前回は、Sabine の式の成り立ちを、理論からではなく、残響時間という概念を定式化した当時の実験的なアプローチについてご紹介しました。繰り返しになりますが、Sabine の式は、以下のように、室の容積に比例し、等価吸音面積に反比例する簡単な式です。
.................................(1)
T:残響時間(秒)
K = 0.161
V:室容積(m3)
A:室の等価吸音面積(m2)
この式は、拡散音場で指数減衰に従う場合には正確で、残響室のように残響時間が長く拡散の良い室では実測値と良く一致します。しかし、残響時間が短い室や、拡散の悪い室(例えば、天井高が低く、幅と奥行きの比率が大きい室や、吸音材が偏在する室)では、(1)式で求める残響時間と実測値の差が大きくなる傾向があります。
例えば、平均吸音率 α―= 1.0 の場合、室を構成する境界面の吸音率が 1.0(完全吸音)ということですから、残響時間は 0 秒になるはずですが、(1)式では値をもってしまいます。
このような物理的な解が明快なケースで整合が取れないことで、この矛盾は、晩年の Sabineを大変悩ませたと言われています。
この問題を解決したのが Eyring です。今日、ホールや映画館、会議室などの残響時間を検討する場合には、Eyring の式に、空気吸収という音波吸収の項を付加した Eyring-Knudsenの式を用いるのが一般的です。今回と次回は、その Eyring-Knudsen の式の導出について説明してみたいと思います。
Eyring は室内音場を音源からの直接音と境界面からの反射音の和として取り扱いました。さらに、反射音を、音源の境界面に対する鏡像から放射された波と解釈します。時間的な変化を考慮し、室内に音源から音が発生して、直接音がまず到達し、その後、反射音が到達してエネルギーが段階的に成長していく過程を考えます。このプロセスは、前々回に示した第 16 回の図1の成長過程の部分に相当します。
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<第 16 回 図 1 室内における音源と受音点の時間波形>第>
音源から出た音波が、室内のある境界面で 1 回反射した後、次に境界面で反射されるまでに伝搬する距離は一定ではありませんが、それらの平均値を平均自由行路 p と定義します。反射から反射までの時間は p/c 秒(c:音速)となり、その間に出力 W の音源から発生するエネルギーは、W・p/c となります。
また、壁の平均吸音率をα―とすれば、n回目の反射音の鏡像の出力はW・(1-α―)nですから、次の反射までの間に、W・(1-α―)n・p/cのエネルギーが発生することになります。
ここで、n 回反射までを含む室内の音響エネルギー密度を考えます。この音響エネルギー密度は、すなわち、直接音と n 回までの反射音のエネルギー密度の合計です。
式で示せば、以下の式(2)のようになります。
.................................(2)
α―:内装面の平均吸音率 V:室容積(m3)
p:平均自由行路 W:音源の出力
ここで、定常状態のエネルギー密度E0 は、n → ∞のとき (1 - α―) n → 0 ですからE0 = p W / c Vα―となります。これは、第 16 回式(5)に示したSabineの理論と同様にE0 = 4 W / c Sα―と等しくなければなりません。
これより、平均自由行路は、p W / cVα―= 4 W / c Sα―を解いて、p = 4 V / S と求まります。
今回はここまでとし、次回はこの定常状態から減衰過程について、Eyring の減衰式を求めるプロセスを説明します。
(2010年9月22日発行メールマガジンより抜粋)