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デジタル計測の基礎 - 第17回「複素数の話(その2)」

今回も、複素指数関数の応用例を中心とした複素数のお話をいたします。

前回説明しましたオイラーの公式を再掲しますと;

          e=cosθ+isinθ                                                              ················· (1)

;となります。複素指数関数 eは、複素平面での単位円上を回転するベクトルで表され、
その回転方向は回転角θが正であれば反時計回り、負であれば時計回りとなります。また
(1)式より明らかなように、その実数部は、複素平面の実軸に投影された点となりその軌
跡は余弦波形となります。同様に、虚数部の点の軌跡は、正弦波形となります。図 1 は、
実軸上の点(1、0)を出発した回転ベクトルは、半径1の円筒状を反時計方向に回ってい
る様子を 3 次元表示したものです。

  • 図 1 オイラーの公式<上記(1)式>の図形的説明 (参考文献(1)より引用)
    図 1 オイラーの公式<上記(1)式>の図形的説明
    (参考文献(1)より引用)

ここで、偏角θをωt とおくと、(1)式は(2)式と書け;

       eiωt=cosωt+isinωt                                                            ················· (2)

;(2)式の左辺は、1 秒間にωラジアンの速さで回転する回転ベクトルを表し、右辺の実数部と虚数部は、周期 2π/ωの余弦波と正弦波波形を表しています。ωは角速度(角周波数)と言われ、ω=2πf( f は周波数で単位は Hz)です。以下、角周波数と周波数とは同じ意味として説明します。逆に、余弦波形と正弦波形を複素指数関数で表すために(2)式の複素共役をとると;

       e-iωt=cosωt-isinωt  =                                                         ················· (3)

;(2)式と(3)式から;

  • デジタル計測の基礎 - 第17回「複素数の話(その2)」_No.1

················· (4)

  • デジタル計測の基礎 - 第17回「複素数の話(その2)」_No.2

················· (5)

(4)、(5)式は、三角関数(余弦波と正弦波をまとめて)が、複素指数関数 eiωtとその複素共役の和と差で表すことができることを意味しています。そのため、信号処理の世界では、このeiωtを複素正弦波信号とも呼び数式展開に多用されています。
(4)式の意味するところは、複素正弦波信号eiωtは単位円を角速度ωで反時計方向に回転するベクトル、その複素共役であるeiωtは同じ角速度ωで逆回転する回転ベクトルで、cosωt(余弦波形)はこれら 2 つのベクトルの合成(常に実軸上にある)であるということです(図 2-(a))。

  • 図 2 -(a) 余弦波形の複素指数関数eiωtでの表現 - 複素平面でのベクトル -
    図 2 -(a) 余弦波形の複素指数関数eiωtでの表現
    - 複素平面でのベクトル -
  • 図 2 -(b) 余弦波形の複素指数関数 eiωtでの表現 - 周波数スペクトル -
    図 2 -(b) 余弦波形の複素指数関数 eiωtでの表現
    - 周波数スペクトル -

ここで;

        e-iωt=ei(−ω)t                                                                  ················· (6)

;と考えると、時計方向に回転する成分とは、角速度-ωで回転する成分と見なすことが
でき、これより、負の周波数成分というものを考えます。
実数の余弦波形は、周波数軸上で考えると、正の周波数成分ω(大きさ 1/2)と負の周波数
成分-ω(大きさ 1/2)から成り立っていると言うことができます。実際に余弦波形を周波
数分析すると、図 2 の(b)のようになり、虚軸上への投影成分は複素共役のため相殺され、
実数部の正負の成分だけが原点に対称(線対称)に出てきます。この周波数軸上での結果
を一般に周波数スペクトルと呼びます。

同じように、実数の正弦波形を考えると、正の周波数成分ω(大きさ-1/2)と負の周波数成
分-ω(大きさ 1/2)から成り立ち、複素共役の差のため実軸上の成分は相殺され、虚軸上
に合成成分が現れます(図 3)。

  • 図 3 -(a) 正弦波形の複素指数関数 eiωtでの表現
    図 3 -(a) 正弦波形の複素指数関数 eiωtでの表現
    - 複素平面でのベクトル -
  • 図 3 -(b) 正弦波形の複素指数関数eiωtでの表現
    図 3 -(b) 正弦波形の複素指数関数eiωtでの表現
    - 周波数スペクトル -

余談ですが、筆者が FFT 技術を勉強し始めた入社した頃、「負の周波数って何?」と深く理
解できなかった思い出があります。

図 2 と図 3 の(b)(周波数スペクトル)では、大きさ(振幅)だけしか表現していませんが、
前回お話ししたように複素関数が表現するもう 1 つの情報である位相に関してお話しします。
ご存じのように、正弦波は余弦波の 90 度遅れの波形と同一ですから、今後は、今後は余弦
波時間波形を基準としてお話しします。余弦波を基準とする主な理由は;

