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基礎からの周波数分析(15)-「パワースペクトル(その3)」

本シリーズで前回までに、電気計測器としてのFFTアナライザで最も基本的で重要な関数であるパワースペクトルをその1とその2と、2回に分けて取り上げましたが、今回はその3として、演算に関する機能(オーバオール、平均機能など)を説明します。

パワースペクトルは、分析対象の時間信号x(t)に含まれる周波数毎のパワー(2乗平均値)の分布ですから、この合計値は元の信号x(t)の全パワー(2乗平均値)と等しくなります。小野測器のFFTアナライザでは、オーバオール(以下、略してOA)と呼ばれ、パワースペクトルのグラフの右端に必ず表示されています(図1参照)。

  • 基礎からの周波数分析(15)-「パワースペクトル(その3)」_No.1

これが、元の時間信号の2乗平均値(パワー)と等しくなりますので;

  • 基礎からの周波数分析(15)-「パワースペクトル(その3)」_No.2
  • 図1 周波数分析でのオーバオール(OA)とオールパス(AP)
    図1 周波数分析でのオーバオール(OA)とオールパス(AP)

周波数分析の分野では、この分析前の元の時間信号の2乗平均値(パワー)を特にオールパス(以下、略してAP)と呼ぶことがあります。音響振動の分野における汎用の振動計や騒音計などの表示値に相当します。

実際のFFTアナライザでは、前回説明した時間窓の種類により図1のバンドパスフィルタの形状が変わり、その影響で式(1)の合計値は大きめになります。そこで、時間窓の影響を補正した以下の式(3)で、計算しています。

  • 基礎からの周波数分析(15)-「パワースペクトル(その3)」_No.3

ここで、P(k):k番目のパワースペクトル
     Hf:補正ファクタ
      =2/3(ハニング)
      =1/3.671(フラットトップ)
      =1(上記以外)

ここで注意することは、式(3)でP(k)はパワー値ですので、求められたパワースペクトルがリニア値(実効値)やdB値ならば、パワー値に変換して合計する必要があります。

リニア値のパワースペクトルをL(k)とすると、そのOAのリニア値は;

  • 基礎からの周波数分析(15)-「パワースペクトル(その3)」_No.4

dB値のパワースペクトルをB(k)とすると、そのOAのdB値は;

  • 基礎からの周波数分析(15)-「パワースペクトル(その3)」_No.5

次に、平均に関して説明します。

周期信号などの確定的な信号では、基本的に平均は必要ないが、ノイズ成分の多い信号やランダム信号などに対しては、変動成分の平滑化やランダム信号スペクトルの統計的推定精度を上げる意味で平均処理は必須です。

収録した連続的な時間信号をFFTの時間窓に分割して瞬時のパワースペクトルを求め、それを多数回の集合平均を行います。図2は、FFT時間窓Tで収録時間長5Tと、5ブロックの時間窓に分割した例です。

  • 図2 連続時間信号を5ブロックの時間窓に分割した例
    図2 連続時間信号を5ブロックの時間窓に分割した例

今、N回分の平均のパワースペクトルをS(k)とすると;

この平均方法を加算平均(リニア平均、RMS平均)と呼びます。リニア平均は、後述する指数化平均に対する名前です。RMS平均は、パワー値を加算してその回数で除算する(パワー値の平均)処理という意味です。ここで、注意することは、オーバオール演算でも述べたように、必ずパワー値(振幅の2乗値)で平均すると言うことです。

詳細の説明は省きますが、FFT法によるパワースペクトルの推定精度は独立な時間窓のデータから演算されるスペクトルの集合平均の回数Nに依存して、時間窓長Tには依存しないことです。例えば、図2において、Tの時間窓FFT を5回(N=5)実行して式(6)で求めたパワースペクトルのほうが、5Tの時間窓にして1回のFFTから求めたスペクトルと比較して推定精度のばらつきがN1 倍良くなります。時間窓長が長くなるメリットは、周波数分解能がよくなるだけです。

図2では、方形(レクタングラ)窓を使った形になりますが、連続的な時間信号では通常ハニング窓を使用しますので、データをより正しくスペクトルに反映させるため、図3の下段(b)にあるように重なり合わせて時間窓を取り込みます。このような処理をオーバラップ処理と呼びます。オーバラップすることで、データの独立性は少し失われますが、同じ収録時間では平均回数が増えることになりますので、結果的に推定精度が向上します。図3は、ハニング時間窓T(そのサンプリング点数M)で収録時間5T(収録点数5M)に対して、50% のオーバラップ処理をして9回平均でき、ハニング窓でも時間データがほぼ等重みで平均処理できることになります。

  • 図3 ハニング窓をかけて50%オーバラップ処理した例
    図3 ハニング窓をかけて50%オーバラップ処理した例

その他の、平均化方法として指数平均(エクスポネンシャル平均、Exp平均)があります。加算平均のように、等重みの平均(リニア平均)でなく下記の式(7)のように重み付き平均です。指数平均スペクトルをEm(k) 、重み係数をNとすると;

  • 基礎からの周波数分析(15)-「パワースペクトル(その3)」_No.6

          k=0,1,2,・・・・・・,L L:分析ライン数

この平均は、スペクトル値が変動していくような時間信号などに使われ、指定された重み係数Nに依存する時定数で連続的に平均し続けることができます。また、前に述べた加算平均は回数N(またはある平均時間)で自動的に平均処理が終了するのに対して、この指数平均はストップするまで平均し続けます。それ故、ランニング平均と呼ばれることもあります。

最後に、まとめです。

  1. パワースペクトルの全周波数成分のパワー合計値をオーバオールと呼び、元の時間信号の2乗平均値と等しくなります。
  2. 分析しない元の時間信号の2乗平均値をオールパスと呼びます。
  3. 実際のオーバオールの計算には、時間窓の補正が必要です。
  4. 求められたパワースペクトルの結果が、リニア値やdB値ならば、パワーに変換してオーバオール計算をする必要があります。
  5. パワースペクトルの平均化方法は、主に加算平均と指数平均があります。
  6. 加算平均は、等重みの集合平均で、指数平均はある重みを持った平均です。
  7. 平均処理では、通常オーバラップ処理を行い、ハニング窓では、50%程度のオーバラップ処理することにより最適な平均を行うことができます。

【キーワード】
オーバオール、OA、オールパス、AP、加算平均、リニア平均、RMS平均、オーバラップ処理、指数平均、エクスポネンシャル平均、ランニング平均

【参考資料】

  1. 「信号処理」森下巌・小畑秀文著 計測自動制御学会(1982年)
  2. 「スペクトル解析」日野幹雄著 朝倉書店(1977年)

(2014年5月22日発行メールマガジンより抜粋)