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音の測定の基礎 - 第10回「騒音の評価」その6 - emission transmission immission -

過去5回に渡って「騒音の評価」について解説してきましたが、その内容は、等価騒音レベル、ラウドネス、さらに、短い時間周期で変動する騒音の評価と、特に機械騒音を対象にして、音質評価に踏み込んで解析事例を紹介しました。

これらは、いずれも騒音を受ける場所、正確には、人が受聴する位置での音の評価です。音の評価の領域を広く捉えると、都市交通インフラや多種多様な機械など、音源そのもの発生音をどう評価するか、また、それらが受聴位置まで伝搬する過程でどの程度の減衰量を見込むか、といったことも含めた全体の評価が考えられます。

人が音を受聴する前のプロセスは、耳に至るまでの音の「伝搬」があり、その前に音の「発生」があります。計測コラムの本シリーズ「音の測定の基礎」の1回目で、以下のように述べました。

音の測定の基礎 - 第1回「私達の身の回りにある音とその属性」

「・・・突出した騒音源(emission)の対策はほぼ収束し、昨今の関連学会では、騒音が伝搬する経路(transmission)や、騒音を受ける場(immission)、その場に存在する他の騒音との関係(masking)なども含め、総合的なアプローチの必要性が議論されています。・・・」

本来は、この騒音の全体像を、もう少し説明した上で各論に入ればよかったのでしょうが、冒頭に述べたような順で話をしてきてしまいました。今回は、もう一度視点をマクロなところに移して、これまでの内容や今後話しを続けていく内容の地図のようなものをご提供できればと考え、話を整理したいと思います。

このemission → transmission → immission のプロセスを「etiプロセス」と称して議論を進めます。immisionは、一般には曝露と訳されますが、ここでは広い意味で、「人が騒音を受ける場」という解釈でこの言葉を使いたいと思います。
このetiプロセスは、環境騒音のモデルとしてよく使われるものですが、表1に示すように、環境騒音も、建物内の騒音を扱う建築音響の領域においても、機械から発生する音に対しても、共通するプロセスです。

表1 対象騒音別 eti プロセス

分類 Emission(発生) Transmission(伝搬) Immission(受音・影響)
環境騒音(例:道路交通騒音 ・走行状態(定常、非定常、加速、減速、停止) ・距離減衰 ・建物外壁の総合透過損失(House Filter)
・車種別走行速度 ・防音壁回折効果 ・居室の暗騒音(対象騒音以外)
・補正条件(舗装路種類、縦断勾配、指向性など) ・地表面効果 ・騒音評価指標
・音源は主にエンジン音、タイヤ走行音、空力音(計算上は総合音響パワーとして扱う) ・多重反射音 ・居室配置、生活時間
  ・高架構造物音 ・睡眠影響、交通騒音感度
  ・建物密度、風の影響  
  ・建物前面での等価騒音レベル  
建築音響(例:建物内部の遮音) ・対象音源(例:オーディオのスピーカ音) ・界壁の遮音性能 ・受音室の固有モードと残響時間
・機器設定(Vol、F特) ・界壁透過音以外の側路伝搬音 ・対象音以外の暗騒音
・設置位置および壁・床との接触関係   ・騒音評価指標
・音源室の固有モードと残響時間   ・受音位置(睡眠時の頭位置など)
・使用時刻および継続時間   ・生活時間、睡眠影響、近隣騒音感度
機械音(例:車室内エンジン音評価) ・エンジン放射音、吸排気音 ・固体伝搬音(各種伝達経路 ・車室内固有モード
・振動伝達によるこもり音 ・エンジンルームからの透過音(界壁の遮音・制振性能) ・内装材の音放射特性
・補機類音、駆動系音   ・加速音の時間周波数特性
・異音(インジェクタ音、ギア歯打ち音など)   ・固有の評価指標
    ・暗騒音
    ・評価者の嗜好・感度
  • 物理的に取扱可能
  • 生理・心理・社会的要因

図1に、建物内の騒音伝搬のetiプロセスを図解したものを示します。

  • 図1 建物のetiプロセス
    図1 建物のetiプロセス

表1に示すように、音の発生から受聴までを定義した上で問題点や課題の検討をはじめるということも必要な場合があると思います。もちろん、それぞれの項目について個別問題を対処する場合は、さらに細分化して課題を明確にしていくことが大事です。しかし、音については、一つの騒音を低減しても、他の音が目立ってくるといった性質のものであり、表1のような各対象騒音でのetiプロセスを明示的に描き、全体像の中での部分として課題を把握しておくことも肝要ではないでしょうか。

また表にも明記したように、emission transmissionにある事項は、物理的に扱うことが可能です。immissionも、受音室など受聴者がいる場の空間特性は、物理的に把握することができますが、一旦受聴者の耳に入り主観の領域になると、社会的な影響や、心理・生理両面の要因が絡んできます。このコラムでも何度か申し上げているように、音は、音波という物理で扱える量と、意味や文脈をもつ感覚としての音があります。最終的には、物理量のターゲットも、必ず感応評価との関係を明確にする必要が出てくるのは、そのたためです。

表1で、説明しきれていない重要な事項も多々あります。例えば、emissionの領域では、音源の発生エネルギとして基準になる音響パワーという大変重要な指標については、このコラムでも、まだ触れられていません。また、transmissionの領域では、通常は、遮音・吸音・制振・防振・防音といった音響技術が施され、距離減衰、回折、反射、吸収、屈折などが実空間における現象としておきます。それぞれについての解説も必要と考えています。immissionは、何度も申し上げるように、今後解明が待たれる部分を多く含んだ領域です。解っている範囲でご紹介していければと思っています。

この計測コラムも、メルマガと同様、前シリーズの90回と本シリーズ合わせて100回となりました。これからも、出来る限りお客様の問題解決のヒントになるような話題を提供させていだくことを念頭において、執筆してまいりたいと考えております。

本計測コラムに関するご指摘やご意見をいただければ、大変嬉しく思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

(2010年1月21日発行メールマガジンより抜粋)