今回はFFTで常用されるデシベル(dB)についてお話します。
(1)デシベル
電子工学や音響、振動の分野で、エネルギーやパワーの実用的表現として、測定値の基準値に対する比の常用対数の10倍と定義された値を用い、dB(デシベル)を単位として表します。音響、振動の分野ではデシベル尺度で表された物理量の大きさをレベルと呼んでいます。
いま、物理量としてパワーのレベルを式で表せば、次のようになります。
Lw=10Log(W/Wo) dB ・・・(1)
Lw :パワーのレベル
Wo:基準値として決められたパワー(単位 W:ワット)
W :測定されたパワーの値(単位 W:ワット)
次に、電圧のレベルを表すことを考えます。この場合、パワーWは電圧Vの2乗に比例すると言う関係(W∝V^2)を式(1)に適用することにより、電圧VのレベルLは式(2)の様に表されます。
L=10Log(V^2/Vo^2)=20Log(V/Vo) ・・・ (2)
Vo:電圧レベルの基準値(単位 V:ボルト)
V :測定された電圧の値(単位 V:ボルト)
また、音圧P(単位 μPa:マイクロパスカル)や振動加速度A(単位 m/s^2:メートル毎秒毎秒)のレベルも同様にして式( 3 )( 4 )となります。
Lp=20Log(P/Po)dB ・・・ ( 3 )
La=20Log(A/Ao)dB ・・・ ( 4 )
ここで、Poは基準の音圧20μPa、Aoは基準の振動加速度はJISでは10^-5m/s^2(ISOでは 10^-6m/s^2)として定められた値です。
JIS1502-1990では音圧レベルは「音圧の実効値の2乗を基準の音圧(20μPa)の2乗で除した値の常用対数の10倍。単位はデシベル、単位記号はdBとする」となっています。振動レベル計もJIS-1510-1995に定義されています。この実効値というのがなかなかの曲者です。実効値は交流信号を表わす時に使われますが、実効値を求めるときに時定数が違うと値が違うということです。また騒音計などでは実効値を求めるとは言わないでレベル化すると言われます。この騒音計の信号処理とFFTの信号処理と同じ視線で考えるのは無理な点がありますが、ここはあえて理論的なところは目をつぶって、概念を理解することを目的に説明しますのでご了承ください。
(2)FFTとデシベル
FFTアナライザーでは、入力信号が電圧になります。この信号をサンプルし例えばサンプル点数2048点からFFT演算で周波数成分のパワースペクトルを求め表示します。各周波数成分の電圧(振幅)は式(2)を利用してdBで表示されます。
さて、実効値はサンプルされた値の2乗平均から求められます。
実効値(rms)=√{1/N * Σ(xi)^2} ・・・(5)
{ }:√の中を示す
Σ :N個の和計算を示す
xi :i番目のサンプル値
この値は時間軸波形から求める計算式ですが、FFTの各周波数成分も同じサンプルされた値から求めています。このようなことからサンプルに要する時間が騒音計などで実効値を求めるときに使われる時定数に相当すると無理やり考えることとします。
パワースペクトルは周波数に分解されて表示されますが、その周波数成分の振幅のパワーで表わされます。正弦波、余弦波の場合、実効値と片振幅値は次のように√2倍の関係があり、簡単な計算で変換できます。
正弦波の片振幅値=√2×正弦波の実効値 ・・・(6)
パワースペクトルでは片振幅で表示されたほうが便利なことがあります。この場合は基準値Voは1Vrms(実効値1V)を切換え、1Vo-p(片振幅1V)を基準にとって表示することができます。√2倍は3dBになりますから実効値に3dB足すことで暗算できます。
(補足)
時間波形のサンプル(時間領域)から式(5)で求めた実効値は、パワースペクトルの各周波数成分から求めたオーバーオールの実効値と基本的に一いたします。時間領域でも周波数領域でも同じ現象を表わしているので理解できると思います。
(3)騒音計のデシベル
