2002年3月13日開講されました長松先生の音響振動技術セミナーを聴講しました。皆様にも非常に役立つ有効情報だと思われますので、そのさわりをご紹介したいと思います。
長松先生(東京工業大学名誉教授 法政大学機械工学科教授)の30年間の振動講義の中で一番忘れられない質問は「なぜ振動するか」だそうです。数式での説明が一般的になされていますが、数式の意味するところを理解して欲しいとのことで次のような説明がありました。
物には、そのままでいたいという基本的な性質があり、力学的には次の3通りある。
- 動いている物は動いているまま、止まっているものは止まったまま、そのままの状態でいたいのである。動いたり止まったり状態の変化を嫌う。状態の変化とは、力学的には加速度(acceleration)である。
万物は加速度を嫌い、それに抵抗する。この抵抗力はあるがままの状態慣れる性質によって発生するから慣性力(inertia force) という。
物が状態に慣れる性質の強さは単位加速度に対する抵抗力の大きさで表され質量(mass)と呼ばれる。 - 形ある物・固体はそのままの形でいたいので、形が変わることを嫌う。形の変化は固体内の一点では変位(displacement)になる。すべての固体は変形を伴う変位を嫌い、それに抵抗する。この抵抗力は元の形に戻ろうとするために生じるので、復元力(restorative force)という。元の形に戻ろうとする性質の強さは単位量の変位に対する抵抗力の大きさで表され、これをこわさ(stiffness)あるいは剛性と呼ぶ。
- 空気、油など流体あるいは流体に接したり囲まれた固体はそのままの位置にいたいので、位置の変化を嫌う。位置の変化は力学的には速度(velocity)になる。したがって、流体中の物体は速度を嫌い、それに抵抗する。これは流体が粘いと言う性質を有するためで、この粘いために生じる性質の強さは単位速度に対する抵抗力で表され、粘性(viscosity)という。粘性による抵抗力を粘性抵抗力(viscouse resistance force)、という。
3種類の性質のうちで質量とこわさは、振動を発生させる元になる。
これに反して粘性はすべての振動を抑制する作用をし、振動を減衰させて止めてしまう。したがって粘性抵抗力を粘性減衰力(viscous damping force)ともいう。簡単な例として減衰の無いばね系(1自由度力学モデル)で振動を考える。
- 最初の位置(平衡点)にある質量に上方向の外力を加え引っ張る。
ばねは伸びてこれに抵抗する復元力が下方向に発生し、外力と復元力がつりあった状態で質量が静止する。この外力を急に開放すると質点(質量が一点に集中したと考えることが出来る点)は下方に動き始める。静から動への状態の変化に伴う下方向への加速度の発生に抵抗するため慣性力が上方向に生じこれが復元力とつりあう。このように外力を取り除いた瞬間に外力と大きさも、方向も同じ慣性力が発生し外力に取って変わる。 - 質点が下方に移動して平衡点に近づくに連れて、復元力は小さくなり、それとつりあう慣性力も小さくなり、加速度は減少していく。しかしそれまでの加速度は蓄積されて速度に変わり、下方向の速度が増加していく。平衡点に到達すると、元の形のままでいたいという性質を満足するため、復元力はゼロになる。それとつりあう慣性力もゼロであり加速度は生じない。
- ところが動いたままの状態でいたいという性質を満足している質点は、ばねにとって最も好ましい位置である平衡点に止ることはなく、最大の速度で等速直線運動をしながら、平衡点を上から下へ通過していく。そうするとばねは縮み始め、それに抵抗する復元力が上向きに生じ、それとつりあう慣性力が下向きに生じ、加速度が上向きに発生する。
- この上向きの加速度が下向きの速度を消費してブレーキを掛けるため速度は次第に小さくなって行く。しかしそれまでの速度は蓄積され変位に変わり、その結果下方向の変位が増加する。そうするとそれに抵抗する上向きの復元力が増加し、それとつりあいを保っている下向きの慣性力が増大し、慣性力とは常に方向が逆の加速度が上向きに増大する。
- やがて速度が0になったとき、上向きの復元力、下向きの慣性力が共に最大になる。そして質点は、最大の加速度で上向きに動き始め、再び平衡点へと帰って行く。
- 後は初期と上下をひっくり返した同じ現象が推移していく。そして平衡点を下から上へ通過し、やがてばねの伸びが最大の点に到達する。
