本シリーズでは、これまで、おもにフーリエ変換(含むフーリエ級数)について述べてきましたが、今回は、その仲間とも言うべきラプラス変換とその応用についてお話します。
フーリエ変換は、時間領域の信号を周波数領域の信号(関数)に変換するもので、比較的物理的に明解です。それに対して、ラプラス変換は、実時間関数をs領域という複素数の世界に変換して、その物理的な意味は必ずしも分かりやすくはないのですが、微分方程式を機械的に解くことができ工学的にはとても便利なツールであり、電気回路や制御系の分野ではよく使われています。フーリエ変換は角周波数ω(実数)の関数(複素数データ)ですが、ラプラス変換は複素数sの複素関数となり、厳密に理解するためには複素関数論の知識が必要となります。ここでは数学的な厳密さは無視して、その特徴を概説します。
以前お話した、基礎からの周波数分析(4)-「フーリエ変換」の復習ですが、時間信号f (t)のフーリエ変換F(ω)は、
.................................(1)
ここで、ω=2πf(角周波数)f:周波数
(注意:以前は、周波数の変数はf で表しましたが、ここではωとします。)
となります。ここで、式(1)は、無限大の積分で必ずしも収束するとは限りません。例えば、
f(t)=1(直流成分)
f(t)=t(ランプ関数)
f(t)=sinωt(三角関数)
などの時間関数は、普通の意味では収束しません。(超関数であるデルタ関数が必要になります。)
ここで、無理矢理に収束させるために、f(t)にe−σ(σ>0)をかけて(σは実数)、またf(t)は時間が負の領域(t<0)でf(t)=0とすると、式(1)は
.................................(2)
となり、通常の関数は収束するようになります。ここで、複素数(σ+jω)を
s=σ+jω .................................(3)
とおくと、式(2)は
.................................(4)
となり、式(4)をラプラス変換と呼びます。すなわち、ラプラス変換は、フーリエ変換のjω(純虚数)を複素数sにまで広げ、変換積分が収束できるようにしたものと言うことができます。式(4)は、実数tの実関数f(t)を複素数sの複素関数F(s)に変換していることになります。
導出などは省略しますが、逆ラプラス変換は
.................................(5)
と定義され、これをブロムイッチ積分と呼びます。式(5)を計算するためには、複素関数論の知識(留数定理)が必要となりますが、実用上は、ラプラス変換表から求めます。
さて、式(4)において、指数関数を使う直感的な意味合いは、微積分が簡単にできるすなわち、 eatの微分はaeatでeatの積分は
となり、微積分が乗除算に置き換えられることです。これが、微分方程式を解くときに威力を発揮します。
実際によく使う時間関数f(t)のラプラス変換F(s)は、表1です。
表1 代表的な時間波形のラプラス変換表
| 時間波形 | f(t) | F(s) |
![]() |
δ(t) インパルス |
1 |
![]() |
u(t) ステップ |
![]() |
![]() |
e-a 指数関数 |
|
![]() |
sinωt 正弦波 |
![]() |
![]() |
cosωt 余弦波 |
![]() |
![]() |
e-asinωt 減衰正弦波 |
![]() |
例として、正弦波のラプラス変換を求めてみましょう。
オイラーの公式より、
だから
(注意)上式が収束するためには、複素数sの実数部が正、すなわちRe(s)>0であることが必要です。
この例のように、一般にラプラス変換は無限積分で定義されているから、収束条件が必要になります。しかし、一度複素領域(s領域)に変換されたF(s)は、値が定義されない点(例えば、表1の2行目のステップ波形では、s=0)を除いて、複素平面(s平面)上のすべての領域で有限な値を持つことになります。
この特徴が複素関数に変換した大きなご利益です。(複素関数論の解析接続と呼ばれる手法で拡張できます。)このことから、ラプラス変換の収束域は、実用上あまり気にすることなく扱って良いことになります。
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図1 時間領域(t領域)と複素領域(s領域)
さて、微分方程式を解く前に、時間関数f(t)の微分と積分のラプラス変換を求めておくことが必要です。詳しい説明は省略しますが、以下となります。
.................................(8)n重積分
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図 2 1 次のローパスフィルタ
微分方程式を解く例題をやってみましょう。図2で、入力x(t)にステップ波形を
入力したときの応答時間波形y(t)を求めます。
図2で、電流をiとすると
Ri+y(t)=x(t) .................................(9)
iを消去すると
.................................(10)
ラプラス変換をして(初期値を0として)
RCsY(s)+Y(s)=X(t) .................................(11)
より表
だから
(T=RCとおいて)
.................................(12)
ラプラス変換表を参照して
表1のフィルタにステップ波形(図3の上図)を入力すると、図3の下図のようになります。これをステップ応答(またはインデシャル応答)と呼びます。
また、T(=RC)は時定数と呼ばれ、出力が入力の63.2 % に達する時間で、T が小さいほど、立ち上がり応答が速く過渡応答の減衰が速くなります。
ラプラス変換により微分方程式を解く方法は、変換されたs領域では、式を代数演算のように扱ってよく、ラプラス変換表を使ってほとんど機械的に解を求めることができます。
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図3 図1のフィルタのステップ応答
この例にあるように、ラプラス変換を使って微分方程式を解くことにより、電気系や機械系の過渡応答を求めることができます。
次回は、伝達関数と周波数応答に関して話します。
最後にまとめです。
- ラプラス変換は、微分方程式を機械的に解くことのできるツールで、電気回路や制御系での分野によく使われています。
- ラプラス変換は、フーリエ変換のωjを複素数sにまで広げ、変換積分が収束できるようにしたものと言うことができます。
- ラプラス変換と逆ラプラス変換は、通常はラプラス変換表から簡単に計算できます。
- ラプラス変換により微分方程式を解く方法は、変換されたs領域では、式を代数演算のように扱ってよく、ラプラス変換表を使ってほとんど機械的に解を求めることができます。
- ラプラス変換を使って微分方程式を解くことにより、電気系や機械系の過渡応答を求めることができます。
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【参考】
原島博・堀洋一共著「ラプラス変換とz変換」数理工学社(2004年)
日野幹雄著「スペクトル解析」朝倉書店(1977年)
(2017年7月25日発行メールマガジンより抜粋)










