今月は、身近な物の測定事例として、コーヒー缶の固有振動数・減衰比(ダンピングファクター)を計測した事例をご紹介します。
機械が稼動していれば振動は避けられない現象ですが、振動は不快なだけでなく故障の原因ともなりますので、予め十分な検討を行い、振動を起こさないあるいは減らすための対策を施すことが重要となってきます。とりわけ共振という現象は、たとえ小さな外力であっても大きな振動を引き起こす事がありますので、機械・構造物やその部品の固有振動数・減衰比を把握し、適切な減衰を組み込むなどして振動を許容レベル以下に抑えるような設計が必要になります。
打撃による製品・部品の固有振動数・減衰比の計測は簡便な方法ですが、正しい測定をおこなうにはノウハウや練習が必要です。コーヒーなどの缶(中身入り、空き缶)は、いくつかの固有振動数を持ち、測定も容易です。今回は、固有振動数・減衰比計測の練習・教育用の題材として、コーヒー缶の事例を紹介します。
測定システム例
- ONO SOKKI NP-3211 プリアンプ内蔵型加速度検出器
- ONO SOKKI GK-3100 インパルスハンマ
- ONO SOKKI DS-3000 シリーズ データステーション
- ONO SOKKI DS-0321 FFT 解析機能(ソフトウェア)
- パソコン
固有振動数・減衰比の測定には、(1)周波数応答関数からの半値幅法による減衰比の測定や、(2)ヒルベルト変換を使った減衰比の測定などの方法があります。(1)の測定にはインパルスハンマ等が必要ですが、(2)の測定の場合には、木槌・鉄球など(練習用途であれば爪や鉛筆など)で測定が可能です。
FFT アナライザの設定(一例)
- CH.1 にインパルスハンマ、CH.2 に加速度検出器を接続します。インパルスハンマを使用しない場合は CH.1 に加速度検出器を接続します。
- サンプル条件は内部サンプル、サンプル点数は 2048 点にしておきます。
- 周波数レンジは、想定される固有振動数の 2 ~ 10 倍程度と高めの値に設定しておきます。
- インパルスハンマ、加速度検出器が CCLD(定電流源)タイプの場合、CCLD の設定を ON にします。
- 電圧レンジは一旦小さめに設定し、実際に打撃して入力オーバーが起こる場合は 1段ずつあげていきます。電圧レンジの調整にオートレンジ機能を使った場合は、使用する電圧レンジが決まった時点でオートレンジ機能をオフにします(無信号の間に電圧レンジが下がってしまうのを防ぐため)。
- トリガ源は CH.1、トリガポジションは-128(プレトリガ)に、トリガレベルは 10%程度に設定しておき、必要があれば信号にあわせて調整します。
- 単位・校正には、インパルスハンマ、加速度検出器の感度を設定します。
- 窓関数はレクタンギュラに設定します。・ 平均化モードはパワースペクトル・加算平均とします。平均回数は 4 ~ 10 回程度でよいと思います。
- インパルスハンマを使う場合、時間軸波形(CH.1, CH.2)、パワースペクトル(CH.1,CH.2)、周波数応答関数(CH.1-2)、コヒーレンス関数(CH.1-2)の計 6 つのグラフを表示しておきます。インパルスハンマを使わない場合は、時間軸波形、パワースペクトル、ヒルベルト変換の計 3 つのグラフを表示しておきます。
- 時間軸波形の Y 軸スケールはデフォルトに設定しておきます。これは電圧レンジに対する余裕度を把握するためと、トリガレベルを調整しやすくするためです。
周波数レンジとサンプル点数は、実際に打撃して時間波形・パワースペクトルを見て調整します。あきらかに高い周波数成分がない場合は周波数レンジをさげます。また、時間波形を見て減衰波形が FFT 時間窓長の中でおさまっていない場合も周波数レンジをさげるか、サンプル点数を増やします。
周波数レンジを下げると FFT 時間窓長が長くなります。例えば、200 Hz レンジ、2048 点では FFT時間窓長は 4秒になりますので、1回打撃してから 4秒以上待つ必要があります。また、周波数レンジを下げれば下げるほどトリガレベルの調整が難しくなりますので、必要以上に周波数レンジを下げるのは避けてください。
インパルスハンマチップの選定
インパルスハンマはその先端のチップを交換する事で、加振周波数特性を変化させることができます。測定したい固有振動数の帯域まで周波数特性がのびている必要がありますが、硬すぎるチップを使うと必要ない高い周波数成分まで発生してしまうので、電圧レンジ・トリガレベルなどの調整が難しくなり、また、S/N が悪くなります。
インパルスハンマのチップを、ソフトチップ(緑)、プラスチックチップ(青)、ハードチップ(オレンジ)にしたときの時間軸波形とパワースペクトルを下図に示します。
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図 1-1 インパルスハンマの時間軸波形(ソフト/プラスチック/ハードチップ)
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図 1-2 インパルスハンマのパワースペクトル(ソフト/プラスチック/ハードチップ)
測定結果
1. ヒルベルト変換による減衰率測定 その 1(コーヒー空き缶)
コーヒーの空き缶(185g 入りスチール缶)の側面に加速度検出器をつけ、プルタブにつけた糸でつるし、コーヒー缶底面の淵をインパルスハンマ(プラスチックチップ)で打撃し、850 Hz と 1400 Hz のピークを固有振動数であるとみなして、ヒルベルト変換により固有振動数と減衰比(ダンピングファクター)を測定した結果を図 2 に示します。
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図 2 固有振動数・減衰比の測定結果(コーヒー空き缶)
2. ヒルベルト変換による減衰率測定 その 2(中身入りコーヒー缶)
中身入りのコーヒー缶(190g 入りスチール缶)の側面に加速度検出器をつけ、プルタブにつけた糸でつるし、コーヒー缶底面の淵をインパルスハンマ(プラスチックチップ)で打撃し、556 Hz と 1188 Hz のピークを固有振動数であるとみなして、ヒルベルト変換により固有振動数と減衰比(ダンピングファクター)を測定した結果を図 3 に示します。
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図 3 固有振動数・減衰比の測定結果(中身入りコーヒー缶)
3. 周波数応答関数による減衰率測定(中身入りコーヒー缶)
上記 2 項と同じ条件で、周波数応答関数により固有振動数と減衰比(ダンピングファクター)の測定した結果を下記に示します。なお、サンプル点数は8192点に変更して測定しています。
- 固有振動数:548 Hz、減衰比:0.887%、損失係数:1.774%
- 固有振動数:1195 Hz、減衰比:0.741%、損失係数: 1.481%
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図 4 固有振動数・減衰比の測定結果(中身入りコーヒー缶)
以上のような方法で、コーヒー缶の固有振動数と減衰比(ダンピングファクター)を測定する事ができました。こういった測定を振動測定の練習・教育や、測定機器の動作確認に役だてていただければと思います。
なお、減衰比などの係数や、その測定方法については、次の資料もご参照ください。
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【参考資料】
CF-7200「ヒルベルト変換を使った減衰比ζ(Dampダンピングファクター)の測定」
CF-7200「打撃試験で周波数応答関数を測定する操作手順」
DS-0221 「ヒルベルト変換を用いた時間軸波形の対数減衰率・減衰比の測定」
(2012年4月19日発行メールマガジンより抜粋)