- これまでが1周期であり、これが繰り返されて振動となる。
- 固有振動数は、以上の例のように外部から力を得ないで、慣性力と復元力の力の釣り合いを保ちながら自由振動できる周波数でありまた、エネルギー保存の法則を満たしながら自由振動できる周波数のことである。
物と振動は切っても切れない関係にあるといえる。
さて、振動は生活の中で人との関係が密接であることは言うまでもありません。また金属疲労などの言葉を聞きますように、物は振動を繰り返し、長い年月受けると疲労し、かすかな割れが発生します。それが進行すると疲労破壊を起こしてしまうなど振動は大切なテーマになっています。
以上が慣性力、復元力、粘性減衰力のお話となります。次に「固有周波数となぜ共振するのか」の概要をお伝えします。
上記の3つの力の釣り合いを数学的には運動方程式として表現している。運動方程式の解は周期関数でしか解けない。このことは振動は周期的な動きをすることから直感的に理解できよう。振動波形は調和波形(正弦関数として表される波形)の重ね合わせで表現できるので、調和加振力に対する系の応答を調べておけば、その重ね合わせによって任意外力に対する応答を知ることができる。
バネ(こわさ k)に重り(質量 m)が付いている1自由度力学モデルでは、減衰の無い自由状態のもとでは必ず1つの角振動数で周期運動(振動)をし、それ例外の周期振動は決して生じない。mは振動をゆっくりしようと働き、kは速く動こうと働き、この力のつりあった速さが1個あるということ。この周波数を不減衰固有周波数という。
固有周波数の意味は数学的意味では運動方程式が動的な解を有するための条件であり、力の釣り合いからみた物理的意味では力の釣り合いを保ちながら自由振動できる振動数である。またエネルギーから見た物理的意味はエネルギー保存の法則を満たしながら自由振動できる振動数である。
粘性減衰cは怠けもので、動きたくない性質を持つ。これは時間と共に振動を減少させる作用をし、また振動周波数を遅くするという2つの作用をする。
1自由度不減衰のモデルに戻って共振について考える。
振幅が極大になる現象を共振という。mに周期的な加振力fがかかった場合、直感的に理解できること、周知のことをあげると、
- 低い周波数では力に応じて重りが一緒に動く。
- 共振すると、振幅が大きくなる。
- 共振を過ぎると振幅は次第に小さくなり最後は動いているか
分からないほど極微少になる。 - 力のつりあいから
加振力f=Fsinωt (振幅がF、周期ωの調和加振力)
変位x=Xsin(ωt - Φ)
(Xはtに比例し、力とはΦ位相おくれて変位する)
相差Φ=共振前は 0°、共振時は-90°、共振後は-180°
慣性力fm=mω^2・x (ωの2乗と変位に比例する)
復元力fk= - kx (変位とは-180°に作用する)
fm+fk+f=0 (力のつりあい)
加振の開始と共に、強制振動と自由振動が同時に発生する。前者は加振源と系の間のエネルギーのやり取りであり、一方後者は系の内部でのバネと質量の間のエネルギーのやり取りである。前者は外部から強制されるものであり、加振源が系にエネルギーを注入すれば、系はこれに反発し、入ったエネルギーを押し戻す。エネルギーの注入と押戻しの繰り返しが強制振動である。一方後者は、系内部で自然に発生する自発現象であり、系はこれに対しては抵抗しない。両者の振動数が異なるときには、両振動は全く別物として互いに無関係に推移する。
しかし、振動数が同じ(ω=固有周波数)になると、系は両方の振動の区別が付かなくなる、そして、強制振動に対しても抵抗を示さず、加振源が系に注入するエネルギーをすべて受け入れる様になる。そこで系は、自由振動に調子を合わせ周期的に注入されるエネルギーを吸収し続け、自由振動のエネルギーは増え続ける。エネルギーの増加は振幅の増大として現象に現れ、振幅が時間に比例して直線的に増大し続ける。これが不減衰系の共振である。
1自由度不減衰のモデルの共振について考えると、
- 低い周波数では力に応じて重りが一緒に動く。
- 共振すると、変位振幅が大きくなる。
- 共振を過ぎると変位振幅は次第に小さくなり最後は動いているか
分からないほど極微少になる。 - 力のつりあいから
加振力f=Fsinωt (振幅がF、周期ωの調和加振力)
変位x=Xsin(ωt - Φ)
