前回のフーリエスペクトルに続いて、今回はパワースペクトルについてお話しします。
スペクトル解析の主要な目的は、パワースペクトルを計測することであり、電気計測器としての FFT アナライザで最も基本的で重要な関数です。それ故、パワースペクトルは 2 回に分けてお話しします。今回はその 1 です。
パワースペクトルは、周波数の関数であり、元の時間信号に含まれる周波数毎の単位時間当たりのエネルギーすなわちパワー(信号の強さ)を表しています。
スペクトル解析など信号処理の分野での“パワー”とは、時間信号の 2 乗平均値を指します。
例えば、周期 T の時間信号 x(t)の 2 乗平均値 -x2 は ;
.................................(1)
あるいは、周期のない時間信号 x(t)の 2 乗平均値-x2 は;
.................................(2)
と表すことが出来ます。
一般に、時間信号は確定信号と非確定信号に大きく分類できます。確定信号とは、周期信号のように時間の関数として記述できる信号であり、非確定信号とは、ランダム信号(不規則信号)のように明確に数式で記述できず確率的な信号です。
まず周期 T の周期信号 x(t)について考えると、複素フーリエ級数展開により;
.................................(3)
と表現できます。ここで ck は、前々回(メルマガ 144 号)のコラムで出てきた複素フーリエ係数です。(周波数データとして引数を k としています。)
次に、式(3)の両辺を 2 乗して周期 T で平均をとると、複素指数関数の直交性から下記の式(4)となります。
.................................(4)
または、正の周波数成分と負の周波数成分の大きさは等しいので;
.................................(5)
ここで、
、 P (0) = c02 とおくと、式(5)は;
.................................(6)
となります。式(6)は、周波数毎の成分 P(k)の総和が時間信号 x(t)のパワー(左辺)となるので、周波数関数 P(k)をパワースペクトルと呼びます。パワースペクトルは、フーリエスペクトル(または、複素フーリエ係数)と違い、位相情報が失われます。
この P(k)を、FFT 演算を使って求める手順を説明します。
前々回の計測コラム「フーリエスペクトル」であげた下記の式(7)を例とします。
n=0、1、2、……、N-1
.................................(7)
上式(7)において、N=64、k=4 を代入して N 点 FFT 演算すると、フーリエスペクトルは、表 1 のような計算結果となります。
表 1 式(7)に N = 64、k = 4 を代入した計算結果
| 周波数点(k) | 実数部 | 虚数部 |
| k=4(正の周波数) | ![]() |
![]() |
| N-k=60(負の周波数) | ![]() |
![]() |
この結果から、時間窓長 T(T=N τ で、τ を省略した N=64)で除算して;
.................................(8)
と求められます。これは、式(7)の x(t)の 2 乗平均値と等しくなり、式(6)が確認されたことになります。
実際の FFT アナライザでは、有限で離散的なフーリエ変換ですから、前々回説明したように、理論的には N 点の時間データから N/2 点までのパワースペクトルが求めることができますが、アンチエイリアシング(折り返し防止)フィルタの関係から、これより少し小さめの N/2.56 点まで計測できる仕様になっています。例えば、N=64 の時は、64/2.56=25点まで求めています。(実際には、DC 成分もあり 26 点ですが・・・)これらの関係は、図 1と図 2 を参考にして下さい。
-
図 1 FFT 演算における周波数並び(N = 64 の場合)
-
図 2 サンプリング周波数と周波数レンジの関係
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図 3 時間波形と FFT 処理したパワースペクトル
ここで、時間波形とパワースペクトルの関係についてまとめます。
図 3 において、サンプリング周波数 fs でサンプルした N 点の時間波形(上図)を、N 点 FFTを実行して下図のパワースペクトルを求めたとします。
時間軸
- 時間分解能

- サンプリング点数 N
- 時間窓長

周波数軸
- 周波数レンジ

- 分析ライン数

- 周波数分解能

最後の式から、パワースペクトルの周波数分解能 Δf をあげる(小さく)するためには、サンプリング周波数 fs を小さくするか、サンプリング点数 N を大きくするかのいずれかであることがわかります。
また、上記の関係式でなぜ“2.56”という定数を使うかですが、通常 FFT 点数は 2 のべき乗
で実行しますので、周波数分解能を割り切れるきれいな数としたいためです。
小野測器の FFT アナライザで使えるサンプリング点数 N とそれに対応した分析ライン数 L
は、下記の表 2 です。
表 2 サンプリン点数と分析ライン数
|
2のべき乗 |
サンプリング点数N(時間軸) |
分析ライン数 L (周波数軸) |
|
6 |
64 |
25 |
|
7 |
128 |
50 |
|
8 |
256 |
100 |
|
9 |
512 |
200 |
|
10 |
1024 |
400 |
|
11 |
2048 |
800 |
|
12 |
4096 |
1600 |
|
13 |
8192 |
3200 |
|
14 |
16384 |
6400 |
次回は、パワースペクトル(その 2)として、PSD と ESD に関してお話しします。
最後に、まとめです。
- スペクトル解析の主な目的は、パワースペクトルを求めることです。
- パワースペクトルは、元の時間信号に含まれる周波数毎の単位時間当たりのエネルギーすなわちパワー(信号の強さ)を表しています。また、位相情報は持たない正の実数値です。
- 一般にパワーとは、時間信号の 2 乗平均値(実効値の 2 乗)であり、パワースペクトルはそのパワーを周波数毎に分解したものであると言うことができます。
- N 点の時間波形から、原理的には N/2 点までのパワースペクトルが得られますが、実際の FFT アナライザにおいては、それより少ない分析ライン数である N/2.56まで求めています。
- パワースペクトルはある周波数分解能 Δf で分析されますが、その分解能をあげる(良くする、小さくする)ためには、サンプルする時間窓長 T を大きくする必要があります。すなわち、サンプリング周波数 fs を低くするか、サンプリング点数 Nを大きくするかのどちらかです。
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【参考資料】
- 「スペクトル解析」日野幹雄著 朝倉書店(1977 年)
- 「ディジタルフーリエ解析(I)-基礎編-」城戸健一著 コロナ社(2007 年)
(2013年11月21日発行メールマガジンより抜粋)

