当計測コラムでは、当社お客様相談室によくお問い合わせいただくご質問をとりあげ、回答内容をご紹介しています。
マイクロホンや騒音計(サウンドレベルメータ)で収録した音信号をFFTアナライザやデータステーション等の解析装置で分析する場合は、音響校正器や騒音計のREF信号(CAL信号)を使って音響校正をおこないます。
音響校正器やREF信号はある決まった音圧レベル(114 dB、94 dBなど)の信号です。その信号を入力したときに解析装置で観測される電圧の大きさを確認すればマイクロホンや騒音計の感度( mV/Pa)がわかります。マイクロホン・騒音計・解析装置の動作確認にもなりますし、環境(温度等)・経年変化による感度のずれ、解析装置の入力特性のずれも補正されるため、音の測定の際は通常このような音響校正をおこないます。
ただ、設定の誤り、装置の故障、ケーブルの断線などに気がつかないままに音響校正をおこなってしまうと、一見正しい値が表示されていても実際には正しい測定がおこなわれない状況になります。今回は正しくない音響校正の事例をいくつか紹介します。
正常な校正信号
騒音計と解析装置の接続例を図1に示します。
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図1 騒音計と解析装置の接続例
当社騒音計 LA-4440のAC-Z出力を、DS-3000データステーションに接続して計測した114 dB、1 kHzの校正信号を図2に示します。
騒音計のレベルレンジは 60-120 dBレンジ、DS-3000の電圧レンジは 1 Vrmsです。騒音計からはレベルレンジの上限値(120 dB、20 Pa)の時に、実効値0.707 Vの電圧信号が出力されるので、感度は0.03535 V/Paです。
校正信号の大きさは 114 dB (10 Pa)ですので、校正信号の電圧は実効値で0.3535 V、片振幅で0.5 Vになります。図2の上段をみると、片振幅0.5 Vの電圧信号が観測されていることが分かります。中段の音圧信号は実効値で 10 Pa、片振幅で14.1 Paの信号です。この信号を入れた状態で音響校正をおこないましたので、下段のパワースペクトルの1 kHz成分とオーバーオールの値は 114 dBになっています。
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図2 正常な校正信号(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)
入力オーバーを起こしている場合 (1)
DS-3000の電圧レンジを 0.316 Vrmsにして計測した校正信号を図3に示します。校正信号の電圧は実効値で0.3535 V、片振幅で0.5 Vですので0.316 Vrmsレンジですとわずかに入力オーバーになります。電圧波形(上段)と音圧波形(中段)はほぼサイン波です。この信号を入れた状態で音響校正をおこないましたので、下段のパワースペクトルの1 kHz成分とオーバーオールの値は 114 dBになってしまっています。ただ、パワースペクトルをみると1 kHz以外にもピークが多数立っており正常な信号ではないことが分かります。また、DS-3000データステーション本体の入力チャンネル脇のOVER LEDが赤く光ります。
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図3 入力オーバー(0.316 Vmrs)時の校正信号
(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)
入力オーバーを起こしている場合(2)
DS-3000の電圧レンジを 100 mVrmsにして計測した校正信号を図4に示します。電圧波形(上段)と音圧波形(中段)は頭打ちになっており明らかにサイン波ではありません。また、パワースペクトルには1 kHz以外にも多数ピークがたっており正常な信号ではないことが分かります。
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図4 入力オーバー(100 mVmrs)時の校正信号
(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)
騒音計のレベルレンジが適切でない場合も同様の波形になります。例えば騒音計のレベルレンジを 40-100 dBや、30-90 dBにした状態で、114 dBの音響校正器を使用した場合などです。DS-3000等の解析装置側はオーバーにはなりませんが、騒音計にオーバー(OV)の表示がでます。
なお、ピストンホンタイプの音響校正器は比較的ひずみが大きく、校正信号の高調波成分が観測されることがあります。全ひずみが2.5%の音響校正器であれば、校正信号よりも 32dB(= 20×log10(0.025) )小さいかそれ以下の大きさの高調波が観測され場合がありますが、これは正常です。入力オーバー、レンジオーバーと区別するには、解析装置・騒音計のオーバー表示を確認します。
ケーブルが断線している場合
騒音計とDS-3000を接続するケーブルを断線させた状態で計測した校正信号を図5に示します。断線部がわずかに離れているだけですと、信号は空気中を伝わるので、一見それらしい時間波形やパワースペクトルが見えます。このデータの場合は、電圧信号の片振幅は0.368 Vで、本来の値 (0.5 V)よりも少しだけ小さい値になっています。この信号を入れた状態で音響校正をおこなってしまうと、音圧波形やパワースペクトルはまともな値を示してしまいます。ただ、電圧波形・音圧波形をみると波形全体がゆっくりと上下に振れているのがわかります。また、パワースペクトルをみると、電源ノイズと思われる50 Hzとその高調波のスペクトルが見えます。
DS-3000等の解析装置に過電圧を加えてしまったなどの理由で、入力段のヒューズが切れていたり入力部の回路が故障している場合などにもこのような信号が観測される場合があります。
なお、ここで示した波形は一例です。断線や故障によりまったく波形が表示されない場合であればすぐに異常に気付くのですが、ここで示したように正常な波形とわずかしか違わない波形が表示されることもあるという例として紹介しました。
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図5 ケーブル断線時の校正信号
(上段: 電圧波形、中段: 音圧波形: 下段: パワースペクトル)
正しい校正値
電圧レンジ・レベルレンジオーバーや、断線・故障その他の理由で音響校正がうまくいかなかったことを確認するには、音響校正の後に校正値(V/EU値)を確認する方法があります。
当社騒音計のようにレベルレンジ上限値で 実効値 0.707 Vが出力される製品の場合、校正値は表1のようになります。0 dB基準値を 2E-5 (20 μPa)に設定した場合は3列目、0 dB基準値を1に設定している場合は4列目の値になります。
表1 レベルレンジと校正値の関係
| レベルレンジ | レンジ上限値の 音圧実効値[Pa] |
校正値 (0dB基準: 20μPa) |
校正値 (0dB基準: 1) |
| 60-130 dB | 63.2 Pa | 0.01118 V/EU | 2.236E-07 |
| 50-120 dB | 20.0 Pa | 0.03535 V/EU | 7.070E-07 |
| 40-110 dB | 6.32 Pa | 0.1118 V/EU | 2.236E-06 |
| 30-100 dB | 2.00 Pa | 0.3535 V/EU | 7.070E-06 |
| 20-90 dB | 0.632 Pa | 1.118 V/EU | 2.236E-05 |
| 10-80 dB | 0.200 Pa | 3.535 V/EU | 7.070E-05 |
まとめ
マイクロホンや騒音計(サウンドレベルメータ)で収録した音信号をFFTアナライザやデータステーション等の解析装置で分析する場合は、音響校正器や騒音計のREF信号(CAL信号)を使って音響校正をおこないます。設定の誤り、装置の故障、ケーブルの断線などがあると、正常な校正信号とは異なった校正信号が観測されます。
とはいえ、「正常な校正信号ではない」とだけ言われてもなかなか見分けるのは難しい場合もありますので、今回は意図的に「誤った校正信号」を生成してご紹介しました。
(2018年6月20日発行メールマガジンより抜粋)