これまで残響時間について、理論的な立場から、拡散音場の定義、Sabineの残響時間理論式の導出、その限界とEyringの式の導出について、5回にわたって説明してきました。今回と次回は、残響時間の測定方法の規格であるISO 3382について、その制定の経緯と内容の概略を説明します。
1975年に制定されたISO 3382“Measurement of reverberation time in auditoria”は、音楽ホールや劇場、講堂などのオーディトリアムの残響時間測定方法を規定するものでした。その後、20年を経過して改定されたISO 3382:1997“Measurement of reverberation time of rooms with reference to other acoustical parameters”は、デジタル信号処理による音響計測技術の発展を反映した内容が追加され、さらに、対象の室もオーディトリアムに限らず、スピーチや音楽の用途に用いる室、あるいは騒音対策の対象とする空間を含む規格として、より広いスコープとなりました。
1980年以降建設が盛んになったコンサートホールをはじめとするオーディトリアムの設計、評価には、残響時間だけでなく、インパルス応答から算出される室内音響指標が用いられるようになりました。1997年の規格では、この室内音響指標を規格本体に盛り込むことが規格作成時には提案されましたが、まだ研究段階のものもあり、最終的には附属書に参考として記載されるにとどまっています。規格名にある“other acoustical parameters”は、この室内音響指標のことです。
さて、測定に関して現規格(1997年)と前規格(1975年)とのもっとも大きな差異は、インパルス応答から残響時間を算出する方法(インパルス応答積分法)が規定されたことです。このインパルス応答積分法は古くSchroederによって1965年に発表された論文[1]にその方法が示されていますが、汎用的にデジタルで音圧波形を扱えるようになった80年代以降に普及しました。この手法の説明については次回に譲ることとして、今回は、従来から使われているオーソドックスなノイズ断続法について説明させて頂きます。
ノイズ断続法は、音源として広帯域ノイズあるいは、バンドノイズを用いて、それを停止した後の音圧レベルを直接記録することによって減衰曲線を求める方法です。デジタル記録ができる前は、レベルレコーダを用いて減衰曲線を記録していましたが、現在は、ほとんど、A/D変換の後、PCに取り込んでソフトウェアで処理されるか、専用機で同様の処理をするケースがほとんどだと思います。
ではこの減衰曲線から、どうように残響時間を求めるかを、次に説明しましょう。
残響時間の定義は、既報で何度も述べたように、継続した音が停止されて60dB減衰する時間です。ただし、測定環境の暗騒音レベルと、スピーカの出力レベルの関係で、全周波数に渡って60dBのS/Nを確保することができない場合があります。これは、インパルス積分法と共通ですが、下図1に示すように、減衰波形の初期レベルから-5dB ~ -35dBまでの減衰に最小2乗法による直線回帰を適用して、その傾きでの60dB減衰相当の時間を求めます。初期減衰を含めない理由は、初期反射音は離散的に到来することから減衰波形においても一様な減衰とならず、特に低音域ではその傾向が強くなるためです。また、音が減衰してレベル波形が暗騒音レベルと一致するとき、その直前では、暗騒音に影響されて、減衰波形は減衰音と暗騒音のdB和に相当する値だけ持ち上がることになり、減衰曲線は平らな方向に傾いてしまいます。従って、初期反射成分範囲を除く-5dBから暗騒音が影響しない-35dBの範囲を考慮するというわけです
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図1 減衰曲線から残響時間を求める方法
また、音源設備、測定環境のいずれからの制約で、ダイナミックレンジが狭くなる場合は、最低でも-5dBから-25dBの20dBの範囲で同様の処理をして残響時間を求めてよいことになっています。この違いを明確にする必要がある場合は、-5dB ~ -35dBまでの減衰から求めた場合にはT30、-5dB ~ -25dBまでの減衰から求めた場合にはT20と表示します。前者の測定では、暗騒音レベルより45dB以上(後者は35dB以上)の音圧が得られる音源の確保が必要です。
その他、本規格には、測定に関わる項目では、マイクロホン、録音および分析器、レベル減衰記録装置などの受音側の計測器の規定、測定点、測定回数、測定結果の記述について詳述されていますので、実際に残響時間の測定を行う場合は、本規格の参照をお願いします。
なお,ISO 3382は、最近,音楽ホールや講堂などのオーディトリアムを対象とした室内音響評価指標の規格と、それ以外の一般の部屋の残響時間の規格に別れ,以下のようになっています。
ISO 3382-1: 2009 Acoustics -- Measurement of room acoustic parameters Part 1: Performance spaces
ISO 3382-2: 2008 Acoustics -- Measurement of room acoustic parameters Part 2: Reverberation time in ordinary rooms
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○[1]M. R. Schroeder, "A new method of measuring reverberation time" J. Acoust. Soc. Am.,vol. 37,pp 409-412,1965
(2010年11月18日発行メールマガジンより抜粋)