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基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」

今回は、ディジタル周波数分析器としての FFT アナライザにとって最も重要でかつ注意すべき機能の1つである時間窓(タイムウィンドウ)についてお話します。なお、FFT DFTを実行する具体的アルゴリズムですから、ここでは、両者は同じとして説明します。

計測コラム基礎からの周波数分析(8)-「離散フーリエ変換(DFT)」で述べたように、連続的な時間信号に DFT(離散フーリエ変換)を適用するためには、時間信号の離散化有限化という処理が必要です。第 1 の離散化に対しては、アンチエイリアシングフィルタによりサンプル前に周波数帯域制限することで、ほぼ誤差なく分析できます。それに対して、数値計算するためには現実的に有限のデータしか扱えないため、第 2 の処理は、離散化されたディジタルデータをある点数(具体的には FFT の計算点数)だけ切り取って有限の DFT をすることを意味します。この連続的な時間信号を切り取る処理を時間窓(タイムウィンドウ)を掛けると言います。この有限化処理に起因するスペクトル上の誤差をなるべく少なくするためにいろいろな時間窓(窓関数)が考案されています。今回は、FFT アナライザ に装備されている代表的な窓関数の特徴とその応用を紹介します。

時間関数をサンプリング周波数 fs で離散化したディジタルデータを N 点だけ切り取ってFFT 分析するということは、DFT の性質により、繰り返し周期が T ( = N/fs)の連続した周期関数とみなして計算されることになります。この T 時間窓長と呼びます。この時間窓長 T が仮に入力信号の周期の整数倍である場合(現実的には、ほとんどありえないが)は、分析対象の時間信号が元の時間信号と等しくなり、正しいスペクトルが計算されます( 1)。そうでない場合(実際の信号はほとんどこの場合)は、切り取った時間窓長 T の最初と最後で不連続な波形となり、その結果波形にひずみが生じたことになり、スペクトルにその周波数(入力信号周期の逆数)を中心として広がりが発生します( 2)

  • 図 1 時間窓長 T が入力信号周期の整数倍であるときの FFT 分析例
    図 1 時間窓長 T が入力信号周期の整数倍であるときの FFT 分析例
  • 図 2 時間窓長 T が入力信号周期の整数倍でないときの FFT 分析例
    図 2 時間窓長 T が入力信号周期の整数倍でないときの FFT 分析例

このように、卓越した周波数成分ピーク(メインローブ)が減少してそのピークの両側になだらかな裾(サイドローブ)が現れ、ピークのエネルギーがその近傍付近に漏れ出す現象を漏れ誤差(リーケッジ誤差)と呼びます。そこで、例えば図 3(この例では、後述するハニング窓を使っている)にあるように、始まりと終わりで 0 となるような時間窓を掛けて FFT 分析すると、この誤差を軽減させることができます。このように、通常のFFT アナライザでは、特別に工夫した時間窓を使用して、サイドローブがなるべく小さくなるように処理をしてスペクトルを求めています。

  • 図 3 ハニング窓をかけた時の FFT 分析例
    図 3 ハニング窓をかけた時の FFT 分析例

以下、よく使用される 3 種類の代表的な時間窓に関して説明します。

最初に、方形窓(矩形窓、レクタンギュラウィンドウ)です。このウィンドウは、単純に時間窓長 T の区間を切り取っただけの時間窓関数で、最も基本的でまた他の時間窓の基準となる重要な時間窓です。図 2 にあるように、最も大きなサイドローブが現れるため、通常の連続的な時間波形にはあまり適していませんが、衝撃波のような時間波形に対しては、波形をひずませることがないので正確にスペクトルを求めることができます。

方形波の窓関数を式(1)と定義すると、そのスペクトルは式(2)となります。

  • 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」_No.1

.................................(1)

  • 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」_No.2

.................................(2)

また、方形波の形とそのスペクトルは、図 4 となります。

  • 図 4 方形窓の形とそのスペクトル
    図 4 方形窓の形とそのスペクトル

さて、なぜ図 2 のようなスペクトルになるかの定性的な説明をします。実際に FFT する波形は、切り取る前の連続的な時間信号 x(t)と式(1)の時間窓 w(t)との積となりますから、その周波数スペクトルは、元の時間信号と時間窓関数との各のフーリエ変換の畳み込みとなります。たとえば、入力信号 x(t)が周波数 f 1 の正弦波とすると、そのスペクトルは、中心周波数が f 1 でその形は図 4 の下段となります。図 1 の場合は、中心周波数 f 1 が方形窓のスペクトルのぴったり真ん中となりサイドローブは全て 0(ヌル)点となるので、図 1 のスペクトルとなります。それに対して、図 2 の場合では、ピークがずれて落ち込み、かつサイドローブも両側のお山の部分をなぞるような形となり、図 2 のスペクトルとなります。

時間窓関数の特性を評価する重要なパラメータとして等価ノイズ帯域幅(Equivalent Noise
Band Width、以下 ENBW)があります。これは、スペクトルの全エネルギーをメインローブ
のピーク値で規格化した等価的な帯域幅でFFTアナライザでの実際的な分解能幅に相当します。

  • 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」_No.3

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  • 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」_No.4

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  • 図 5 等価ノイズ帯域幅
    図 5 等価ノイズ帯域幅

方形窓の ENBW は、時間窓長 T の逆数である Δf そのものとなります。このディジタル周
波数分析での計算上の周波数分解能 Δf を、周波数ビン(frequency bin、あるいは単にビン)
と呼びます。

