今回も打撃試験の減衰波形についてお話します。
(1)減衰比
前回までの伝達関数では、主に振動の構成要素である重さと剛性について述べてきましたが、減衰要素についても、測定結果の中に反映されています。
たとえば、振動実験では、よく打撃試験を行いますが、このときの時間データを観察しますと、一般的には時間が経過するほど振動振幅が小さくなります。これは、発生した振動エネルギーが材料の内部の減衰(原子や分子のずれにより熱に変換されている)や、ダンパーなどの外部の減衰要素による振動エネルギーの損失が行われているため、だんだんと振動エネルギーが消費されることによります。
振動の減衰は一定の比率で、エネルギーが損失されます。たとえば単純な構造物の1自由度(1質点−1剛性−1減衰)の場合、波をうちながらの減衰波形となり、この波の波形の1個目の山のピーク値と次の山のピーク値の比を求めます。N個めの山のピーク値とN+1個めの山のピーク値の比も同じ値であることがわかります。この比を減衰比と呼びます。
この減衰比が振動モデルの構成要素である減衰要素の値を示しています。
ここで、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、振動が減衰してゆく山の数は周波数に関係なく同じですから、同じ減衰比の場合、周波数が高いほど振動が減衰する時間は短くなります。(周波数が高いということは山と山の時間間隔が狭いので)つまり、同じ減衰比でも、高い周波数のほうが早く振動が減衰するということです。逆に言うと低周波の振動現象を早く収束させようとすると、大きな減衰比をあたえる必要があり、場合によっては振動対策がおおがかりになり大変になるということです。
さて、減衰比はFFTアナライザーなどの装置に付属しているヒルベルト変換機能を使い時間データのエンべロープ(包絡線)を求め、その傾きから減衰比をもとめることができます。
(2)減衰波形のボード線図と半値幅法
いままで時間領域で考えてきましたが、周波数領域ではこの減衰要素はどのように、あたえられるのでしょうか?
アクセレランス(加速度/力)のボード線図で考えてみましょう。振動が減衰しないような信号、正弦波のパワースペクトラムは鋭角な山状のピークになります。位相は-90度になります。これに減衰を与えてゆくと、ピークは低下するとともに、その裾野が広がっていくのが観察できます。減衰をさらに大きくしてゆくと、なだらかな丘のようになり平坦に近づいていきます。
ピークの周波数はどうなるかというと、減衰が大きくなるにつれて正弦波の時より少しずつ周波数は小さくなり、また位相も-90度より小さい方向にずれてきます。
周波数領域で減衰比の値を求める方法は、あるのでしょうか?
半値幅法が一般的に用いられています。これは伝達関数を測定しておいて、伝達関数のピーク点(振動モード、固有振動数)に注目し、そのピークのちょうど半分の高さになる下側の周波数fLと上側の周波数fHの差を中心周波数f0(ピークの周波数)で割るというものです。
減衰比=(fL+fH)÷f0
この減衰比は、正弦波に近い信号ですと上側と下側のピークの半分の値の周波数はあまり離れていないので小さな値になりますが、なだらかな丘のようなデータの場合はその差が大きいので、減衰比も大きいということになります。
また、減衰比は周波数の比ですので、固有振動数には影響されない要素であることもわかると思います。しかし実際には周波数分解能などの問題で、本当のピークが求まらない場合があり。半値幅法の代わりに伝達関数の実部と虚部のモード円を元にカーブフィットをおこなって、減衰比を算出することも多いです。
(3)減衰波形のナイキスト線図(モード円)
モード円は伝達関数を複素平面(X軸を実数にY軸を虚数にとった平面)において表したもので、ナイキスト線図と呼ばれています。アクセレランス(加速度/力)のナイキスト線図で減衰波形を考えてみましょう。
各振動モードの固有値は複素数(伝達関数のピークにおける実数部と虚数部)で表すことができますので、これを複素平面にプロットしますと、通常の減衰は左半平面にしか存在しないことがわかります。
正弦波周波数のピークの位置、実数が0の位置で固有値(虚数部は上下対称の位置にあります)が存在します。これに減衰が加わることによって固有値は、実数部がマイナスになっていきます。実数部がマイナス側になればなるほど、振動の減衰比は大きくなっていきます。
参考図
板状の金属片をインパルスハンマで打撃したデータを参考に掲げます。図の左欄は金属片のみの場合、右欄は同金属片に両面テープでプラスチックを貼り付け減衰を増加させた場合のデータです。
打撃した力の波形
加速度の波形
加速度/力(MAG)
位相
実数
虚数
ナイキスト線図
-
周波数分解能不足のために円にならない。緑破線と赤い点は想定されるナイキスト線図と共振周波数点です。 -
同左。宙づりため低周波数域でうまく測定が出来なく位相がずれています。図4-bを参考に位相補正が必要です。
加速度/力 オーバレイ表示
上図3−a、bを重ね書き
ナイキスト線図
上図7-aを、Zoom機能を使用し分解能を上げて測定することで、図7-aの予想ナイキスト線になります
半値幅法で求めた減衰比
同上ZOOM測定したデータから半値幅法で求めた減衰比(Damp)
ヒルベルト変換より求めた減衰比
上図2-aよりヒルベルト変換よりもとめた減衰比(Damp)
関係式
損失係数(Loss.F)=2×減衰比(Damp)
対数減衰率(log.d)=2π×減衰比(Damp)
余談ですが、複素平面の右側に固有値があることは無いのでしょうか?
実は右側に存在するときは、減衰ではなく、振動現象がだんだんと大きくなって行く現象になります。つまり、打撃するとだんだんと振動が大きくなってゆくことになりますが、通常の構造では発生しません。たとえば、制御を行っている場合、振動などの発散現象がありますが、このときの固有値は右側にあります。この固有値をいかにして、右半平面の良い位置に持っていくかが、振動制御の問題と考えることもできます。
時間領域、周波数領域とややこしくなりましたが、一般的に複数の固有モード(多自由度の固有振動)を有している場合、時間領域ではすべての振動周波数の減衰が合成された波形になり、よって時間波形は複雑になり、これから計算することは困難になりますので、一般的に周波数領域で半値幅法で各固有振動数ごとの減衰比を測定するが多いです。
技術レポート
制振材料とその性能測定について
(2004年9月24日発行メールマガジンより抜粋)