力と釣り合うことから、運動方程式は、
となります。
式(4)の両辺のラプラス変換を求めると
これから、系の伝達関数H(s)は、
.................................(6)
と求めることができます。
2次遅れ要素系(式(6)のように分母がsの2次式となる系)の標準形は
.................................(7)
ここで、ωn:固有角周波数 ζ:減衰比(減衰係数) K:ゲイン定数
と書くことができますので、
式(6)の振動系の伝達関数を標準形に当てはめると、各パラメータは、
固有角周波数
減衰比
ゲイン定数
.................................(8)
と計算できます。
通常の系の伝達関数は、実数係数の有理関数で表せることが多く、
.................................(9)
(P(s)とQ(s)は、実数係数のsの多項式で、P(s)の次数<Q(s)の次数とする))
と記述できます。式(9)で、分母の根Q(s)=0の解を極(pole)、分子の根P(s)=0の解を零点(zero)と呼びます。例えば、
.................................(10)
では、零点はZ1で、極はp1とp2です。伝達関数では、特に極が重要な意味をもっています。
例として、振動する場合(0<ζ<1)で図2の2次遅れ要素系のインパルス応答を求めてみましょう。
前回説明したように、インパルスのラプラス変換は1だから F(s)=1 として
.................................(11)
ここで、式(11)の分母=0の根(すなわち極)を 𝑠1 ,𝑠2 とおくと、
.................................(12)
𝜔𝑑:減衰固有角周波数
となるので、式(11)の右辺を部分分数展開して、
.................................(13)
式(13)のX(s)を逆ラプラス変換して
オイラーの公式
より
.................................(14)
この結果(式(14))から、伝達関数H(s)のインパルス応答は、ζ<1では図3に示すように減衰しながら振動する時間波形となります。そして、式(12)と式(14)から、極の実数部(負の値)が減衰量を、極の虚数部が振動する周波数(減衰固有角振動数)を決めていることが分かります。また、伝達関数H(s)(式(7))の2つの極(式(12))は複素共役の複素数で、図4に示すように、半径ωn(固有角周波数)の円上に位置して、s平面上の左半分(実部<0)にあります。
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図 3 2次遅れ要素系のインパルス応答
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図4 s平面上でのH(s)の極の位置
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図5 s平面上での伝達関数の極位置と系の応答
Xが極の位置で、実軸上の極以外は複素共役(2つでペア)となっている
これらの事柄などから、s平面上の極と系の時間応答に関して以下のようにまとめることができます。(図5)
- 極がs平面の左半面にある(実数部<0)にあるときは、応答は減衰して系は安定である。
- 極がs平面の右半面にある(実数部>0)にあるときは、応答は発散して系は不安定である。
- 極が複素数となるときは、系は特定の周波数(減衰固有角周波数)で振動する。
- 極が虚軸に近づくほど(ζ―>0)、減衰は小さくなる。
- 極が虚軸上にある時は、振動が持続して(減衰しないで固有角周波数で振動する)、原点から離れるほど、周波数は高くなる。
次に、伝達関数と周波数応答関数の関係について説明します。
伝達関数H(s)の系において(図1)
入力信号 𝑎(𝑡)=sin𝜔𝑡、出力信号 𝑏(𝑡)とすると
.................................(15)
H(s)の極は全て単極で以下のように部分分数展開できるとして
.................................(16)
式(13)と式(14)からわかるように、上記右辺の最初のn項は、過渡現象をあらわす項で、
定常的には最後の2項だけが残るので、定常項の時間信号をbs(t)とすると
留数の求め方より、C1とC2を求めて整理すると、
.................................(18)
式(19)の結果から、過渡応答を除いた出力信号b(t)は、入力正弦波信号a(t) に対して、振幅は
倍され、位相は∠H(jω)だけずれること分かります。すなわち、伝達関数H(s)の系に定常正弦波を加えた時の周波数応答(振幅比と位相差)は、s=jωとして得られるH(jω)の絶対値と位相角に等しくなります。S平面上で考えると、虚軸(S=jω)におけるH(s)の値が系の周波数特性そのものとなります。ます。この𝐻(jω)がFFTアナライザでの周波数応答関数(FRF)となります。
図6 定常正弦波の応答と周波数応答関数との関係
式(7)の伝達関数H(s)にs=jωとおくと、「振動計測の基礎その2」(基礎からの周波数分析(23))で説明した振幅倍率を求めることができます。
.................................(20)
ゲイン定数K=1とおいて、振幅倍率のゲインは
.................................(21)
振幅倍率の位相角Φは(遅れを負の角として))
.................................(22)
入力強制外力の周波数を変数として、式(21)と式(22)をフラフ化すると、図7となります。系の固有角周波数ωn付近で振幅が最大化しているすなわち共振現象を見ることができます。また、位相角はωn前後で、180度(π)回っている(遅れている)ことが分かります。
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図7 1自由度減衰系の強制振動における振幅と位相
次に、系の極と零点とその系の周波数応答との関係について述べます。
式(10)の伝達関数を、再度例として考えます。(式(23)とします)
.................................(23)
z1:零点
p1,p2:極
式(23)の伝達関数を持つ系の周波数応答は、s=jωを代入して
.................................(24)
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図8 s平面上での極と零点を始点として虚軸上を動く点Pを終点とする ときのベクトルの長さと角
虚軸(jω)上を動く点Pを考え、極と零点からPへとなるベクトルの長さと角度を図8のようにおくと、H(jω)のゲインと位相は
.................................(25)
と書くことができます。すなわち、虚軸上の点P を移動させたとき(周波数をスイープさせる)にこれらの値がどう変化することを調べることにより、系の周波数特性を推測することができることになります。
具体的な例として、式(7)の2次遅れ要素系を考えます。
.................................(27)
ζ<1のとき
.................................(28)
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図9 2次遅れ要素系での例
s=jω を代入して
.................................(29)
図9で、ゲインと位相は
.................................(30)
図9と式(30)、(31)から、以下のようなことが分かります。
- ゲインは減衰角周波数(ωd)付近で最大
- 位相は原点(DC) にて0度で、それ以降は単調減少
- 固有角周波数(ωn)で、位相は必ず-90度(-π/2)
- 無限大の周波数で、位相は-180度(―π)
参考のために、サーボアナライザで実測した2次遅れ系のボード線図は、下図のようになります。
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図10 2次遅れ要素系のボード線図(例)
最後にまとめです。
- 伝達関数は、系の入出力時間信号のラプラス変換の比として定義され、系のインパルス応答のラプラス変換となります。
- 通常の系の伝達関数は、実数係数の有理関数で表されることが多く、その分母の根を極、分子の根を零点と呼びます。
- 伝達関数の極や零点を解析することにより、その系の振る舞いや周波数特性などを理解することができます。
- s平面上での伝達関数の極の位置で、系の安定性や減衰特性などを評価できます。
- 系の伝達関数で、s=jωを代入することで、系の周波数特性すなわち周波数応答関数を求めることができます。
- 虚軸上の点P を移動させ(周波数をスイープさせ)、極と零点との関係を調べることにより、系の周波数特性を推測することができます。
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【参考】
原島博・堀洋一共著「ラプラス変換とz変換」数理工学社(2004年)
松村文夫著「自動制御」朝倉書店(1984年)
(2017年9月21日発行メールマガジンより抜粋)