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計測に関するよくある質問から- 第15回 「周波数軸微積分と低周波ノイズ」

当計測コラムでは、当社お客様相談室によくお問い合わせいただくご質問をとりあげ、回
答内容をご紹介しています。

振動を測定するためのセンサには様々な種類のものがあり、測定する物理量に応じて変位
センサ、速度センサ、加速度センサに分けられます。圧電式の加速度センサは接触式であ
り、計測が比較的簡単で安価ですが、測定できる物理量は加速度です。速度や変位を測定
する場合は、加速度センサから得られた信号を時間軸波形の微積分や、スペクトルに対す
る周波数軸微積分により速度や変位に変換します。

DC(直流)オフセットや低周波ノイズが含まれている加速度信号を、周波数軸微積分により
速度や変位に変換した場合に、スペクトルの1 ライン目や低周波成分に、実際にはあり得
ないほど大きな値が表示されることがあります。

周波数軸微積分機能とは

周波数 f 、片振幅A の加速度信号の時間波形a ( t ) は式 1 で示されます。ここで、t は時刻
です。

           a(t)=A×cos( 2πft )                  式 1

速度波形v ( t ) 、変位波形x ( t ) は式 2、式 3 のように加速度波形を一重積分、二重積分して
求めることができます。

  • 周波数軸微積分機能とは_NO.1

式 2

  • 周波数軸微積分機能とは_NO.2

式 3

速度の片振幅をV 、変位の片振幅をX とすると、式2、式3 から、式4、式5 が得られます。

  •  周波数軸微積分機能とは_NO.3

式 4

  • 周波数軸微積分機能とは_NO.4

式5

加速度のパワースペクトルを速度や変位のパワースペクトルを求める場合、各成分の周波
数が分かっていますので式4、式5 を使い、加速度の値を速度や変位の値に換算すること
ができます。当社解析装置の周波数軸微積分機能はこの方法で速度・変位への換算をおこ
なっています。

DC(直流)オフセットについて

FFT アナライザ等の解析装置は、電圧信号をA/D 変換器によりデジタルデータに変換して
います。解析装置への入力が0V であれば、変換後のデジタルデータは0 になるべきです
が、アナログ回路やA/D 変換器の特性によりわずかに値がずれてしまいます。このずれ量
をDC(直流)オフセットと呼んでおり、当社のCF-9000 シリーズFFT アナライザや、DS-3000
シリーズデータステーションでは、電圧レンジの1/1000 以下です。

DC オフセットが1 mV ある場合、入力が0 であっても、1 mV 一定の信号が入っているか
のように表示されます。感度が1 mV/(m/s2)の加速度検出器を使っている場合、時間軸波形
をみると1 m/s2 一定の加速度が発生しているかのように表示されます。

1 m/s2 一定の加速度信号を生成し、そのパワースペクトルを求めた結果を図1 に示します。
周波数レンジは50 Hz、サンプル点数は2048 点、窓関数はハニングで分析しました。FFT
フレームの時間長は16 秒、周波数分解能は0.0625 Hz となる設定です。パワースペクトル
は0 Hz~2 Hz を拡大表示しています。0 Hz 成分の大きさは1 m/s2 ですが、窓関数(ハニング)の影響で0 Hz の1 ラインとなりの0.0625 Hz 成分の大きさが0.707 m/s2 になっています。これは実際に発生している加速度ではなく、DC オフセット(誤差)により現れた成分です。

  • mg-measuremen図1 1 m/s2一定の加速度信号の時間軸波形(上段)とパワースペクトル(下段)t-column-20171024-04
    図1 1 m/s2一定の加速度信号の時間軸波形(上段)とパワースペクトル(下段)

図1下段の加速度パワースペクトルを周波数軸微積分機能により速度および変位のパワースペクトルに変換したものを図2に示します。0 Hz成分は速度・変位の変換ができないため0になっています。0.0625 Hz成分の速度の大きさは1.801 m/s、4.585 mとなっています。これは実際に発生している速度・変位ではありません。