(Xはtに比例し、力とはΦ位相おくれて変位する)
相差Φ=共振前は 0°、共振時は-90°、共振後は-180°
慣性力fm=mω^2・x (ωの2乗と変位に比例する)
復元力fk= - kx (変位とは-180°に作用する)
fm+fk+f=0 (力のつりあい)
力のつり合いの式をωに沿って見ていくと、それぞれ以下の図の形になります。
(長松先生著「モード解析入門」P47 図2-13 より)
補足:
復元力 fk=-kx
慣性力 fm=ω2mx
加振力(一定)=f=Fejωt
変位 x=Xej(ωt+Φ)
静変位 Xst=F/K
fm は常に変位 xと同じ方向に作用する。
ω が小さい範囲では“ばね(fk)”が、ω が大きい範囲では“質量(fm)”が主役になる。
①ωが小さいときは
fm=0と近似でき、系にはfkのみがfと逆に発生する。
ここでは静変形と同様にバネが主役を演じ、質量は振動に関与しない。
fkは変位に対する抵抗であり、常にxと逆に作用するから、結果的にfとxは同方向でΦ=0になる。(力と一緒に動いている)
(2)ωが共振周波数に接近してくると、
fkの方がfmよりわずかに大きいのでΦ=0である。しかしfmはω^2に比例するのでかなり大きな値になる。fkはfmとほぼ同じ大きさだが、fkとfmの差がfでなければならないので、fkも大きくなる必要があり、結果的に応答振幅xが極めて大きくなる。(何故xが大きくなるか理解)
(3)ωが共振状態(ω=固有振動数)では
fmとfkの大きさは同じ大きさでお互い逆方向に作用する。系内でfmとfkが打ち消し合いfに対抗する内力はどこにも存在しなくなる。
系は加振力fに対抗する手段を失い、加振力のなすがままに任せて動き、振幅が限りなく増大していく。加振力の意のままに動くから、動く方向すなわち速度の方向(位相)は加振力の方向と一致する。変位は速度より90°遅れて生じるから、加振力からも90°遅れる。(fm=fk)
④ωが共振を少し通り過ぎた点では
fmの方がfkよりもわずかに大きいので、fmをfk+fが打ち消す形でつりあう。fkと常に逆向きの応答xはfとも逆になりΦ=−180°になる。共振を境にして系はもはや加振の速さについて行けなくなり、応答が遅れるのである。この時にはまだfmとfkはほとんど大きさが等しいにもかかわらず両者の大きさの差が一定値fでなければならない。そこでfmもfkも大変大きく(fmとfkの差が微少のため、fm、
fkが大きくないとfm−fk=fにならない)それら両者に比例する応答xは極めて大きい。(共振前はfm<fk、共振過ぎるとfm>fk)
⑤ωが共振周波数を過ぎた点では
fmはfkより十分大きくなる。そこで前記と同じ理由でΦ=−180°になる。しかしfmとfkの差が一定値fでなければならないことから、fmとfkの大きさが共にだんだん小さくなる必要があり、xは減少してくる。(ωが大きくなるに従いfmは大きくなるべき所、fm−fkの差分が大きくなっていくのでその差fを一定にするためfm、fkの大きさは次第に小さくなる)
極めて速い加振である。ωがきわめて大きいにもかかわらず、fm=mω^2・xは力のつりあいから、fと同程度以上に大きくなっては困るのでx=0 近似になる。この時バネはほとんど変形せず、振動の主役は質量が演じる。そして系にはfkはなくfmだけが存在してfを打ち消している。xはfmと同方向であるからfとは逆方向になりΦ=−180°である。
これを端的に示したのが質量のみの系で例えば球。球を調和(sin関数)運動させようとすると常に変位と逆の方向の力を加えておかないと、そのまま勝手な方向に飛び去ってしまう。質量が主役の系に対しては、加振力は質量に仕事をし、加速度を発生させるので加振力と加速度は同方向になる。変位は加速度により常に180°遅れるからΦ=−180°になる。
インパルスハンマや加振機で物体を加振しFFTアナライザーで周波数応答を求めることは運動方程式の解、動特性を求めていることであり、その解は数式でなく数式を数値化、グラフ化して表示してくれ、FFTアナライザーは優れものといえます。
文字だけの説明ではご理解しにくいかと思います。長松先生の講義は
その他いろいろお話があり、非常にためになりました。
皆様も一度セミナー受講をお勧めします。
(2002年3月22日、4月19日、5月24日発行メールマガジンより抜粋)