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計測に関するよくある質問から- 第13回 「時定数について」

当計測コラムでは、当社お客様相談室によくお問い合わせいただくご質問をとりあげ、回答内容をご紹介しています。

騒音計や振動レベル計で音や振動の大きさを測定する際や、解析装置によりリアルタイムオクターブ解析(RTA解析)をおこなう際の設定パラメータの1つに "時定数" があります。

音や振動の瞬時波形は、細かく上下(プラスマイナス)にふれる波形ですので、瞬時波形そのものから音や振動の大きさを読み取ることはできません。音や振動の大きさを評価する場合は、瞬時波形から“実効値(2乗平均値の平方根、root mean square value, RMS)”を求め、さらに "実効値" をレベル化(デシベル値に変換)した値で評価します。

瞬時波形から“実効値”を求める方法には何通りかありますが、そのうちの1つに実効値検波動特性回路を使う方法があります。“時定数”はこの回路の特性を定めるパラメータの1つです。

実効値とは

実効値は2乗平均値の平方根とも呼ばれ、時間波形の2乗値をある時間にわたって平均し、平均値の平方根をとった値です。

時間波形をx(t)、平均時間をTとすると実効値Xは式1で与えられます。

  • 計測に関するよくある質問から- 第13回 「時定数について」_No.1

(式 1)

サンプリング間隔τでサンプリングされたデータをxi=x(iτ)、データ点数N=T/τとすれば、実効値は式2で計算できます。

  • 計測に関するよくある質問から- 第13回 「時定数について」_No.2

(式 2)

音や振動の大きさを評価する場合は、得られた実効値をレベル化(デシベル値に変換)し、
dB単位の値L で評価します。デシベル値への変換は式3 または式 4 でおこないます。実効
値X からデシベル値を求める式は式 3 です。ただ、式1、式2 では平方根をとって実効値
を求めていますので、平方根をとる前の実効値の 2 乗値 X2から 式 4 を使って求めた方が
計算は楽になります。ここで、X0は dB基準値で、音の場合は20 μPa です。振動を評価
する際のdB基準値は規格により異なります。

  • 計測に関するよくある質問から- 第13回 「時定数について」_No.4

(式 3)

  • 計測に関するよくある質問から- 第13回 「時定数について」_No.5

(式 4)

音についてA 特性音圧レベル、C 特性音圧レベルを求める場合や、振動について振動レベルを求める場合は、音・振動の信号にそれぞれの周波数重み特性を持ったフィルタをかけて得られた時間波形について、式1~4を使い、実効値、デシベル値を求めます。なお、今回の計測コラムでは、周波数重み付け特性の詳細については割愛します。

実効値の算出

音・振動などの信号をサンプリング(A/D変換)して得られた時間波形があれば、式2 から実効値を算出する事ができます。ただ、時間波形全体から実効値を算出してしまうと、波形全体の実効値はわかりますが、実効値の時間変化はわかりません。

実効値の時間変化を求めるための方法として思いつく単純な方法が(1)時間分割によるものです。時間波形を例えば125 msごとに分割し、長さ125 msの時間波形から実効値を求め、それを横軸時間でプロットする方法です。

(2)は後述する実効値検波動特性回路により実効値を求める方法です。この方法はあくまで近似的な方法ですが、実際には広く使われています。“時定数”はこの回路の特性を定めるパラメータです。時定数の値としては、音圧レベルの測定では125ms、振動レベルの測定では630 ms等がよく使われます。

シンフォニー音の時間波形から、(1)時間分割による方法、(2)実効値検波動特性回路よる方法の2 通りで、実効値の時間変化を求めた結果を図 1 に示します。時間分割は125msごと、動特性回路の時定数は125msとしました。

  • 図1 シンフォニー音の時間波形と実効値
    図1 シンフォニー音の時間波形と実効値

上段: 時間波形
中段: (1)時間分割による方法で求めた実効値(分割間隔: 125ms)
下段: (2)実効値検波動特性回路より求めた実効値(時定数: 125ms)

(1)の方法では、時間波形をサンプリング(A/D変換)して数値データを求め、その数値データから実効値を算出しています。A/D変換器が登場し、ディジタル信号処理が普及した今日であれば簡単な処理ですが、アナログ回路だけでこの処理を実現するにはかなり複雑な回路が必要です。

(2) の実効値検波動特性回路を使った方法は近似的な方法ですが、抵抗(R)、コンデンサ(C)などを使ったアナログ回路で容易に実現することができるため、広く使われています。時間波形をサンプリング(A/D変換)して得られた数値データから算出する場合も、規格に定められた方法であること、アナログ回路で測定した結果との互換性をとるため、このように求めた方が人の感覚とよくあう、といった理由から、実効値検波動特性回路に相当する数値計算をおこなって実効値を求める方法が広く使われています。

