前回、前々回とdB(デシベル)について用語説明と、電力利得(電力比)と電圧利得(電圧比)で、真数への変換計算が異なることを説明してきました。今回は初心者のためのdB編の最終回として、dBを使う上でのメリットをいくつか紹介し、何故計測結果の報告としてdBが使用されているのかを説明いたします。なお今回の説明に関しては、比較的多用されている電圧比の計算方法を用いることにします。
dBを使う上でのメリット
計測値の読み間違いリスクを減らせる
dBを使用すると少ない桁数で大きな値を表すことが出来ます。通常人間が間違いなく扱える数値の桁数は3桁ないし4桁と言われています。例えば、キャシュカードやクレジットカードの暗証番号数字が4桁であることや、電話番号も市外局番、市内局番、個別番号間も-(ハイフン)で少ない桁数に分割されていることなどが挙げられます。
実際の計測では、1万倍や100万倍などといった、桁数の大きな結果になることも珍しくありません。このような大きな桁数の数字をdB表記にすることで、少ない桁数で結果を表記することができます。例えば、1~10,000,000,000(100億)倍dB表記を0~200dBにて表すことができます。
前回説明したように、を電圧利得(真数)、そのdB値をLとすると、以下の関係式となります。
L= 200dBの場合、
電圧利得の真数 は、10(200/20)=1010=10,000,000,000(100億)
L= -200dBの場合、
電圧利得の真数 は、10(-200/20)=10-10=1/10,000,000,000(1/100億)
となり、1/100億という非常に小さな数字から100億という非常に大きな数字を-200~200(dB)という3桁の数字で扱うことができるので、計測時の値の読み間違い等を防ぐことにもつながります。
スケールが大きく異なる数値でも同じグラフ上で比較しやすくなる
計測結果の値の差が数倍~数十倍程度であれば、棒グラフなどで同じグラフ上に表示することで、その大小関係を比較することができます。しかし、比較するデータがあるデータの100倍を超えるようなデータであった場合、真数グラフでは同じスケールでその大小関係を正確に比較することが難しくなります。このようなケースでも、dB値に変換してグラフ化することで、それらの大小関係について比較しやすくなる、というメリットがあります。
例として、太陽系の星の大きさでこれを説明します。
表1. 太陽系の星の大きさ(直径)と、地球を基準とした、各星の直径比率
| 太陽 | 水星 | 金星 | 地球 | 月 | 火星 | 木星 | 土星 | 天王星 | 海王星 | |
| 直径 (km) | 1,392,700 | 4,880 | 12,100 | 12,760 | 3,570 | 6,790 | 142,980 | 120,540 | 51,120 | 49,530 |
| 直径比率 | 109.1 | 0.4 | 0.9 | 1 | 0.3 | 0.5 | 11.2 | 9.4 | 4 | 3.9 |
| 直径比率 dB | 40.8 | -8.3 | -0.5 | 0 | -11.1 | -5.5 | 21 | 19.5 | 12.1 | 11.8 |
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グラフ1.地球を基準とした各星の直径比率
(左:直径比率のグラフ 右:直径比率のdB表示グラフ)
表1は各星の大きさ(直径)と、地球を基準とした場合の直径比率、およびそのdB値を表しています。グラフ1はそれらを棒グラフで表したものです。
太陽系では太陽が桁外れに大きいため、真数グラフ(左)では、太陽の大きさの1/100以下の地球などはほぼゼロ付近のグラフになってしまいます。一方、dBグラフ(右)では太陽の大きさの約1/300の大きさのである月も、同じスケールのグラフ上に表現することができます。
実際の計測でも、このような100倍を超えるようなデータを比較するケースは少なくありません。このような場合、真数をdB値に変換した上でデータを比較することで、その大小が比較しやすくなります。
音や振動などの周波数分析を行う際に使われるFFTアナライザにおいて、パワースペクトルのグラフがよく用いられますが、この時のリニア表示とログ表示の関係もこれと同じです。
積算・除算の概略計算が楽
dB計算では、掛け算が足し算で、割り算が引き算になります。一体何のことか、と思われる読者の方も多いかと思います。簡単に記載すると、以下の通りです。
真数の積を求める場合は、そのdB値の和を計算する
真数の商を求める場合は、そのdB値の差を計算する
前回のコラム(dBとは?その2)では電力利得、電圧利得の説明でdB値と電力比、電圧比の関係を説明しました(表2)。今回もこの表を用い、検証していきます。
表2. dB(デシベル)値とそれに対する真数値(電力比と電圧比)の関係
| dB値 | -20 | -6.02 | 0 | 03.01 | 6.02 | 10 | 20 | 30 | 40 |
| 電力比 | 0.01 | 0.25 | 1 | 2 | 4 | 10 | 100 | 1,000 | 10,000 |
| 電圧比 | 0.1 | 0.5 | 1 | 1.41 | 2 | 3.16 | 10 | 31.6 | 100 |
まずは真数の掛け算です。
電圧比3.16倍と10倍の積を求めると3.16 × 10 = 31.6
同じ計算をdB値で行うと、和を計算することになるので10(dB)+20(dB)=30(dB)
表2を確認していただくと分かるように、31.6の電圧比は30dBに相当します。
続いて真数の割り算です。
電圧比100倍と10倍の商を求めると100 ÷ 10 = 10
同じ計算をdB値で行うと、差を計算することになるので40(dB)-20(dB)=20(dB)
表2を確認していただくと分かるように、10の電圧比は20dBに相当します。
更に、電圧比で20dBは10倍、10dBは約3倍、6dBは2倍、と個別に覚えておくと、dB値から真数に変換する時に、簡易的な計算が楽にできるようになります。
例えば26dBは、26(dB) = 20(dB) + 6(dB) なので、真数計算では10倍 × 2倍 で基準の20倍と換算出来ます。同様に58 dBの場合、58(dB) = 20(dB) + 20(dB) + 6(dB) + 6(dB) + 6(dB)と分解後、10倍 × 10倍 × 2倍 × 2倍 × 2倍と置き換えて、基準の800倍と、真数を簡単に計算することができます。
最近では、伝達系やサーボ制御系の分野において、この計算がよく用いられます。
例えば、伝達系1が20dB(10倍)のゲインを持ち、伝達系2が14dB(5倍)であるとすると、2つの伝達系をシリーズ(直列)接続する場合のゲインは、20(dB)+14(dB)=34(dB)と簡単に求めることができます。
残念ながら、dBの加算(足し算)、減算(引き算)に関しては、上述のような便利な簡易計算方法はなく、真数に換算してから計算するしかありません。しかしながら、dBが考案された今から100年前では、現在の関数電卓やPC使用など全く想像出来ない状況で、積算(掛け算)、除算(割り算)だけでも簡便に出来るdBは、当時の研究者の自尊心をくすぐるものだったはずです。
今回はdB入門基礎編の最終回として、dBの有効性について説明してきました。
本コラムで説明させていただいた内容は、ほんのとば口でしかありません。
読者の皆様には本コラムにより、これまで以上にdBに興味を持っていただき、知識を深めていただければ幸いです。下記は当社のdBについての技術レポートと以前の計測コラムの紹介です。資料としてご参照願います。
【参考】
小野測器技術レポート「dB(デシベル)とは」
小野測器計測コラム「dB(デシベル)について」
(2022年3月16日発行メールマガジンより抜粋)