第10回の入門コラムで、音に対する様々な印象を定量化できる「音質評価解析」についてご紹介しました。今回のコラムでは、音の「変動感」に着目し、その特徴量を分かり易く図示することのできる変動音解析についてご紹介します。
音の「変動感」が着目されるワケ
普段の生活の中で、ときおり「気になる音」や「耳につく音」が聞こえてくることがありますが、皆さんにとっての「気になる音」とはどんな音でしょうか?人によって様々であるとは思いますが、その中の一つとして、音の大きさそのものは決して大きくないものの、時間的に変動している印象が強い音色のため、耳につくといったケースがあります。例えば、携帯電話の着信ベル音は、図1のように時間的に短い周期で変動を繰り返すパターンになっており、多少音量が小さくても人が気づきやすいような音色になっています。
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図1 携帯電話(ベル音)の着信音パターンイメージ
一方、自動車や家電など、様々な工業製品から生じる異音(いわゆる聞こえてはいけない音)についても変動音が多く、これは対策すべき音の一つとなります。この音のレベルが大きい場合は、通常の音の解析手法である FFT 解析やオクターブ解析で、その特徴量(周波数など)を比較的容易に見つけることができます。ところが、その音のレベルが小さい場合には音の変動感を感じるため「気になる」ものの、FFT 解析などではその特徴量をとらえるのが難しい、という問題が生じます。近年、クルマの電動化に伴い、車室内空間が非常に静かになり、これまで気にならなかった、様々な部品から生じるレベルの小さな「変動音」が目立つようになり、これを対策するケースが増えてきています。このような背景から、音の「変動感」の特徴量を掴みたいというニーズは近年大変多くなってきています。
音の「変動感」の表現方法
変動音を実際に波形で描くとどのようになるでしょうか?
答えを図2に示します。横軸を時間に取ると、音階=ピッチの周波数(F:青線)の振幅が、ある周波数(f:赤線)で大きくなったり小さくなったりを繰り返すような波形として描かれます。一般的には振幅変調音(AM 音)と呼ばれる音の波形そのものになります。このとき、山の振幅のもっとも大きくなるところとゼロになるところの差(ΔL)が大きいほど、人の耳に感じる「変動感」は大きくなります。
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図2 変動音(時間軸の波形)
このように変動音は「ピッチ」と「変動」という2つの周波数成分で構成されていることが分かります。これを「変動音解析」という名称で、カラーマップの形でグラフ化したものを図3に示します。ピッチの周波数(F)を横軸に、変動の周波数(f)を縦軸に取り、変動の深さ(ΔL)をグラフ上のカラーの濃淡で表します。実際の計算の流れについては文末で紹介する、小野測器 技術レポート「変動音解析とは」をご参照ください。
図2のケースでは、基本的に 1 つの変動音(特定のピッチ、特定の変動周期)の場合を表していますが、様々な工業製品などから生じる変動音については、これが1つとは限らず、複数の変動音が混在しているケースも少なくありません。図3に示すように、A 音と B 音という音色の異なる 2 つの変動音が混在している場合でも、個別にそれらの特徴量を表すことができます。このケースでは、A 音は B 音に対してピッチが低いですが、その変動周期はより速い音色の変動音である、ということを表しています。
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図3 変動音解析イメージ
変動音解析の例
自動車エンジン部品(インジェクタ)の作動音に含まれる異音を解析した事例をご紹介します。 インジェクタはガソリンなど燃料を噴射する役割を担う部品で、燃料を噴射する際にこの構成部品であるニードル弁とストッパが干渉し、「ピチピチ」という高いピッチの変動音が生じます。 この異音の特徴量を抽出したいのですが、エンジン音の主成分である低いピッチの音(ゴー音)が割合として大きいため、一般的な音解析(FFT 解析)では、その特徴量をはっきりと示すことが難しくなっています(図4)。このケースでは、5 kHz および 10 kHz の周波数帯域(赤色の破線)に縦縞のパターンが見られますが、これがインジェクタの「ピチピチ音」の正体です。つまり、5 kHz と 10 kHz の音が縦縞の時間間隔(約 40 msec)で大きくなったり小さくなったりを繰り返すため、音色的に「ピチピチ」という聞こえ方をするのです。この音(ピチピチ音)は耳障りに聞こえるのですが、音のレベルそのものは大きくないため、特徴的な周波数がぼやけてしま っています。
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図4 インジェクタ作動音の FFT 解析グラフ
同じ音源について変動音解析を行った結果を図5に示します。
FFT 解析ではぼやけてしまっていた、ピチピチ音(=変動音)が 2 つの変動成分として明確に表れています(赤色の破線)。ピッチの周波数としては 5 kHz および 10 kHz、その変動周波数は 25 Hz の升目が濃くなっており、この成分の変動が大きいことが分かります。
もう一つ着目すべきは、FFT 解析では濃く表示されたエンジン主成分のゴー音については、定常的な音(変動感のない音)であるため、この解析ではこの音成分は反応しない、ということです(白色の破線)。つまり、ゴー音のような定常的な音が支配的な音環境の中で、比較的音のレベルの小さな変動音(今回のケースではピチピチ音)のみを抽出したい時に有効な解析手法である、ということがわかります。
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図5 インジェクタ作動音の変動音解析グラフ
我々の生活空間には様々な「変動音」が存在します。本コラムで紹介したように、「変動感」を感じる音は、ある時に注意を引く役に立つ音にもなりますし、また別の時には耳障りに聞こえる対策しなければいけない音(異音)にもなり得ます。
良くも悪くも「目立ってしまいがちな音」である変動音を上手に抽出し、その特徴量を表す一つの方法として、今回は変動音解析をご紹介しました。
このコラムをお読みになって変動音解析の計算原理や他の解析事例など、について興味を持 った方は、是非当社の技術レポートをご一読ください。
(2023年1月18日発行メールマガジンより抜粋)