インパルス応答から残響時間を算出する方法は、1965年Schroederによって発表されました。その後、ディジタル信号処理技術の進展と、室内音響計測にPCの利用が一般的になったことで、30余年を経て、1997年に本手法が規格化された経緯は前回お話しました。
今回は、ごく簡単にではありますが、インパルス応答の意味、測定方法、および、インパルス応答積分法から、残響時間を算出するプロセスを説明します。
インパルス応答は、「インパルスと呼ばれる非常に短い信号を入力したときのシステムの出力」と定義されます。ホールのような室内でのインパルス応答の測定は、古くは、競技のスタートに用いるピストル発火音を用いて、ステージ上で「パァン」と鳴らして、その音の減衰過程を客席で観測するということを行っていました。簡易的には、手を叩いても短いパルス的な音が生じるので、室の響きの印象はつかめます。室内音響において、非常に短い信号の入力とは、上記のようなパルッシブな音源の室内への発生であり、システムの出力は、受音点における応答(直接音と反射音による音圧時間波形)ということになります。このインパルス応答は、波形上の一つ一つの反射音の方向は未知であるものの、ある音源と受音点の関係における物理音響的なすべての情報を含んでいるといえます(図1参照)。
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図-1 インパルス応答の概念図
さて、現在では、ピストルの代わりにスピーカを用いて測定しますが、通常スピーカは、特に高周波領域では強い指向性をもちますので、無指向性12面体スピーカを用いるのが一般的です。音源に用いる信号の種類として、大きくは以下の3つの方法が取られます。
- パルス音
電気信号のパルスをスピーカから放射させ、直接、空間にパルス音そのものを放射し収録する方法。直感的な手法ですが、パルスのエネルギーが小さいため、S/Nを向上させるために通常は同期加算が必要になります。 - M系列ノイズ
M系列信号(maximum length sequence signal)は、長さ1 L = 2N − 1 の周期を持つ2値(−1と1)系列の白色性擬似ランダム信号です。高速アダマール変換という相互相関関数の計算が効率化される手法を用いることで、きわめて高速にインパルス応答を求めることができます。S/Nも収録時間を最適に設定することで十分とれますが、音場の時変性の影響を受けやすいことが明らかになっているため注意が必要です。 - スイープパルス
スイープ信号は、連続的に周波数を変化させた信号で、一度に任意の周波数帯域の特性を測定したいときに便利な信号です。普通のパルス信号よりエネルギーの大きいスイープパルス(時間伸長信号)を放射し、収録時に演算処理(時間圧縮)をする方法です。エネルギーも普通のパルスよりかなり大きいので、S/Nも確保されます。測定中、聴感上の残響を感じることができるのも本手法の利点です。
次に、上記のような手法で測定されたインパルス応答から、残響時間を求めるプロセスを説明します。
冒頭に述べたSchroederは、インパルス応答を2乗した時間データに対し、時間軸を反転して積分して求めた減衰曲線が、前回示したランダムノイズを止めて求めた減衰曲線と理論的に同一であることを示しました。
時間関数としての減衰は(1)式で表せます。
ただし、p(t)はインパルス応答を表します。(1)式の積分は、(2)式に示すように2回の積分演算に分けて行うこともできます。
上式で求めた減衰曲線に対し、前回説明した減衰曲線の最小2乗法により直線の傾きを求めますが、最小でもダイナミックレンジを20dBとし、可能であれば30dB確保するこが望ましいとされています。また,測定におけるダイナミックレンジは明記されなければなりません。
本手法では、S/Nが十分に取れていない場合、インパルス応答の継続時間の後部時間において本来の残響成分にノイズがのるため,減衰曲線の後部時間に平らな方向へ大きな折れ曲がりが生じるという問題があります。
規格(ISO3382-1:2009)では、暗騒音の影響を小さくするための処理上の方法を示していますが、あまり実用的は言えません。少なくとも20dBのダイナミックレンジが確保できる測定システムおよび、測定方法を用いることが重要です。ダイナミックレンジを決める要因は、音場の暗騒音レベル、スピーカの出力レベル、上記3つの手法の選択、同期加算や信号長など様々であり、どの程度のダイナミックレンジが確保できるかどうかは、知識とある程度の経験を要する測定であることも事実です。
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○ ISO 3382-1:2009 Acoustics -- Measurement of room acoustic parameters
Part 1: Performance spaces
○ ISO 3382-2:2008 Acoustics -- Measurement of room acoustic parameters
Part 2: Reverberation time in ordinary rooms
○ M. R. Schroeder,"A new method of measuring reverberation time" J. Acoust. Soc. Am.,vol. 37,pp 409-412,1965
(2010年12月22日発行メールマガジンより抜粋)