前回に続き、今回もフーリエ級数展開に関してお話しします。
フーリエ級数展開の定義式を再記します。最初に、周期関数 x(t)の周期を T とすると;
................................(1)
ここで、ω0 は基本角周波数、f 0 は基本周波数です。
(1) 通常の三角関数による級数展開
.......(2)
.......(3)
.......(4)
.......(5)
.......(6)
(2) 複素フーリエ級数展開
.......(7)
.......(8)
上記の an と bn との関係は;
.......(9)
これらの式の意味を考えてみましょう。
式(2)の意味するところは、「どのような複雑な周期時間関数でも、その基本周波数およびその整数倍の周波数の三角関数(正弦波、余弦波)の和で表すことが出来る」というフーリエの基本的な考えそのものです。式(3)は、式(2)を単振動の合成により変形して、余弦波(周波数 、振幅 、位相 )の和として表現されています。FFT アナライザにおけるフーリエスペクトルは通常はこれに対応した数値が表示されます。
それでは、式(7)は物理的にどのような意味を持つのでしょうか?
複素指数関数(複素正弦波) は、ejnω0t一般に角周波数 nω0で単位円上を反時計回りに時間とともに回転するベクトル、 e-jnω0tは同様に角周波数 nω0で単位円上を時計回りに時間とともに回転するベクトルを表します。図 1 にあるように、2 つのベクトルは必ず実軸に対して対称(両者は複素共役)となるので、その和は実数となります。
-
図 1 複素平面上での複素正弦波
次に、式(7)における複素係数 c n ですが;
.....(10)
とおけるので、Xn は回転するベクトルの振幅、 は回転するベクトルの初期位相(時間信号で t = 0 における位相、回転ベクトルのスタートの位置)を表すことになります。
ここで、角周波数 における反時計回りと時計回りの両ベクトルを加算すると;
..(11)
となり、通常の三角関数のフーリエ級数展開の式(3)と等しくなります。
式(7)を書き直すと;
...............................(12)
式(12)は、振幅が
、初期位相が n、角周波数 nω0 (周期
)で反時計回り(n > 0)及び時計回り(n < 0)で回転するベクトルの和を求め、それをさらに角周波数毎のベクトルの総和をとったものであることを意味しています。
例として、n=1、Xn=10、-π/30(-60 deg)のベクトルは図 2 のようになります。
図 2 は時間 t = 0 の初期位相状態でのベクトルを表示しています。
-
図 2 正負ベクトルの合成とその軌跡
【注意】
角周波数 ω の符号は回転方向を表していて正(プラス)は反時計回り、負(マイナス)は時計回りを意味しています。また、位相の符号ですが、反時計回りの回転方向を基準にして、正(プラス)は位相が進んでいる、負(マイナス)は位相が遅れていることになります。図 2 のように正負の両ベクトルを合成したベクトルは必ず実軸上にあり、その点の軌跡は
だけ遅れた余弦波形となります。
フーリエ級数展開は時間信号を周波数領域で表現する、すなわち周波数スペクトルを求めることになりますから、式(8)のcnを複素フーリエ係数(複素フーリエスペクトル)、Xnを振幅スペクトル、 nを位相スペクトルと呼びます。
それでは、具体的に、周期関数のフーリエ級数展開を計算してみましょう。
[具体例 1]
-
図 3 鋸歯状波
上図のような周期 T の鋸歯状波;
...............................(13)
を級数展開します。
図 3 の鋸歯状波は明らかに奇関数ですので、フーリエ係数はサイン項の だけを計算すれば良く;
よって、鋸歯状波式(13)のフーリエ級数展開は;
.(14)
となります。
ここで、式(13)の両辺に T/4 を代入すると、左辺は 1/2 ですから;
これから;
...............................(15)
とライプニッツの公式を導き出すことができます。
[具体例 2]
-
図 3 放物線
上図のような放物線;
...............................(16)
を級数展開します。
この例では偶関数ですから、フーリエ係数はコサイン項の a n だけを計算すれば良く;
また;
ですから、放物線式(16)のフーリエ級数展開は;
..(17)
式(17)の両辺に t = 0 を代入することにより;
...............................(18)
の関係式が得られます。ここで、式(18)の右辺を S とおくと;
S の値は π2/12 ですから、結局;
...............................(19)
となります。
式(19)の自然数の逆数の 2 乗和を求める問題は、昔から「バーゼル問題」と呼ばれ、
18 世紀にオイラーによって解かれました。この問題を 19 世紀に一般化させたのが
リーマンのζ関数です。
すなわち、s を複素数とすると;
...............................(20)
式(19)から、s = 2 の時の値は;
となります。
最後に、フーリエ級数展開のまとめです(図 5)。
- 周期 T の連続時間信号に適用する。
- 周波数スペクトルは、基本周波数 f 0( = 1/T) 及びその整数倍からなる離散的な間隔で無限に並ぶ。
- 複素フーリエ級数展開では、正負の周波数が存在してその値は複素共役の関係となる。すなわち、Xn=X-n n=- -n。
-
図 5 周期時間信号の複素フーリエ級数(振幅)
------------------------------------------
【参考資料】
- 「信号処理」森下巌、小畑秀文共著 計測自動制御学会
- 「スペクトル解析」日野幹雄著 朝倉書店
(2012年5月24日発行メールマガジンより抜粋)