本文にスキップする

Select your region & language

Global

Region

計測初心者のための入門コラム:わかりませんの人たち集まれ~ 第13回「デジタル計測器のダイナミックレンジについて」

前回のコラムではディジタル計測器の A/D 変換について説明させていただきました。読者の皆様にはご理解いただけましたでしょうか?今回のコラムでは前回に引き続き、ディジタル計測器入力部の性能の一つである、ダイナミックレンジについて説明していきます。

ダイナミックレンジとは

測定器等で、種々の雑音の影響を受けずに正確な測定結果を出し得る範囲のことです。最大信号許容レベルと、その雑音レベルとの比を取り、dB 表示することで得られます。言い換えると、ディジタル計測器でアナログ信号をサンプリングする際に、測定可能なレベル範囲のことです。この数値が大きいほど幅広いレベルの信号を一度に計測できることを意味しています。「ダイナミックレンジ」という名称の経緯は、はっきりとしたことは分かっていませんが、もともとはオーディオ関係の信号再現性を表現する語句であったものが、計測器分野でも使用されるようになったと言われています。さらにカメラなどの画像分野でも、カメラが写せる光量の範囲をあらわす量として、この言葉が用いられます。

A/D 分解能との関係

前回コラム内容を覚えている読者の方は、「A/D 分解能とダイナミックレンジは関係があるのでは?」という疑問を持たれたかもしれません。
前章で説明した通り、ダイナミックレンジとは「最小値と最大値の比率を dB 単位で表したもの」です。ここでいう最小値と最大値の比率は A/D 分解能そのものです。
例えば、A/D 分解能が 16 ビットの場合、その最小値は 20=1 となり、最大値は216=65,536 となります。ダイナミックレンジはこの比率を対数で表現したものであるので、以下のように求めることができます。

  • 計測初心者のための入門コラム:わかりませんの人たち集まれ~ 第13回「デジタル計測器のダイナミックレンジについて」_No.1

同様に、A/D 分解能が 24 ビットの場合のダイナミックレンジは以下のように求めることができます。

  • 計測初心者のための入門コラム:わかりませんの人たち集まれ~ 第13回「デジタル計測器のダイナミックレンジについて」_No.2

筆者自身も、以前両者の関係が曖昧であったのですが、このように A/D 分解能が最小値と最大値の比率、その対数表示をダイナミックレンジ、と考えればすっきりします。

次に、実際の計測器のダイナミックレンジの値はどのようになっているのでしょうか?
当社の FFT のダイナミックレンジ公称値(当社ホームページ記載値)を確認すると下記のような表記になっています。

CF-9200/9400 (A/D 分解能 24 ビット) 120 dB 以上
CF-4700 (A/D 分解能 24 ビット) 110 dB 以上
DS-5000 ((A/D 分解能 24 ビット) 130 dB ※1
DS-3000 ((A/D 分解能 24 ビット) 110 dB 以

※140kHz 入力ユニットの場合
このダイナミックレンジの値を見ると、先に計算した理論上の A/D 分解能 24 ビットの時のダイナミックレンジよりも小さな値になってしまっています。
これはどんな理由によるものなのでしょうか?
当社の FFT を始めとするディジタル計測器は電子計測器です。電気回路が内蔵されており、計測器使用時には本体内部回路には電気が流れています。信号入力部及び A/D 変換部では信号がなければ、0V となります (図 1 理想の波形)。しかし、実際の電子計測器には、信号入力が無い状態でも、自身の持つ電気的ノイズ(自己ノイズと言います)があるため、出力は完全にゼロとはなりません (図1 現実の波形)。このため(式1)や(式 2)のカッコ内の分母の値(20=1)は、実際には1よりも大きな値となり、実際に計測器を使用した場合のダイナミックレンジは、(式 1)や(式 2)のような計算上の値よりも小さな値になってしまうのです。

当社を始めとする各計測器メーカは自己ノイズを低減させるため開発に努めていますが、現状は完全に 0V にすることは出来ておりません。このため改めて最小値と最大値を計測し直し(図1 現実の波形 淡色部分)、比をとったものが上記公称値であり、A/D 分解能から計算で求められる理論上の値とは異なっています。

  • 図1 自己ノイズのイメージ
    図1 自己ノイズのイメージ

ヒトの聴覚のダイナミックレンジ

人間の聴覚が持つ、音の大きさについてのダイナミックレンジ、つまり音の大きさを聞き取れる範囲は約 120 dB と言われています。
この 120 dB というダイナミックレンジを、音の大きさ(音圧) の範囲で表してみましょう。 人間の聞くことのできる音圧の範囲を表すために、最小値(すなわち人間の聞くことのできる最も小さな音圧)を P0、最大値(すなわち人間の聞くことのできる最も大きな音圧) を Pmaxとすると、以下の関係式となります(P0 は最小可聴値とも言います)。

  • (式3)
    (式3)

つまり、人間の聴覚のダイナミックレンジは 100 万倍もある、ということです。
参考までに、人間の聴覚のダイナミックレンジを世の中によくある騒音の大きさと比較したものを図2に示します。これをみても人間の聴覚は、実に広いダイナミックレンジを持つ、優れたセンサであることがよく分かります。

  • 図2 騒音の種類とその大きさ
    図2 騒音の種類とその大きさ

ディジタル計測器入力部の基本機能である A/D変換と、性能の一つであるダイナミックレンジについて、前回と今回の2回にわたって説明してきました。
本コラムで、各語句のイメージがご理解いただけるようになっていただければ幸いです。
(2022年11月16日発行メールマガジンより抜粋)