RC直列回路

実効値検波動特性回路のベースになる回路はRC直列回路で、抵抗(R)とコンデンサ(C)
を直列に接続した回路です(図 2)。ここで、τ = RCがこの回路の時定数と呼ばれる値です。

  • 図2 RC直列回路
    図2 RC直列回路

RC直列回路に、1 周期だけの矩形波パルスを入力したときのRC直列回路の応答波形を図3に示します。パルスが入ってから時定数τ [秒] 後に約0.63 になり、指数関数的に1 に近づきます。パルスがとぎれたあとはτ [秒] 後に約0.37 になり、指数関数的に0 に近づいていきます。

  • 図3 矩形波パルス(青)に対するRC直列回路の応答波形(赤)
    図3 矩形波パルス(青)に対するRC直列回路の応答波形(赤)

実効値検波動特性回路

上述のRC直列回路と、時間波形を2 乗する回路を組み合わせると、入力信号の実効値を出
力する回路を作ることができます。

実効値検波動特性回路を使い実効値を求め、レベル化(デシベル値に変換)する処理のブ
ロック図を図4 に示します。音や信号の時間波形を2 乗し、RC直列回路に通すと実効値の
2 乗値が得られます。図4 では、実効値の2 乗値を対数演算回路に入れてレベル化(デシベ
ル値に変換)しています。

実効値検波動特性回路を使い実効値の値を求めるには、RC直列回路の出力の平方根をとる
必要があります。ただ、対数演算回路でレベル化する場合は、平方根をとらずに実効値の2
乗値をそのまま対数演算回路に入力したほうが回路が簡単になるため、2 乗値をそのまま対
数演算回路に入力します。

  • 図4 実効値検波動特性回路と対数演算回路
    図4 実効値検波動特性回路と対数演算回路

実効値検波動特性回路と出力波形

25 Hz の正弦波に対する実効値検波動特性回路の出力波形を図5 に示します。表示範囲は0.5
秒間です。上段は25 Hz、片振幅1 Pa の正弦波波形、中段はその2 乗値、下段は実効値検波
動特性回路の出力で、実効値の2 乗値です。動特性回路の時定数は125msとしました。

図5 実効値検波動特性回路と出力波形図5 実効値検波動特性回路と出力波形
上段: 25Hz 正弦波、中段: 正弦波2 乗波形、下段: 実効値2 乗値

  • 図5 実効値検波動特性回路と出力波形 上段: 25Hz 正弦波、中段: 正弦波2 乗波形、下段: 実効値2 乗値

    図5 実効値検波動特性回路と出力波形
    上段: 25Hz 正弦波、中段: 正弦波2 乗波形、下段: 実効値2 乗値

実効値検波動特性回路による実効値の算出は近似的な方法です。入力信号の周波数が低い
と得られる実効値の値はわずかに変動します。図5 では、入力波形は片振幅1 Pa ですので、
実効値は0.707 Pa、実効値の2 乗は0.5 Pa2、音圧レベルは90.97 dBになるはずです。実際
の出力波形は約0.487~0.513 Pa2 の範囲で変動しています。音圧レベル値に換算すると変動
は90.86~91.08 dBです。

この変動は入力信号の周波数が高いと小さくなります。図5 の例は音としては非常に低い
周波数である25 Hz の正弦波による例です。通常の音はもっと高い周波数成分を持ちますの
で、動特性回路により得られた値の変動はあまり問題になりません。

また、動特性回路の時定数を長くすると変動は小さくなります。図5 の例について、時定
数を1 s にした場合の変動は音圧レベル換算で90.88~90.93 dBと、125msの場合に比べて
小さくなりました。

まとめ

今回は、騒音計や振動レベル計で音や振動の大きさを測定する際や、解析装置によりリア
ルタイムオクターブ解析(RTA 解析)をおこなう際に使用される実効値検波動特性回路と、
その設定パラメータの1 つの“時定数”を紹介しました。

また、実効値検波動特性回路により時間波形の実効値やデシベル値を求める方法は、近似
的な方法で、信号の周波数が低いと、実効値やデシベル値が変動してしまうこともご紹介
しました。この変動は、動特性回路の時定数を長くすると小さくなります。

なお、今回は実効値検波動特性回路のパラメータを“時定数”として紹介しましたが、
音・振動等の規格においては、時間重み付け特性、動特性といった用語が用いられます。

(2017年6月21日発行メールマガジンより抜粋)