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計測に関するよくある質問から- 第20回「校正信号による音響校正(マイクロホンの場合)」

当計測コラムでは、当社お客様相談室によくお問い合わせいただくご質問をとりあげ、回答内容をご紹介しています。

マイクロホン等で収録した音信号を FFT アナライザやデータステーション等の解析装置で分析する場合は、音響校正器を使って音響校正をおこないます。

騒音計・センサアンプの REF 信号や音響校正器はある決まった音圧レベル(114 dB、94 dBなど)の信号です。その信号を入力したときに解析装置で観測される電圧の大きさを確認すればマイクロホンや騒音計の感度 ( mV/Pa) がわかります。マイクロホン・騒音計・解析装置の動作確認にもなりますし、環境(温度等)・経年変化による感度のずれ、解析装置の入力特性のずれも補正されるため、音の測定の際は通常このような音響校正をおこないます。

設定の誤り、装置の故障、ケーブルの断線などに気がつかないままに音響校正をおこなってしまうと、一見正しい値が表示されていても実際には正しい測定がおこなわれない状況になります。今回は前回に引き続き正しくない音響校正の事例をいくつか紹介します。

正常な校正信号

計測用マイクロホンと解析装置の接続例を図 1 に示します。

  • 図 1 計測用マイクロホンと解析装置の接続例

当社の計測用マイクロホン・プリアンプを、DS-3000 データステーションに接続して、124dB、250 Hz の音響校正器(ピストンホン)の信号を測定した結果を図 2 に示します。使用したマイクロホン・プリアンプの総合感度は約 27.6 mV/Pa です。校正信号の大きさは 124dB (31.6Pa)ですので、校正信号の電圧は実効値で 0.872 V、片振幅で 1.233 V になる計算で、図 2 の上段をみると実際の時間軸波形の最大値は 1.255 V です。中段の音圧信号は実効値で 31.6Pa、片振幅で 44.7 Pa になる計算ですで、図 2 の中段をみると実際の時間軸波形の最大値は45.49 Pa です。この信号を入れた状態で音響校正をおこないましたので、下段のパワースペクトルの 250 Hz 成分とオーバーオールの値は 124 dB になっています。

  • 図 2 正常な校正信号(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)
    図 2 正常な校正信号(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)

音響校正器にはピストンホンタイプとスピーカタイプの 2 種類があります。ピストンホンタイプは、シリンダー内のピストンを往復動作させて一定の音圧を発生する校正器です。機械的なピストン運動により音圧を発生させているために、スピーカタイプと比較するとパワースペクトルに高調波成分が目立ちます。図 2 下段のパワースペクトルでは 750 Hz(3次成分)が 72.2 dB、1000 Hz(4 次成分)が 67.9 dB あります。こういった高調波ひずみの影響で時間軸波形の最大値は計算値より若干ずれていますが、音響校正は通常、パワースペクトルのオーバーオール値によりおこなうため問題にはなりません。

CCLD(定電流駆動)を OFF にした場合

CCLD(定電流駆動)とは解析装置等からセンサやプリアンプに電源を供給する仕組みの 1 つです。メーカによっては IPC、IEPE と呼んでいますが同じ仕組みです。CCLD タイプのマイクロホン用プリアンプを使用する場合は、解析装置等から CCLD 電源を供給する必要があります。

DS-3000からのCCLD電源響供給をOFFにした状態で計測した校正信号を図3に示します。校正信号の電圧波形(上段)の最大値は 0.88 mV です。本来の値(1.233 V)に比べると非常に小さい値です。ただ、グラフの縦軸をオートスケール等に設定していると正弦波に近い波形が表示されてしまうため、設定誤りに気がつかずに音響校正をおこなってしまう可能性があります。

この状態で音響校正をおこなってしまった場合の音圧波形とそのパワースペクトルを図 3の中段、下段に示します。図 2 と比べると、音圧波形にノイズがのっており、パワースペクトルのノイズフロアも 80 dB と高いです。音響校正によって得られる EU 値は、0.0276V/EU 程度の値になるはずですが、実際の EU 値は 0.0000178 V/EU です。これはマイクロホンの感度が 0.0178 m V/Pa しかないことを示します。

音響校正をおこなう前の電圧波形を確認すれば、その振幅が異常に小さいため、こういった設定誤りに気づくことができます。また、意図的にこういった誤った音響校正をおこなって、そのときの EU 値や、音圧波形・パワースペクトルがどのようになるかを把握しておけば、異常な EU 値や波形により設定誤りに気づくことができます。

  • 図 3 CCLD OFF 時の校正信号(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)
    図 3 CCLD OFF 時の校正信号(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)

A 特性フィルタを ON にした場合

DS-3000 の入力設定で、アナログフィルタで A 特性をかけて計測した校正信号を図 4 に示します。

人の耳の感度は周波数によって異なります。A 特性(周波数重み付け: A)は、人が聞いたときの聴覚的な音の大きさを測定する際に使用される特性です。A 特性は 1 kHz が基準となっており、250 Hz の補正値は -8.6 dB です。

音響校正をおこなう際に、解析装置やセンサアンプ、騒音計等で A 特性をかけてしまっていると、A 特性の分だけ EU 値がずれてしまいます。周波数重み付けの基準は 1 kHz ですので、音響校正器の発生音の周波数が 1 kHz であれば問題ありませんが、ピストンホンなどの 250 Hz を発生させる音響校正器や、複数の周波数の音を切替えて発生することができる音響校正器を使用する場合は、A 特性等をかけて音響校正をおこなってしまうと正しい結果が得られません。

図 4 上段の電圧波形をみると、図 2 では 1.255 V であった最大値が、0.462 V と約 0.37 倍だけ小さくなっています。音響校正によって得られる EU 値は、0.0276 V/EU になるはずですが、0.0095 V/EU と小さな値になっています。ただ、A 特性をかけた分だけ EU 値が小さくなったため、図 4 中段の音圧波形と、下段のパワースペクトルには見かけ上、正しい波形が表示されますので、校正結果の波形だけでは校正誤りに気づくことはできません。

この状態で実際の測定をおこなうと、測定結果が以前の測定と 8.6 dB だけずれると現象がおこります。測定結果が 8.6 dB ずれるという現象がおきた場合は、音響校正を正しく Z 特性(または C 特性)でおこなったかどうかを確認してください。

  • 図 4 A 特性時の校正信号(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)
    図 4 A 特性時の校正信号(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)

まとめ

マイクロホンや騒音計(サウンドレベルメータ)で収録した音信号を FFT アナライザやデータステーション等の解析装置で分析する場合は、音響校正器や騒音計の REF 信号(CAL 信号)を使って音響校正をおこないます。設定の誤り等があると、正常な校正信号とは異なった校正信号が観測されます。

とはいえ、「正常な校正信号ではない」とだけ言われてもなかなか見分けるのは難しい場合もありますので、今回は、前回(計測に関するよくある質問から- 第19回「校正信号による音響校正(騒音計の場合))に引き続き、意図的に「誤った校正信号」による音響校正をご紹介しました。

(2018年1月21日発行メールマガジンより抜粋)