  • 図 2 1 m/s2 一定の加速度信号の速度パワースペクトル(上段)と変位パワースペクトル(下段)
    図 2 1 m/s2 一定の加速度信号の速度パワースペクトル(上段)と変位パワースペクトル(下段)

解析装置がわずかなDC オフセット(誤差)を持っている場合、実際には発生していない加速
度値があらわれます。周波数軸微積分機能よる速度・変位への変換(式 4、式 5)には、2πf
での割り算が入っているため、低い周波数成分の速度・変位の値は実際にはあり得ないほ
ど大きな値になります。

周波数軸微積分機能により積分して得られた速度および変位のパワースペクトルの1 ライ
ン目に、非常に大きな速度・変位の値が表示された場合、それは実際に発生している振動
ではなく、解析装置の誤差が周波数軸微積分演算により強調されてしまったものである可
能性が高いです。

当社解析装置は、時間軸前処理の1つとしてDC キャンセル機能をそなえており、この機能
を有効にすることでDC オフセットの影響を低減させることができます。ただし、影響を完
全にゼロにすることはできません。

振り子の振動の加速度時間波形とスペクトル

振り子の重りに横向きに加速度センサをはりつけて測定した振動の加速度時間波形とパワ
ースペクトル図3 に示します。周波数レンジは50 Hz、サンプル点数は2048 点で分析しま
した。FFT フレームの時間長は16 秒、周波数分解能は0.0625 Hz となる設定です。パワー
スペクトルは0 Hz~20 Hz を拡大表示しています。

パワースペクトルによると、振動の周波数は1.313 Hzで、その振動の大きさは0.199 m/s2 です。加速度センサの周波数特性の下限は1 Hzですし、ACカップリングに設定していますので、1 Hz以下の振動は測定できません。そのため、0.5 Hz以下の成分は低周波ノイズによるものと推測できます。低周波ノイズの0.0625 Hz成分の大きさは0.108 m/s2あります。

  • 図3 振り子振動の加速度時間波形(上段)とパワースペクトル(下段)
    図3 振り子振動の加速度時間波形(上段)とパワースペクトル(下段)

図4に振り子振動の速度パワースペクトルと変位パワースペクトルを示します。いずれも周波数軸微積分機能により加速度から変換したものです。1.313 Hz成分の大きさは、速度で0.0242 m/s、変位で0.0029 m (2.9 mm)と妥当な値です。0.0625 Hz成分の大きさは、速度が0.2761 m/s、変位が0.7030 mです。低周波ノイズにより観測された周波数成分に対して、式4、式5をそのまま適用して速度・変位へ変換してしまったため、振り子の振動としてはあり得ないほど大きな値になってしまっています。

  • 図4 振り子振動の速度パワースペクトル(上段)と変位パワースペクトル(下段)
    図4 振り子振動の速度パワースペクトル(上段)と変位パワースペクトル(下段)

図4 振り子振動の速度パワースペクトル(上段)と変位パワースペクトル(下段)

まとめ

今回は、DC(直流)オフセットや低周波ノイズが含まれている加速度信号を、周波数軸微積分機能により速度や変位に変換した場合に、スペクトルの1ライン目や低周波成分に、実際にはあり得ないほど大きな値が表示されるケースを紹介しました。

FFT分析条件のサンプル点数を倍にすると周波数分解能が半分になります。周波数分解能が半分になる条件で再測定し、異常な速度・変位が発生する周波数の値が半分になるのであれば、DCオフセット(誤差)が原因である可能性が高いです。また、加速度のパワースペクトルに、加速度センサ周波数特性の下限よりも低周波数成分が観測される場合や、対象物から発生するはずのない低周波数成分が観測される場合などは、低周波ノイズが原因である可能性があります。

速度や変位に異常値が観測された場合は、周波数軸微積分機能を一旦OFFにし、加速度のパワースペクトルを確認して、原因を調べます。

速度・変位の異常値の原因が、DCオフセットや低周波ノイズであった場合は、測定条件を変えるなどして影響をへらすか、それらの値を無視して実験結果を評価します。

(2017年10月24日発行メールマガジンより抜粋)