当計測コラムでは、当社お客様相談室によくお問い合わせいただくご質問をとりあげ、回答内容をご紹介しています。
音や振動の時間波形を FFT 解析してパワースペクトルを見たときに、想像していた数値よりもだいぶ小さくなっていたり、回転機械装置の運転状態は変わっていないのに、サンプル点数や周波数レンジを変えたりすると、得られる数値が変わったりとか、戸惑うことがあります。また、定常的な振動、音であっても、周波数レンジや解析条件を変えると得られる数値が変わってしまうことがあります。
信号の時間波形と測定・解析条件に関係する原因(FFT 解析のクセ)について紹介します。
こちらも参考にしてください。
デジタル計測の基礎 - 第8回「時間窓長とスペクトル分解能 」
デジタル計測の基礎 - 第9回「いろいろな時間波形とスペクトル」
周波数が変化している波形(例: 回転機械の回転速度が速くなっているとき)
回転速度が変化しているので、回転に同期した周波数も変化しています。
図 1 のような 100.0 Hz の一定周波数のサイン波であれば、パワースペクトルはその周波数でのみ値を持ちます。
図 1 の時間波形は、片振幅は 14.14 m/s2なので実効値が 10.0 m/s2 となります。
100.0 Hz の大きさとオーバーオールの大きさはどちらも 10.0 m/s2 となります。
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図 1
下の図 2 の時間波形ではどうなるでしょうか?
振幅は一定ですが、周波数が低から高に変化しています。
片振幅は 14.14 m/s2 なので、こちらも実効値としては、10.0 m/s2 の波形です。
周波数は、0.8 s 間でほぼ 130 Hz - 480 Hz の変化をしています。
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図 2
片振振幅値が、14.14 m/s2 なので、各周波数成分のパワースペクトルも 10.0 m/s2 という値が欲しいところですが、FFT 解析では、そうはいきません。パワースペクトルは、時間波
形に含まれる、それぞれの周波数成分の2乗平均値と等価だからです。
周波数が変化しているので、0.8 s 間では各周波数成分の存在比率は低くなります。
存在していない時間ではその周波数成分の大きさは 0 です。0.8 s 間の平均結果は、存在割
合に応じて小さくなってしまいます。
結果です。(1 kHz、2048 点 で FFT) オーバーオールは 10.0 m/s2 です。
図 3 上から 2 画面目は、時間窓がハニング窓、3 番目は矩形窓で FFT しています。
パワースペクトルの分布状況に、時間変化の影響と、あと時間窓の形状の影響もはっきり
と現れています。
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図3
ハニング窓の重み付けした波形
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図4
ハニング窓の場合は、中央の時間(0.4 s)で重み付けが最大になります。(図 4)
その部分に存在する周波数成分の大きさが大きくなっています。矩形窓では重みは常に1なので、同じ大きさで分布しています。(波形の切り出しの影響がでています。)
300 Hz の大きさは、ハニング窓のときは、1.17 m/s2 矩形窓のときは、0.598 m/s2 になってます。ハニング窓では、窓関数による減少分を補正しているので、矩形窓より大きな数値が得られてますが、10.0 m/s2 とは程遠い数値になってしまいました。
時間波形の片振幅は 14.14 m/s2 なのにパワースペクトルの結果の数値が小さくなるのは、
0.8 s の間に各周波数が少しの時間しか存在していないことを意味しています。
パワースペクトルで得られる大きさは、各周波数成分ごとの時間波形の2乗平均値と等価です。0.8 s 間同じ周波数であれば平均しても小さくなりませんが、周波数が変化していて、0.8 s の間に存在している時間が短いと、平均した時には、存在の割合分、小さくなってしまいます。もっと周波数変化が大きい場合は、各周波数成分の大きさは、さらに小さくなります。
FFT の時間長と周波数成分の存在時間の割合が変わる測定条件として、サンプル点数の設定と周波数レンジの設定があります。
2048 点から 4096 点にサンプル点数を増やした時はどうなるでしょうか。
波形の振幅は 14.14 m/s2 と一定なので、実効値は 10.0 m/s2 です。周波数の変化は 0.8 sから 1.6 s に時間が長くなった分、大きくなります。時間長に対して、ある周波数成分の占める時間上の割合が 1/2 に減ります。周波数成分の値は、時間長内での2乗平均値なので、割合が減った分小さくなります。オーバーオールは 10.0 m/s2 とかわりません。
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図5
実効値の大きさは 2048 点にくらべて、1/2 になりました。
周波数レンジを下げたときも同様です。周波数レンジを下げると、その分、時間長は長くなります。
測定や解析条件によって数値が変わる同様な現象は、ランダム波形においても、発生します。
時間長による数値の違いは、パワースペクトルが連続的に分布するような波形 ランダム信号の場合にも現れます。ランダム波形では、周波数分解能(⊿f)の違いによります。
同じ信号なのに、周波数レンジが同じでもサンプル点数が違う、あるいはサンプル点数が同じでも、周波数レンジが違うことによって、値が変わります。
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図6
サンプル点数や周波数レンジによって時間長が変わり、それによって得られる数値が変わります。測定時には、装置の運転条件や測定、解析条件も記録として残しておく必要があります。
(2019年1月23日発行メールマガジンより抜粋)