次に、図 3 にも出てきたハニング窓(Hanning window)です。これは、時間窓長 T の始まり
と終わりでの波形の不連続を防ぐために、切り取った時間波形を歪ませて、強制的に始まりと
終わりを 0 にした時間窓で、FFT アナライザとして最も一般的に使用されているものです。

ハニング窓の窓関数を式(5)と定義すると、そのスペクトルは式(6)となります。

.................................(5)

  • 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」_No.6

.................................(6)

また、ハニング窓の形とそのスペクトルは、図 6 となります。

  • 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」_No.6
    図 6 ハニング窓とそのスペクトル

 

ハニング窓の ENBW を式(4)から求めると;

  • 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」_No.7

.................................(7)

このように、ハニング窓は、方形窓に比べて等価的な分解能が悪くなりますが、サイドロ
ーブ特性は大幅に改善されており、方形窓ではサイドローブで埋もれた小さいスペクトル
成分の検出が可能となります。
また、方形窓に比べて、時間窓の前後で小さくなる重みを掛けているので、全体のパワー
が減少することになります。窓を掛けたパワーと方形波窓でのパワーとの比をパワー減少率
と呼び、式(8)で定義されます。

  • 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」_No.8

ハニング窓のパワー減少率は、3/8(= -4.6 dB)となります。

最後に、フラットトップ窓(flat-top window)です。 これまで説明した方形窓やハニング
窓などのスペクトルは頂上部が平ではありません。そのため、正弦波など線スペクトル構
造を持つような信号を分析する場合、図 2 の例にあるようにピークが減衰してしまいます。
これを防ぐために考えられた窓が、フラットトップ窓です。

この窓の作り方は、時間窓関数と逆で周波数軸上のピーク点でなるべくフラットとなるよ
うに、時間軸上で式(2)の形となるようにしてそれに適当な窓関数をかけます。これから、
近似的にフラットトップ窓の時間関数は式(9)のようになります。

  • 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」_No.9

.................................(9)

フラットトップ窓の形とそのスペクトルは、図 7 となります。

  • 図 7 フラットトップ窓とそのスペクトル
    図 7 フラットトップ窓とそのスペクトル

式(4)と式(9)から、この窓の ENBW を計算すると

...............................(10)

このように、フラットトップ窓は、等価的な分解能が非常に悪く隣接したピークが複数あ
るようなスペクトル分析には向かないが、メインローブでほぼフラットなので、線スペク
トルのピークの読み取りに適しています。

実際の FFT アナライザは、選択された時間窓のフィルタ形状に対応したフィルタ群が分析
ライン数 L だけ周波数ビン Δf 間隔で並んだことと等価となります。

図 8 に見られるように、時間窓長 T が入力信号の周期のちょうど整数倍でないときは隣り
合うフィルタ間で落ち込みがでてきて、これをピケットフェンス効果と呼びます。

  • 図 8 時間窓のピケットフェンス効果
    図 8 時間窓のピケットフェンス効果

図 9 は、これまで説明した 3 つのフィルタに関して、フィルタの最大の落ち込み渡(レベル確度)を比較したものです。

  • 図 9 時間窓のピケットフェンス効果
    図 9 時間窓のピケットフェンス効果

 

これまでの説明をまとめると、表 1 となります。

表 1 FFT アナライザに使用される代表的な時間窓の種類と特徴

時間窓 ENBW レベル確度(dB) 周波数分解能 主な用途
方形(レクタンギュラ) 1 Δf -3.9 ・過渡信号
・ハンマリング試験
ハニング 1.5 Δf -1.42 ・連続的な信号
・一般的な計測
フラットトップ 3.671 Δf ±0.1 ・線スペクトルのピーク値の
読み取り

FFT アナライザで時間窓の選択で、とても大雑把な言い方をしますと、「過渡現象の波形に
は方形窓、その他はハニング窓」となります。

最後に、まとめです。

  1. 連続的な時間信号に離散フーリエ変換(DFT)を適用するためには、時間信号
    の離散化と有限化が必要です。
  2. 離散化に対しては、時間信号を離散化(サンプリング)するまえに、アンチエイ
    リアシングフィルタを使うことにより、ほぼ誤差なく分析できます。
  3. 有限化に対しては、これにより誤差をなるべく少なくするために、FFT する前に
    最適な時間窓を掛ける必要があります。
  4. 方形窓は、時間窓長 T で切り取っただけの窓関数で、周波数分解能はもっと
    もよいですが、サイドローブが多く出て、連続的な信号では使用しません。
    ハンマリング試験のような過渡現象の波形に適しています。
  5. ハニング窓は、FFT アナライザで最も一般的な時間窓で、通常の連続的な時間信号に使われます。
  6. フラットトップ窓は、周波数軸上のフィルタの落ち込みが最も少なくなるように細工した時間窓で、近接していない線スペクトルのピークレベル読み取りに最適です。

【キーワード】
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ュラウィンドウ、畳込み、等価ノイズ帯域幅、ENBW、周波数ビン、ハニング窓、パワー減
少率、フラットトップ窓、ピケットフェンス効果、レベル確度


【参考資料】

  1. 「ディジタルフーリエ解析(I)-基礎編-」城戸健一著 コロナ社(2007 年)
  2. 「やさしい FFT アナライザの使い方」山口・小野編著 オーム社(1994 年)

(2014年3月20日発行メールマガジンより抜粋)