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基礎からの周波数分析(16)-「クロススペクトル」

  • 本シリーズ「基礎からの周波数分析」は、これまで15回にわたって;
  • フーリエ変換の基礎
  • DFT(FFT)の基礎
  • パワースペクトル

などを説明してきました。特に、パワースペクトルは、電気計測器としてのFFTアナライザで最も基本的で重要な1 Chの関数ですが、これから数回にわたっては、2 Chの関数についてお話します。今回は、1 Chの周波数関数であるパワースペクトルに対応した、2 Ch間の周波数関数であるクロススペクトル(クロスパワースペクトル)についてです。

時間信号x(t)のフーリエ変換をX(f )とすると、x(t)のパワースペクトルPx(f )は;

  • 基礎からの周波数分析(16)-「クロススペクトル」_No.1

ここで、* は複素共役を意味します。また、ここでのX(f )は、一般的なフーリエスペクトルでなく、複素フーリエ係数として考えます。

これと同じように、2つの時間信号x(t)、y(t)のクロススペクトルを式(2)のように定義します。2つの時間信号x(t)、y(t)のフーリエ変換をそれぞれ、X(f )、Y(f )とすると、2 Ch間のクロススペクトルCxy(f )は;

         cxy(f)=X(f)*Y(f)

となります。

ここで、クロススペクトルの物理的な意味を考えます。パワースペクトルは今までの説明にあるように、1 Chの時間信号の周波数毎のパワーですが、クロススペクトルは、x(t)とy(t)の2 Ch信号に含まれる共通周波数成分での振幅成分を周波数の関数として表したもので、通常は複素数となりますので、式(2)は下記のように書き換えることができます。

         cxy(f)=|cxy(f)|ejθ(f)

ここで、|fCxy(f)|は、クロススペクトルの振幅成分、θ(f)は、2 Ch間の位相差(複素共役したChを基準とした、ここではCh 1)を表しています。このように、振幅情報に関しては、明確な意味づけは難しいのですが、位相は、周波数毎のch間の位相差を意味しており、非常に重要な情報です。

パワースペクトルと同様に、クロススペクトルの実際の計測でも、スペクトルの統計的推定精度を上げるために平均化は必須です。その加算平均方法は、パワースペクトルのようにパワー(振幅の2乗)で加算するのでなく、その位相情報を保ったまま、実数部と虚数部の値でそれぞれ加算平均します。それ故、平均すると、信号に無関係なノイズ成分が小さくなりSN比の改善を図ることができます。

クロススペクトルは複素関数なので、複素平面上でベクトル表示することができ、図1と図2では、3回分の加算を表したものです。

  • 図1 Ch間の相関度が1でノイズがない場合
    図1 Ch間の相関度が1でノイズがない場合
  • 図2 Ch間の相関度が1未満またはノイズがある場合
    図2 Ch間の相関度が1未満またはノイズがある場合

図1は、2 Ch間で相関がありノイズもない場合で、この例では、

  • 基礎からの周波数分析(16)-「クロススペクトル」_No.2

となります(上バー は加算平均を意味します)。

図2は、2 Ch間で相関度1未満またはノイズがある場合で、この例では;

  • 基礎からの周波数分析(16)-「クロススペクトル」_No.3

式(4)または式(5)での左辺と右辺の比をコヒーレンス関数と呼び、入出力2 Ch間の周波数ごとの関連度を表しています。

実際のFFTアナライザでは、明示的にクロススペクトルのグラフ表示をしてそれを使うことはあまりありませんが、次回に説明する伝達関数やこのコヒーレンス関数を算出するのに必要な重要な関数です。

クロススペクトルのおもな用途例をまとめます。

  1. 交流電力の算出 電気の分野で、交流電圧(V)と交流電流(i)の積をとることにより、電力(W)を求めることができます。その時、実数部が実効電力で虚数部が無効電力、位相の余弦(cos θ)が力率となります。(以下の計測コラムを参照)
    デジタル計測の基礎 - 第11回「交流電力の力率」
  2. 音響インテンシティの算出 音響系で、音圧と粒子速度の積は単位面積あたりの音響パワーすなわち音響インテンシティとなりますが、2マイクロホン法では、クロススペクトルの虚数部から音響インテンシティを求めることができます。
  3. FFTアナライザにおいてCh間の重要な関数である伝達関数、コヒーレンス関数、相互相関関数を算出するために用いられます。
  4. Ch間の位相情報が得られます。

最後に、まとめです。

  1. パワースペクトルは1 Chの周波数関数ですが、クロススペクトルは、2 Ch間の周波数関数です。
  2. クロススペクトルは、一般に複素数関数で、2 ch 信号に含まれる共通周波数成分での振幅成分、また、位相はCh間の位相差を意味します。
  3. クロススペクトルの平均は、位相情報保ったまま平均するので、パワースペクトル平均と違い、ノイズ低減効果があります。
  4. クロススペクトルの応用としては、交流電力や音響インテンシティなパワー(電力)の算出があります。
  5. FFTアナライザにおいて、クロススペクトルの重要な用途としては、伝達関数やコヒーレンス関数の算出があります。

【キーワード】
クロススペクトル、クロスパワースペクトル、コヒーレンス関数、伝達関数、実効電力、無効電力、力率、音響インテンシティ、相互相関関数

【参考資料】

  1. 「スペクトル解析」日野幹雄著 朝倉書店(1977年)
  2. 「ランダムデータの統計的処理」ベンダット/ピアソル共著 培風館(1985年)

(2014年7月17日発行メールマガジンより抜粋)