今回から、周波数分析器であるFFTアナライザで最も重要な応用分野の1つである振動計測の基礎についてお話しします。質量、長さ、温度、圧力などの通常の静的な物理量と違って音や振動には、周波数(または振動数)という軸を考える必要があります。周波数とは波動現象としての音や振動が繰り返す速さで、その値によって振動の強さが変化します。ここでは、主に固有周波数(または共振周波数)と減衰比について、説明します。
振動は、自由振動、強制振動、自励振動などの複雑な振動に分けることができますが、ここでは複雑な振動は取り上げません。
自由振動は、叩いたり押して離したりするなどの初期的な外力を与えると、その後外力無しでも特定の速さ(周波数)で振動する現象です。それに対して、強制振動は、常に外力が働き、その外力と同じ周波数で振動し続けます。エンジンやモーターなど通常の回転機械などの振動は、強制振動です。
自由振動は、通常すぐに振動がおさまり実用的には問題を生じないが、機械の動特性すべてが現れ強制振動などの基本となる現象ですから、今回は、自由振動についてお話します。
まず、振動の大きさの表現についてです。
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図1 ばねとおもりの運動(単振動)
図1で、ばねに取り付けたおもりを引っ張って急に話すと、おもりは一定の周波数(あるいは周期)で、減衰がなければ無限に繰り返し運動をします。おもりの位置(変位)軌跡を横軸時間に取って描くと、図1にあるように正弦波となり、この運動を特に単振動と呼びます。
その速度は単位時間にどれだけ位置が変化するかを表した量、加速度は単位時間に速度がどれだけ変化するかを表した量なので、おもりの変位をx(t)、速度をv(t)、加速度をa(t)とすると、図2のように、それらは微分積分の関係にあります。
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図2 変位と速度と加速度との相互関係
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図3 変位波形・速度波形・加速度波形の時間関係
.................................(1)
.................................(2)
単振動(正弦波)の変位波形、速度波形、加速度波形は図3のようになり、変位波形は加速度波形と比較して180度位相が遅れる、すなわち、位相が反転した形となります。
次に、自由振動が生じる仕組みについて話します。
複雑な機械も図4のように、質量mの質点が、ばね定数kのばねと減衰力cのダンパ(減衰器)につながっているモデルを考えます。このモデルを1自由度振動系と呼びます。
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図4 1自由度振動系のモデル
まず、簡単のために、図5のようにダンパがない(c = 0)場合を考えます。
図5において、振動のない状態からxだけ変位した時、質点はばねからkxの復元力(変位の方向に対しての抵抗力)を受けるから、質点mの運動方程式は;
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図5 1自由度不減衰振動系
あるいは、質量に加速度をかけた量を慣性力(抵抗力)とみなして、外力と内力との力の釣り合いと考えると、自由振動では外力= 0ですから;
と書くことができ、式(3)と等価な運動方程式となります。式(4)は、時間の関数である変位(t)に関する2階の微分方程式であり、その2階微分が自分自身に係数を掛けたものに等しくなる関数は、三角関数か指数関数しかありえない事になります。
詳細は省きますが、式(4)から変位x(t)は;
ここで、Cとαは初期条件で決まる定数;
固有角振動数.................................(6)
固有振動数.................................(7)
このように、自由振動は最初の振幅などの初期条件には関係なく、ばね定数kと質量mにのみ決まる固有振動数(式(7))で振動して、これ以外の振動数では振動しません。
ばね定数kのように変位に比例した復元力の性質を、剛性またはこわさといいます。
一般に、剛性は振動を速くさせようとする性質を持ち、質量は振動を遅くさせようとする性質をもち、固有振動数は、両者のせめぎあいでバランスがとれた周波数ということができます。
式(4)は、エネルギー的な観点からも導くことができます。自由振動は、ばねに貯まった弾性エネルギー(歪みエネルギー)が運動エネルギーに変わりそしてその逆の繰り返しの現象であるから、エネルギー保存則により;
一定.................................(8)
両辺を時間で微分すると;
.................................(9)
すなわち;
と、式(4)を同じとなります。
次に、減衰がある自由振動を考えます。すなわち、図4において、ダンパcが0でない場合です。一般にダンパは、速度v(t)に比例した粘性抵抗力を持つので、エネルギー損失を伴うこの内力を加えて、粘性減衰自由振動の運動方程式は;
となります。cを粘性減衰係数と呼びます。
式(11)を変形して;
...............................(12)
とします。ここで;
...............................(13)
...............................(14)
さて、式(12)の微分方程式を解くことになりますが、式(14)の減衰比ζの値によって振動するか否かが決まります。ζが1以上の時は振動しなくて、ζが1未満(ζ<1)の時、自由減衰振動します。
ここで;
...............................(16)
減衰固有角振動数
減衰率
このように、減衰比ζの役割は、振動を止める(振動エネルギーを熱エネルギーに変換する)だけでなく、自由振動する振動数を低くします。
減衰比ζが1となるとき、振動するか否かが決まり、その時は、式(14)から粘性減衰係数cがm√ k 2と等しいときなので、この値を臨界減衰係数と呼びます。
減衰の性能を示すζは、機械だけでなく、電気制御、建築土木分野でも共通に使われていますが、その呼び方が多少違うので注意が必要です。
| 電気や制御 | 減衰係数 |
| 建築土木 | 減衰定数 |
| 機械 | 減衰比 |
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図6 減衰比(ζ)の違いによる変位波形の時間変化
機械系では、粘性減衰係数cと間違いやすいので、減衰比(damping ratio)と呼ぶのが一般的です。
最後に、まとめです。
(1) 音や振動は、静的な物理量と違って周波数(または振動数)という軸を考える必要があります。
(2) 振動は、自由振動、強制振動、複雑な振動に分類できます。
(3) ばねにつけたおもりを引っ張って離すと、その軌跡は正弦波を描き、この運動を単振動と呼びます。
(4) 振動の変位、速度、加速度は微分積分の関係にあります。
(5) 単振動の変位波形は、加速度波形と比較して,180度位相が遅れる、すなわち位相が反転します。
(6) 不減衰自由振動は、質量とばね定数などこわさだけで決まる固有振動数で振動します。
(7) 粘性減衰自由振動は、減衰比ζの値によってその挙動が決まり、ζが1未満の時、減衰固有振動数で振動しながら減衰します。
(8) 減衰比ζが1未満の時、振動を止める働きだけでなく、自由振動する振動数も低くします。
(9) 減衰比ζは、電気制御、建築土木などの分野では、機械系とその呼び方が違うので注意が必要です。
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【参考】
- 「モード解析入門」長松昭男著 コロナ社(1994年)
- 「実用振動解析入門」高橋康英、奥津尚宏、小泉孝之著 日刊工業新聞社(1983年)
(2015年7月16日発行メールマガジンより抜粋)