本文にスキップする

Select your region & language

Global

Region

2乗平均値や実効値が使われる理由

前々回の「信号の実効値とパワーについて」に続いて、FFTアナライザのユーザから良く来る質問を取り上げます。

時間信号の大きさ(強さ)を表す量として、なぜ2乗平均値あるいは実効値を用いるのか?また、平均としてなぜパワー平均が使われているのか?

音や振動などの物理センサからの時間信号は、交流信号で大きさ(強さ)を表す振幅は瞬時に変動する波形となりますので、通常は時間平均処理をして信号の大きさ(強さ)の値を決定します。DC成分のない交流信号をそのまま平均すると0となってしまい大きさを算出することは出来ないので、平均方法としては通常、絶対値をとって平均する(これを以下絶対値平均と呼ぶ)、または、2乗して平均したあとで平方根をとる(これを以下実効値と呼ぶ)方法が考えられます。交流信号の最も基本的な信号は正弦波ですので、正弦信号で具体的に計算してみたいと思います。

まず、基本周期T(周波数f = 1/T )の正弦波を;

.................................(1)

と表すと、下記のように簡単に計算できます。

絶対値平均

  • mg-measurement-column-20111125-00

実効値

  • mg-measurement-column-20111125-01

【注意】(1)式に関して、2つの方法の平均を求める定義式は以下です。

絶対値平均

  • mg-measurement-column-20111125-02

................................(2)

実効値

  • mg-measurement-column-20111125-03

.................................(3)

この場合では、どちらの方法でも振幅Aに対応(比例)した平均値として算出できます。また、もちろん平均をとるまでもなく振幅Aそのものを代表値として採用しても構いません。

次に、以下(4)式のような2つの複合した正弦波を考えます。

................................(4)

(4)式の絶対値平均を解析的に求めるのは困難なので、表計算ソフトで具体的な値で数値計算してみます。

(4)式でA1 = 3,A2 = 2として、周波数と位相を変化させた例を計算します。

例1「周波数を変化させた場合(ϕ=0 °とする)」

①f1 = 1、f2 = 2の時(図1)
絶対値平均 2.220
実効値 2.550

  • 図1
    図1

②f1 = 1、f2 = 3の時(図2)
絶対値平均 1.869
実効値 2.550

  • 図2
    図2

例2「位相を変化させた場合( f1 = 1、f2 = 2とする)」

①ϕ=0°の時(図1)
絶対値平均 2.220
実効値 2.550

  • 図1
    図1

②ϕ=90°の時(図3)

絶対値平均 1.988
実効値 2.550

  • 図3
    図3

この例から分かることは、振幅が一定の2つの単一正弦波の複合時間信号の絶対値平均は(4)式の周波数や位相によって大きく変化すると言うことです。

それに対して、実効値は複合した成分の周波数や位相などに依存せずに一定です。実効値の計算は(3)式から簡単に計算により求めることが出来ます。

(3)式から、実効値は;

  • mg-measurement-column-20111125-08

........................(5)

と振幅だけから計算できます。

その計算方法は、各々の正弦波の実効値の2乗の和の平方根となり、上記の計算結果とも一致します。このように、合成波の実効値も任意の時間信号に含まれる正弦波の振幅だけに依存する量となりますので、信号の大きさ(強さ)を表すのに適していることが分かります。

次に、実効値の物理的な意味について考えてみます。

電気での分野では、例えば交流100Vの電源というように、大きさ表現は実効値で表現します。この例では、100Vは実効値を意味しています(実効値の説明は、参考資料の計測コラムを参照下さい)。

一般に実効値V(ボルト)の交流信号を抵抗Rに加えると、熱として消費されその消費電力はV2/R(単位はワット:W)となります。すなわち、消費電力は、実効値の2乗(これを2乗平均値と呼ぶ)に比例することになります。

実効値から電力を求める例を示します。

  • 図4 合成波形の電力
    図4 合成波形の電力

右図(図4)において;

  • mg-measurement-column-20111125-09

....... (6)

となり、3段目の合成信号の電力P3は、1段目の電力P1と2段目の電力P2との電力和となるので;

  • mg-measurement-column-20111125-10

....... (7)

となり、実効値V1とV2の正弦波の合成波形の電力は、(6)式と同じ2乗平均値の和から求めることが出来ます。

これまで、2つの正弦波の合成波形としてきましたが、より多くの正弦波の合成でも同様に成り立ちます。

一般に、基本周期T(基本周波数f0 = 1/T )を持つ任意の時間信号x(t)はフーリエ級数展開の考えを用いて、以下のように表現出来ます。

  • mg-measurement-column-20111125-12

.....................(8)

【注意】
(1)厳密には、無限大∞までの和とすべきであるが、ここでは有限数値Nまでの級数展開としています。
(2)右辺は正弦波と余弦波の合成で記述されているが、

  • mg-measurement-column-20111125-13

とも記述できるので、正弦波だけの合成と等価です。

(8)式の両辺を2乗して平均すると、右辺は三角関数の直交性により簡単に計算できるので;

  • mg-measurement-column-20111125-14

..................... (9)

上記関係式をパーセバルの定理と呼びます。

となります。

(9)式の左辺は、2乗平均値(実効値の2乗)そのものであり、右辺は、各々の正弦波の実効値の2乗の和を意味しています。すなわち、任意の時間波形の実効値は、それを構成する正弦波の実効値からだけから計算出来る事が言えます。

さて、(8)式と(9)式は、時間軸(左辺)と周波数軸(右辺)との関係を表す大変重要な関係式ですので、前々回にも記しましたが再度説明します。

(9)式において左辺の値である2乗平均値を特に信号処理分野では時間信号のパワーと呼びます。これは、もちろん先に説明した電気分野での電力(Power)に比例した値だからです。次に(9)式の右辺ですが、時間信号を周波数毎に分解した正弦波のパワーを表していて、これをパワースペクトルと呼んでいます。

すなわち(9)式の意味するところは;

時間信号のパワー=∑各正弦波成分のパワー

です。FFTアナライザでは、(9)式の右辺をオーバオール値(OA値)と呼んでいます。

これらの説明が、任意の時間信号の大きさ(強さ)を表すのにどのような複雑な波形でも適用できる「実効値」が使われる理由です。また、音や振動などの交流信号の大きさ(強さ)も同じようにパワーで表現され、パワーのレベルで平均(集合平均や時間平均)されます。

FFTアナライザで通常使われる「パワースペクトル加算平均」ももちろんパワー値上で計算されます。(9)式の右辺においてn点目のスペクトル値をとおくと、n点のスペクトル値のm回の平均値は;

  • mg-measurement-column-20111125-15

................... (10)

と計算できます。(10)式の平方根をとることにより、リニア値すなわち実効値を求めることが出来ます。

実効値はRMS(Root Mean Square)と略記されますので、パワースペクトルの加算平均をRMS平均とも呼ばれるのは、このためです。

以下は当社の対応ホームページへジャンプします。

計測コラム デジタル計測の基礎 - 第3回「時間波形と実効値」
「信号処理」 森下厳、小畑秀文著 計測制御自動学会

(2011年11月25日発行メールマガジンより抜粋)