今回は、フーリエ変換の拡張や離散フーリエ変換に欠かせない重要なツールであるデルタ関数についてお話しします。数学的には多少厳密性に欠けるかもしれませんが、ご容赦下さい。
フーリエ変換の定義式を再掲します。
式(1)は非周期的時間関数x(t)からその周波数スペクトルX(f)を求める式で、フーリエ変換、式(2)は周波数スペクトルX(f)から元の時間信号x(t)を求める式で、逆フーリエ変換と呼びます。この式(1)と(2)が有限の値を持つためには、x(t)が;
である必要があります。
単発パルス波形や過渡的な現象波形などはそのフーリエ変換を求めることができますが、直流波形や正弦波信号波形のような無限に続く信号では、上記の式(3)を満たさないので式(1)の通常の積分計算はできません。
そこで、以下の式が成り立つデルタ関数を定義します。
式(4)は、ある1点( t = t0)以外ではすべて0、式(5)はその関数を表す曲線下の面積が1であることを意味しています(図1)。現実的には、図2に示すような幅がaで高さが1/aの方形パルスを考え、その面積が1のままで幅aを限りなく0に近づけた極限の波形と考えることが出来ます。
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図1 -
図2
俗に言えば、幅が0で高さが無限大となるパルス波形の形となります。
この関数は、前期量子論の立役者ポール・ディラックが考案したもので、ディラックのデルタ関数と呼ばれていますが、電気回路や制御系ではその形の通りインパルス関数とも呼ばれます。
式(4)、(5)でt0 = 0とおくと;
δ(t)=0 t≠0
となります。
このデルタ関数に任意の微分可能な連続的な関数x(t)をかけて(-∞、∞)の範囲で積分すると、式(4)と式(5)の定義から;
を導き出すことができます。式(8)の意味するところは、デルタ関数は任意の関数x(t)においてある時点でのその関数の値を取り出すことで、デルタ関数の重要な性質の1つです。
次に、デルタ関数をフーリエ変換してみましょう。式(8)を利用して;
すなわち、デルタ関数のフーリエ変換は1(定数)となります。直感的に言えば、理想的なインパルス波形の周波数スペクトルは、その大きさ一定の無限大の周波数成分からなっているということです。
逆に、1の逆フーリエ変換は;
式(11)は通常の積分では計算出来ませんが、超関数の理論では定義できて、デルタ関数と
なります。
すなわち;
一般にデルタ関数の積分表示として;
が成り立ちます。この表現は、フーリエ変換の計算に非常に重要です。
きわめて直感的な説明となりますが、Cos波形は偶関数なので負の周波数を無視して考えると、式(13)はCos波形を低い周波数から高い周波数まで加算していくとインパルス波形に近づくことを意味しています。このことを表したのが、図.3です。
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図3 周波数fを変化させたcos波形の合成波がインパルス波形に近づく様子
次に直流成分のフーリエ変換を考えます。
x(t)=a
Cosは偶関数、Sinは奇関数ですので;
すなわち、式(14)の直流信号x(t)のフーリエ変換はa&(f)となります。これは、周波数= 0(直流分)で高さaなるインパルスと見なすことが出来ます。
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図4 直流波形のフーリエ変換
次に、周期信号である余弦波(Cos波)と正弦波(Sin波)のフーリエ変換を考えてみましょう。
x(t)=a cos(2π f0 t)
のフーリエ変換X(f)は(オイラーの公式を使って変形);
となり、実数部成分に2つのインパルスの和として与えられます(図5)。
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図5 余弦波(Cos波)のフーリエ変換
全く同じようにして;
x(t)=a sin(2π f0 t)
のフーリエ変換X(f)は;
となり、虚数部成分に2つのインパルスの和として与えられます(図6)。
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図6 正弦波(Sin波)のフーリエ変換
ディジタル信号処理では、サンプリング処理を行い、連続信号を離散化して計算します。この時、数式化にはこのデルタ関数が威力を発揮します。
最後に、まとめです。
- 直流波形や周期信号など普通の積分で計算出来ないような波形に対してもフーリエ変換出来るようにするため、インパルス波形のようなデルタ関数を式(4)、(5)で定義します(通常の関数でなく超関数として)。
- デルタ関数を利用することにより、インパルス波形や、直流信号などのフーリエ変換が求められます。
- 正弦波(余弦波)信号のような、周期信号のフーリエ変換はその周波数成分でのインパルス(デルタ関数)として表現できます。
【キーワード】
デルタ関数、ディラックのデルタ関数、インパルス関数
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【参考資料】
- 「スペクトル解析」日野幹雄著 朝倉書店
- 「高速フーリエ変換」E. ORAN BRIGHAM著 科学技術出版社
- 「ディジタルフーリエ解析(Ⅰ)-基礎編-」城戸健一著 コロナ社
(2012年9月22日発行メールマガジンより抜粋)