騒音の測定には騒音計を用いて測定され、基準値を20μPaにとりdBで表示されます。騒音計では「音圧レベル」と「騒音レベル」の言葉がよく使われています。少し前までは人の聴く感覚に対応した周波数特性をA特性とされていました。「騒音レベル」はマイクで採取された生の音をこのA特性を通し周波数重み付けされ、その後レベル化しています。「音圧レベル」はこのA特性を通さないで求めています。よって「音圧レベル」は音源の音の大きさを、「騒音レベル」はその音を人が耳で聞いた場合の大きさ表していると考えられます。現在ではA特性は聴感との関連性を考えないこととなり、「音圧レベル sound pressure level」「騒音レベル」は「A特性音圧レベル A-weighted sound pressure Level」(略称 sound level)が使われるようになりました。
さて、レベル化するとき、時定数(時間重み)としてFAST(0.125s)とSLOW(1s)があります。時定数は動特性(応答性)をあらわし、たとえば急に音が大きくなったとすると、その大きくなった音の63%に達する時間と定義されます。騒音計のレベル化処理を考えると、騒音計からFFTを見た場合、FFTでは瞬時音の分析をしている事となります。FFTの表示を騒音計の表示にあわせるには指数化平均させたり、加算平均の測定をするなど配慮が必要です。
(4)振動レベル計のデシベル
振動レベル計は騒音計と同じ信号処理がされていますので、騒音計と対比して考えると理解しやすく思います。振動レベル計にも「振動加速度レベル」と「振動レベル」の言葉が使われます。
音圧レベルは音源の音と考えるように振動加速度レベルは、振動測定点の加速度の大きさをあらわし、「振動レベル」は騒音レベルのA特性フィルタを通したものと考えるように、身体が感じる上下、左右のそれぞれの振動の周波数重み(感覚補正値)を通して振動の大きさを表します。
レベル化する時定数は0.63sと定められています。
振動レベル計は振動感覚の違いから、前後(X軸)、左右(Y軸)、上下(Z軸)の3軸同時測定されます。
尚、騒音計の交流出力端子や振動レベル計の交流出力端子の信号を直接FFTアナライザーへ入力し、また加速度センサーやマイクロホンを直接FFTアナライザーへ入力しパワースペクトル分析する場合は、(2)項で説明しました考え方になります。最近では騒音振動の時定数を持ったリアルタイムオクターブ分析機能を有した機種も販売されています。
(5)FFTのdBと騒音・振動のdBの単位校正
騒音計の交流出力信号をFFTアナライザーへ入力しパワースペクトル分析する場合、騒音計のdBとして直読できるようにFFTの単位校正を行います。
校正することでFFTのdBは音圧レベルのdBに合わせることができます。
音圧レベルをあらわすのにdBspl(spl:sound pressure level)などの添え字を記することがあります。
騒音計のCAL(校正信号出力)が何Vで、このとき何dBsplかがわかると式(3)で1V当たり何Paか逆算して求めることができます。これを係数Kとし、P=kVと表すと式(6)のように単位校正の計算をすることができます。
Lp=20Log(kV/Po) (dBspl) ・・・(6)
Po:20μPa
V :測定された電圧レベル
K :電圧をPaへ換算する係数
振動レベル計の交流信号を使用した場合も同様に式(7)で換算できます。
Lv=20Log(K‘V/Ao) (dB Z軸) ・・・(7)
(6)FFTのオーバーオール値と騒音計表示値について
FFTアナライザーでは騒音計の校正信号を入力すると換算係数K、を自動計算する機能があります。騒音計の表示値はFFTアナライザーでは20kHzないし10kHzレンジで測定した場合のオーバーオール値にあたります。よって(5)項の校正作業はオーバーオールの値で行います。
繰り返しになりますが、騒音計とFFTでは信号処理に違いがあります。
校正信号では一定の信号なので騒音計の表示とFFTのオーバーオールの値は一いたしますが、測定する音が変化の大きい場合は騒音計の値とFFTのオーバーオールの値に差が生じます。これはFFTは瞬時の音の分析をしていますので、よって加算平均することで騒音計の等価騒音レベルと一致するということです。騒音計とFFTの信号処理の違いとしてご理解ください。
騒音計の詳しい説明は技術レポート「騒音計とは」をご参照ください。
(2004年12月24日発行メールマガジンより抜粋)