前回は、エネルギ密度 E の拡散音場の周壁の単位面積(1 m2)に、1 秒間に入射する音響エネルギ I が(1)式のように得られるところまで説明しました。
.................................(1)
E:拡散音場のエネルギ密度
c:音速
この拡散音場におけるエネルギ密度を用いて、室内の全周壁に入射するエネルギと吸音されるエネルギの平衡式から、残響時間の理論式を求めます。
残響時間の式は、残響室法吸音率などの規格(例えば、JIS A 1409:1998)では、以下のSabineの(2)式が用いられます。
.................................(2)
T:残響時間(秒)
K = 0.161
V:室容積(m3)
A:室の等価吸音面積(m2)
しかし、この単純な式がどのように導出されるか、例えば、常数のK は、なぜ0.161 なのか、専門家でもその説明はなかなか骨が折れます。今回は、この(2)式が導かれるプロセスを説明します。まず、(1)式より、全周壁に入射するエネルギは、室の周壁の全表面積Sを(1)式に乗じて、
。 周壁の平均吸音率をα―とすると、全周壁で吸音されるエネルギは、さらに、上式にα―を乗じて
となります。ここで、音源の出力(単位時間当たり音場に供給されるエネルギ)をWとし、室内の音響エネルギの変化をV(dE/dt)と表すと、その変化は次の微分方程式で示すことができます。
.................................(3)
ここで、音場の成長過程、定常状態、減衰過程に分けて考えてみましょう。
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図 1 室内における音源と受音点の時間波形
図 1 は、室内における音源と受音点の時間波形を示したものです。音源からは常に一定の出力が出ていて、受音点では、まず直接音が到達して、さらに反射音が到達し、徐々にエネルギが大きくなりますが、その間も音源からは一定の出力がありますから、さらに受音点におけるエネルギは増大し、やがて、定常状態に達します。これを、音の成長といいます。そして、定常状態に達した後、音源の出力を止めると、今度は、新たなエネルギは供給されないので、受音点のエネルギは減衰過程を辿ることになります。これが残響です。
(1)成長過程
初期条件として、t = 0 のとき、E = 0 とおけば成長式が得られます。即ち、t = 0 において音源が音の放射をはじめるまで、室内の音響エネルギ密度は 0 であったという条件です。
(3)式の微分方程式を解くと、
.................................(4)
exp は指数関数
exこの(4)式は、室内のエネルギ密度が 0 から時間とともに成長する過程を示しています。
(2)定常状態
(4)式で、t → ∞のとき E → E0(E0 は定常状態のエネルギ密度)とおけば、定常状態式として(5)式が得られます。
.................................(5)
(3)減衰過程
定常状態で音源を止め、微分方程式を t = 0 で、W = 0、E = E0とおいて解けば、減衰式が(6)式のように求まります。
.................................(6)
エネルギ密度が定常状態の値 E0から、時間とともに指数関数に従って減衰していく過程(指数減衰)がわかります。この(6)式が残響を考える上での基礎式となります。
(6)式の減衰式は、単位時間に減衰するレベル D(減衰度)とし、(7)式で表せます。
.................................(7)
となり、残響時間 T は 60 dB 減衰する時間ですから
.................................(8)
.................................(9)
となって Sabine の残響式が得られます。また、
.................................(10)
標準状態の温度 20°Cでは、K ≒ 0.161
(2010年7月22日発行メールマガジンより抜粋)