今回は、FFT分析をしたスペクトル値が、周波数分解能によってどのように変わるか、更に、時間波形によって、分析したスペクトル値をどう読み取ったらよいかについて、お話しします。
前回の「時間窓長とスペクトル分解能」で説明したように、FFTアナライザでの周波数スペクトルは、ビン(bin)と呼ばれるある幅を持ったフィルタ群を通過した交流信号のパワー(2乗平均値)を求めることになります。このスペクトルをパワースペクトルと呼ぶことにします。正弦波などのような周期的な信号のスペクトルは、ライン(線)スペクトルとなりますので、そのラインスペクトルがビンの幅に入っておれば、幅に関係なくそのパワー値は変わりません。パワースペクトルの物理単位は、V2(または、EU2)となります。
それに対して、アンプのノイズのような周期性のない不規則な時間波形(ランダム信号)のスペクトルは周波数の連続関数となることから、連続スペクトルとなります。このようなランダム信号のスペクトルのパワー値は、通過するパワー値がビンの幅Δfに依存しますので、FFTアナライザの分析ライン数(ビンの数)によって、変化します。
例えば、分析ライン数が800ラインと1600ラインで分析して、2つのパワースペクトルの同じ周波数バンドのパワー値を比較した場合、800ラインの方が平均的な意味で約2倍パワー値が大きくなります。このような分析幅の違いによるパワー値の差を小さくするために、パワー値を分析帯域幅Δfで規格化します。この単位周波数(1Hz)当たりのスペクトルを、パワースペクトル密度関数(以下、PSD)と呼びます。すなわち、パワースペクトルをP(f)とすると、PSD=P(f)/Δfと計算できます。PSDの物理単位は、V2/Hz(または、EU2/Hz)となります。
パワースペクトル
パワースペクトル密度関数(PSD)
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図1 ピンクノイズを800ラインと1600ラインで分析した例
上記の2種類の時間波形(周期的信号とランダム信号)は、いわゆる定常的な信号なので、そのスペクトルはFFTの時間窓による時間平均に無関係となりますが、衝撃波などの過渡信号の場合は、エネルギー値が有限となるので、パワースペクトルは、時間窓長に大きく依存します。例えば、0.5秒持続する過渡信号を1秒間と2秒間の時間窓で分析した場合、そのパワー値は1秒間の方が、2倍大きくなります。もちろん、この場合も、非周期信号ですので、スペクトルは、連続となります。
過渡信号の場合は、パワーでなく、エネルギーの単位でスペクトル量を求めます。これを、エネルギースペクトル密度関数(以下、ESD)と呼び、ESD=PSD・T(TはFFTの時間窓長)として求めることができます。ESDの物理単位は、V2s/Hz(または、EU2s/Hz)となります。
(注)
PSDとESDの関係は、騒音測定で用いられる時間平均音圧レベル(LT)と音響暴露レベ ル(LE)と同様で;
;の関係になります。
パワースペクトル
パワースペクトル密度関数(PSD)
エネルギースペクトル密度関数(ESD)
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図2 過渡音を400ライン、800ラインと1600ラインで分析した例
FFTアナライザで分析対象となる時間波形としては、これまで述べたようにおおざっぱに分類すると、周期信号、ランダム信号、過渡信号となりますが、スペクトルの読み方を整理すると、表1にようになります。
| 周期信号 | ランダム信号 | 過渡信号 | |
| 時間信号の持続 | 無限 | 無限 | 有限 |
| パワー | 有限 | 有限 | 有限 |
| エネルギー | 無限 | 無限 | 有限 |
| スペクトルの形 | 線スペクトル | 連続スペクトル | 連続スペクトル |
| スペクトル評価関数 | パワースペクトル | パワースペクトル密度 | エネルギースペクトル密度 |
| 上記の単位 | EU2 | EU2/Hz | EU2・s/Hz |
| 計算方法 | P (f) | P (F)/Δf | (P (F)/Δf)・T |
(注)
EUは、工学単位(Engineering Unit)の略で、任意の物理量単位を表します。
(2008年6月26日発行メールマガジンより抜粋)