  1. ベクトルの回転の始まり(t = 0)と余弦波の始まりが一致している
  2. 実数部の成分であるので実世界と対応が良い

などと思われます。余弦波の波形を(7)式で表すと;

  • デジタル計測の基礎 - 第17回「複素数の話(その2)」_No.3

 

················· (7)

  • デジタル計測の基礎 - 第17回「複素数の話(その2)」_No.4

················· (8)

;となり、本来は(7)式左辺の括弧の中全体が位相と呼ばれますが、ωt の部分が時間と
共に回転するベクトル成分で、情報として重要なのは初期位相であるφなので、ここでは
このφを位相と呼びます。この位相角が、回転ベクトルのスタート点(t = 0)での実軸との
角度になります(図 4)。

  • 図 4 -(a) 初期位相φを含んだ余弦波形の複素指数関数 eiωtでの表現 - 複素平面でのベクトル -
    図 4 -(a) 初期位相φを含んだ余弦波形の複素指数関数 eiωtでの表現
    - 複素平面でのベクトル -
  • 図 4 -(b) 初期位相φを含んだ余弦波形の複素指数関数eiωtでの表現
    図 4 -(b) 初期位相φを含んだ余弦波形の複素指数関数eiωtでの表現
    - 周波数スペクトル -

実波形として余弦波を対応させる場合は、(7)式の右辺のように複素正弦波信号とその共役との和(実数化)となりますが、周波数分析する主な目的は、角周波数(ω)毎の大きさ(振幅)A と位相φを求めることですので、(8)式の形式でもよく利用されています。
具体的に(7)式のような初期位相を含む時間波形の周波数スペクトルを求めると、図4 の(b)となります。正の周波数成分の実数部はcosφ、虚数部はsinφに対応します。これより、位相φは;

  • デジタル計測の基礎 - 第17回「複素数の話(その2)」_No.5

················· (9)

例えば;

                                         φ= 0°の場合は、図 2 の(b)(余弦波形)、
                                         φ= -90°の場合は、図 3 の(b)(正弦波形)
                                         φ= 30°の場合は、図 4 の(b)

;に相当します。

同様に、大きさ(振幅)の方は;

(正負のパワーを加算しています)
(正負のパワーを加算しています)

(注意)
←ここでは、両側スペクトルとして計算していますので、実際の機器と異なる場合があります。

;と A の実効値となります。

これらの例でも示すように、実数関数の周波数スペクトルは;

                          「実数部は偶関数(線対称)、虚数部は奇関数(点対称)」

;となります。(4)式と(5)式からも理解できます。

FFT(高速フーリエ変換)も単位円を回転する因子(回転因子)をうまく利用しているアル
ゴリズムです。回転因子 WNを;

  • デジタル計測の基礎 - 第17回「複素数の話(その2)」_No.6

··············· (10)

とおくと、これは複素平面上の単位円を(1、0)の点(実軸上)から負の方向へ回転して 1
周を N 等分してベクトルを表します(図 5 は N = 8 の例)。

  • 図 5 N = 8 の場合の回転因子( W8=e-i2π/8)
    図 5 N = 8 の場合の回転因子( W8=e-i2π/8)
具体的な数値例  
具体的な数値例_No.1

 

具体的な数値例_No.2

 

具体的な数値例_No.3 具体的な数値例_No.4

回転因子 WNを使うと、前回の(1)式は以下の(11)式と書くことができます。

  • デジタル計測の基礎 - 第17回「複素数の話(その2)」_No.7

··············· (11)

FFT の具体的な手法は、参考文献(2)を参照して頂きたいが、図 5 のような単位円を使っ
たベクトル的な考え方を理解すると、複素指数関数の周期性などが明確になり、FFT の理解
度が高まります。
もちろん、FFT だけでなく、ディジタルフィルタや Z 変換などの信号処理の理解や数式展
開においても複素指数関数(複素正弦波信号)eiωtの表現は必須のツールとなっています。

前回より、2 回に分けて複素指数関数の基本的なお話しをしましたが、浅学な筆者のために、
何か間違いなどありましたら、ご指摘頂ければ幸いです。

○ 参考文献

  1. 雑誌「Newton(虚数なるほどよくわかる)」2008 年 12 月号
  2. 「ディジタルフーリエ解析(I)-基礎編-」城戸健一著(コロナ社)

(2009年2月19日発行メールマガジンより抜粋)