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基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」

前回のフーリエスペクトルに続いて、今回はパワースペクトルについてお話しします。

スペクトル解析の主要な目的は、パワースペクトルを計測することであり、電気計測器としての FFT アナライザで最も基本的で重要な関数です。それ故、パワースペクトルは 2 回に分けてお話しします。今回はその 1 です。

パワースペクトルは、周波数の関数であり、元の時間信号に含まれる周波数毎の単位時間当たりのエネルギーすなわちパワー(信号の強さ)を表しています。

スペクトル解析など信号処理の分野での“パワー”とは、時間信号の 2 乗平均値を指します。
例えば、周期 T の時間信号 x(t)の 2 乗平均値 -x2 は ;

  • 基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」_No.1

.................................(1)

あるいは、周期のない時間信号 x(t)の 2 乗平均値-x2 は;

  • 基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」_No.2

.................................(2)

と表すことが出来ます。

一般に、時間信号は確定信号非確定信号に大きく分類できます。確定信号とは、周期信号のように時間の関数として記述できる信号であり、非確定信号とは、ランダム信号(不規則信号)のように明確に数式で記述できず確率的な信号です。

まず周期 T の周期信号 x(t)について考えると、複素フーリエ級数展開により;

  • 基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」_No.3

.................................(3)

と表現できます。ここで ck は、前々回(メルマガ 144 号)のコラムで出てきた複素フーリエ係数です。(周波数データとして引数を k としています。)

次に、式(3)の両辺を 2 乗して周期 T で平均をとると、複素指数関数の直交性から下記の式(4)となります。

  • 基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」_No.4

.................................(4)

または、正の周波数成分と負の周波数成分の大きさは等しいので;

  • 基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」_No.5

.................................(5)

ここで、

  • 基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」_No.6

、 P (0)  = c02 とおくと、式(5)は;

  • 基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」_No.7

.................................(6)

となります。式(6)は、周波数毎の成分 P(k)の総和が時間信号 x(t)のパワー(左辺)となるので、周波数関数 P(k)パワースペクトルと呼びます。パワースペクトルは、フーリエスペクトル(または、複素フーリエ係数)と違い、位相情報が失われます。

この P(k)を、FFT 演算を使って求める手順を説明します。

前々回の計測コラム「フーリエスペクトル」であげた下記の式(7)を例とします。

  • 基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」_No.8

n=0、1、2、……、N-1

.................................(7)

上式(7)において、N=64、k=4 を代入して N 点 FFT 演算すると、フーリエスペクトルは、表 1 のような計算結果となります。

表 1 式(7)に N = 64、k = 4 を代入した計算結果

周波数点(k)  実数部  虚数部
k=4(正の周波数) img-measurement-column-20131121-09 img-measurement-column-20131121-10
N-k=60(負の周波数) img-measurement-column-20131121-09 img-measurement-column-20131121-10

この結果から、時間窓長 T(T=N τ で、τ を省略した N=64)で除算して;

  • 基礎からの周波数分析(12)-「パワースペクトル(その1)」_No.9

.................................(8)

と求められます。これは、式(7) x(t) 2 乗平均値と等しくなり、式(6)が確認されたことになります。

実際の FFT アナライザでは、有限で離散的なフーリエ変換ですから、前々回説明したように、理論的には N 点の時間データから N/2 点までのパワースペクトルが求めることができますが、アンチエイリアシング(折り返し防止)フィルタの関係から、これより少し小さめの N/2.56 点まで計測できる仕様になっています。例えば、N=64 の時は、64/2.56=25点まで求めています。(実際には、DC 成分もあり 26 点ですが・・・)これらの関係は、図 1と図 2 を参考にして下さい。

  • 図 1 FFT 演算における周波数並び(N = 64 の場合)
    図 1 FFT 演算における周波数並び(N = 64 の場合)
  • 図 2 サンプリング周波数と周波数レンジの関係
    図 2 サンプリング周波数と周波数レンジの関係
  • 図 3 時間波形と FFT 処理したパワースペクトル
    図 3 時間波形と FFT 処理したパワースペクトル

ここで、時間波形とパワースペクトルの関係についてまとめます。

図 3 において、サンプリング周波数 fs でサンプルした N 点の時間波形(上図)を、N 点 FFTを実行して下図のパワースペクトルを求めたとします。

時間軸

  1. 時間分解能時間軸_No.1
  2. サンプリング点数 N
  3. 時間窓長時間軸_No.2

周波数軸

  1. 周波数レンジ周波数軸_No.1
  2. 分析ライン数周波数軸_No.2
  3. 周波数分解能周波数軸_No.3

最後の式から、パワースペクトルの周波数分解能 Δf をあげる(小さく)するためには、サンプリング周波数 fs を小さくするか、サンプリング点数 N を大きくするかのいずれかであることがわかります。

また、上記の関係式でなぜ“2.56”という定数を使うかですが、通常 FFT 点数は 2 のべき乗
で実行しますので、周波数分解能を割り切れるきれいな数としたいためです。

小野測器の FFT アナライザで使えるサンプリング点数 N とそれに対応した分析ライン数 L
は、下記の表 2 です。

表 2 サンプリン点数と分析ライン数

2のべき乗

サンプリング点数N(時間軸)

分析ライン数 L

(周波数軸)

6

64

25

7

128

50

8

256

100

9

512

200

10

1024

400

11

2048

800

12

4096

1600

13

8192

3200

14

16384

6400

次回は、パワースペクトル(その 2)として、PSD と ESD に関してお話しします。

最後に、まとめです。

  1. スペクトル解析の主な目的は、パワースペクトルを求めることです。
  2. パワースペクトルは、元の時間信号に含まれる周波数毎の単位時間当たりのエネルギーすなわちパワー(信号の強さ)を表しています。また、位相情報は持たない正の実数値です。
  3. 一般にパワーとは、時間信号の 2 乗平均値(実効値の 2 乗)であり、パワースペクトルはそのパワーを周波数毎に分解したものであると言うことができます。
  4. N 点の時間波形から、原理的には N/2 点までのパワースペクトルが得られますが、実際の FFT アナライザにおいては、それより少ない分析ライン数である N/2.56まで求めています。
  5. パワースペクトルはある周波数分解能 Δf で分析されますが、その分解能をあげる(良くする、小さくする)ためには、サンプルする時間窓長 T を大きくする必要があります。すなわち、サンプリング周波数 fs を低くするか、サンプリング点数 Nを大きくするかのどちらかです。

【キーワード】
スペクトル解析、フーリエスペクトル、パワースペクトル、パワー、信号の強さ、2 乗平均値、確定信号、非確定信号、複素フーリエ係数、アンチエイリアシングローパスフィルタ、周波数分解能

【参考資料】

  1. 「スペクトル解析」日野幹雄著 朝倉書店(1977 年)
  2. 「ディジタルフーリエ解析(I)-基礎編-」城戸健一著 コロナ社(2007 年)

(2013年11月21日発行メールマガジンより抜粋)