今月は、身近な物の測定事例として、振り子の振動を測定した事例をご紹介します。
振動の大きさの評価量には、震度、振動レベル、振動加速度、振動速度、振動変位などがありますが、直感的で理解しやすい評価量は振動変位(ふれ幅)かと思います。振り子時計の振り子や、吊り下げ式電燈、ギターの弦など振動変位(ふれ幅)は、目測や定規で両振幅(peak-peak)が何 mm 程度であるか測ることができます。
他方、振動を測定する際のセンサとしてよく使われるものに圧電式加速度ピックアップがあります。センサから得られる信号は振動加速度ですので、加速度信号を見ても、振動状態のイメージが涌かない方も多いのではないかと思います。また、加速度信号を二重積分する方法は、低周波ノイズの影響を受けやすいため、得られた波形や測定値が正しいか否かを、変位信号だけではなく加速度・速度信号やそのスペクトルをみて判断する必要があります。
今回の計測コラムでは、振り子の振動を測定した結果を、データ解析ツールの積分機能を用いて求めた振動速度・振動変位の波形や、ビデオカメラの映像とあわせてご紹介します。
測定システム例
- ONO SOKKI NP-3211 プリアンプ内蔵型加速度検出器
- ONO SOKKI DS-3000 シリーズ データステーション
- ONO SOKKI 時系列データ解析ツール Oscope 2
(構成:OS-2720 FFT 解析パック、OS-0261 FIR フィルタオプション、
OS-0281 動画再生オプション) - デジタルビデオカメラ
測定対象
今回の測定対象は、「ニュートンのゆりかご」という科学玩具で、衝突球、バランスボールとも呼ばれています。写真ではボールを 3 つにして測定していますが、本来は金属ボールが 5 つ並んでいて、右端のボールを引っ張って話すと、静止しているボールに衝突した瞬間、左端のボール1つだけが左側へ弧を描いて飛んでいきます。
振り子の重りにかかる加速度、速度、変位
振り子の状態と重りにかかる加速度、速度の様子を図 1 に示します。
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図 1 振り子の状態と重りにかかる加速度・速度
重りの右横に取り付けた加速度検出器が検出する加速度は、左右(振り子が振れる方向)の加速度です。右向きの加速度がプラスの値になります。
重りが左端(角度 θ)にある状態では加速度は最大の値を示し、その値は g・sin (θ)です(g は重力加速度)。左端では、重りの速度は 0 になります。重りが中央にある状態では、加速度値は 0 になり、重りの速度が最大になります。右端にある状態では加速度は左向き(マイナス)の最大の値になります。
振り子の振幅が微小であれば、加速度(a)、速度(v)、変位(x)とも正弦波になり式 1 で表されます。ここで f は周波数です。また、加速度の振幅(A)、速度の振幅(V)、変位の振幅(X)には式 2 の関係が成り立ちます。
.................................(1)
.................................(2)
図 2 に、想的な振り子の重りにかかる加速度・速度・変位信号の波形を示します。加速度・速度・変位信号は 90 度ずつ位相がずれます。
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図 2 理想的な振り子の重りにかかる加速度・速度・変位
重りが 1 つの場合の加速度、速度、変位信号
ニュートンのゆりかごの重りを1つだけにして加速度信号を測定し、Oscope 2 の微積分機能により速度信号、変位信号を算出した結果を図 3 に示します。加速度信号には高い周波数の振動も含まれていますので、20 Hz の LPF をかけた加速度信号も示します。
なお、速度信号、変位信号の算出の際は、0.2 Hz~20 Hz の BPF をかけています。また、図 4 には各信号のパワースペクトルを示します。変位信号は比較的正弦波に近いのですが、加速度信号などはかなり歪んでいます。また、加速度信号の振幅は 0.925 m/s2(p-p)、速度信号の振幅は 0.0931 m/s(p-p)、変位信号の振幅は 11.722 mm(p-p)です。周期はいずれも約 1.31 Hz、2πf = 8.2 ですが、実測値の加速度と速度の比は約 9.94 と理論上の値から若干ずれています。
この原因ですが、加速度検出器が正確に真横を向いておらず傾いている、振り子振動のほかに重りがねじれるような振動が発生しているなどの理由が考えられます。パワースペクトルには 1 次(1.31 Hz)のほかに、2 次(2.63 Hz)、3 次(3.94 Hz)の成分が観測できますので、単一振動ではないことがわかります。
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図 3 加速度・速度・変位信号(重り 1 つの場合)
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図 4 加速度・速度・変位信号のパワースペクトル(重り 1 つの場合)
このデータを Oscope2 の信号処理機能(OS-0261 FIR フィルタオプション)の FIR フィルタを使って、着目したい信号の周波数帯域を切り出してみました。
次図を参照ください。少しの位相のずれはありますが、想定した結果になりました。
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図 5 加速度・速度・変位信号(重り 1 つの場合)
FIR フィルタ機能で 0.5 Hz 以下と 2 Hz 以上をカット
また、統計処理機能を使って、振幅を見てみると、加速度 0.74 m/s2、速度 0.089 m/s、変
位 11.1 mm となり、期待した数値になりました。
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図 6 加速度・速度・変位信号(重り 1 つの場合)
統計処理機能による振幅値
重りが 3 つの場合の加速度、速度、変位信号
重りを 3 つにした場合の加速度、速度、変位信号を図 7 に示します。
本来の「ニュートンのゆりかご」では、重りが左から衝突した瞬間、右端の重りは跳ね上がり、戻って他の重りに右から衝突した瞬間に静止しますが、今回の測定では、左右どちらから衝突した場合も同じような波形が観測されました。この原因としては、加速度検出器をつけたためにバランスがくずれたためや、衝突・静止の繰り返し動作の振幅は衝突時の加速度よりもかなり小さいため検出できなかった、などの理由が考えられます。
実験結果から、衝突時 400 m/s2 程度の加速度が発生しているのがわかります。これは、重り1つを揺らした場合の400倍の値です。一般に、衝突時には非常に大きな加速度が発生します。数 cm の位置で重りを離して衝突させると 8400 m/s2 の加速度が発生しています。これは、NP-3211 加速度検出器の最大使用加速度(4900 m/s2)よりも大きな値です。
このように衝突落下試験などでは非常に大きな加速度が発生しますので、衝撃試験等ではそれ用の加速度検出器をお使いいただく必要があります。また、加速度検出器の操作を誤り、硬いものの上に落とした場合も同様に大きな加速度が発生しますので、取り扱いには注意が必要です。
速度信号や変位信号は AC カップリングによるアンダーシュートを積分した波形になっています。実際の速度波形とはかけ離れています。加速度検出器は AC カップリングで入力されることが多いので注意が必要です。
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図 7 加速度・速度・変位信号(重り 3 つの場合)
まとめ
今回の実験においては、加速度信号を二重積分して得られる変位信号と、重りの動きが一致することを期待していたのですが、実際に測定してみると結果はかなりずれていました。積分処理では低い周波数のノイズが強調されること、振り子の周期が 1.31 Hzと加速度検出器の周波数範囲(1 Hz~10 kHz、±5%)の下限に近いなど、二重積分による変位波形の観測が難しいと予想される条件でしたが、実際、難しい測定になりました。正確に測定するには、加速度検出器を正確に固定する、暗振動を減らす、適切なハイパスフィルタを用いる(低周波ノイズをさけるため)などの対策が必要ではないかと感じました。
加速度信号を二重積分して変位を計測する方法は、低周波のイズの影響を受けやすいため、測定結果が正しいかは、変位信号だけではなく加速度信号・速度信号やこれらのスペクトルなどをみて判断する必要があります。また、正確な測定をおこなうためには、加速度検出器を正確に固定する、暗振動を減らす、適切なハイパスフィルタを用いる(低周波ノイズをさけるため)などの対策が必要になると思われます。
改訂:2012年07月03日
(2012年6月21日発行メールマガジンより抜粋)