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デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」

今回は、電気や機械など工学技術者に必須な数学的な知識である複素数についてお話しします。
数学的な厳密さはないですが、読み物として読んでいただければ幸いです。

例えば、DFT(離散フーリエ変換)の定義式を記しますと;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.1

;となります。(1)式には、明らかに円周率(π)、自然対数の底であるネイピア数(e)と
2 乗して“ -1 ” になる数“ i ”(虚数単位、i = √-1)が含まれています。これは、もち
ろん、(1)式を導くときにオイラーの公式を利用しているからですが、このように、光、
電気磁気、振動、音響など波を扱う技術屋にとって、「オイラーの公式」;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.2

;は、計算を楽にしてくれる重要な恒等式です。(2)式のθ に π を代入すると、cos π = -1、sin π = 0 だから(-1 を左辺に移項して);

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.3

;というオイラーの等式が得られます。これには、数学の最も基礎的な数である(π、e、
1、0 と虚数単位i)が1 つの等式で結ばれ、世界で最も美しい数式と呼ばれています。
数年前映画化された小説「博士の愛した数式」(小川洋子著)でも、登場人物間の微妙な人
間関係を示唆するような場面で使われていました。ちなみに、記号e、i はオイラー(18 世
紀の大数学者)が初めて使用したと言われています。

2 乗して-1 になる虚数単位i(= √-1)と2 つの実数x、y でつくられた;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.4

;を複素数といい、x をz の実数部(Re z)、yをzの虚数部(Im z)といいます。

複素数 z は、xy 平面上の点P(x, y)に対応させると理解しやすく、このときのxy 平面を複
素平面(またはガウス平面)と呼びます(図1)。

  • 図 1 複素平面での極形式と共役複素数
    図 1 複素平面での極形式と共役複素数

(4)式で、y = 0 とすると、z は実数となり、複素平面上の実軸が実数の数直線となります。
このように複素数は、実数全てを含んだ数となります。また、(4)式のz に対して;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.5

を z の絶対値と呼び、図形的には、複素平面上の原点O と点P との距離OP を表します。
OP をベクトルz と見なせば、その長さ(ノルム)と見なすことができます。(4)式のz に
対応する点P(x, y)を極座標(r, θ)に対応させると、z は極形式で;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.6

;と表されます(図1)。ここで、r はz の絶対値となり、またθはz の偏角と呼ばれ、図形
的にはベクトルOP と実軸(x 軸)の正の方向となす角(ラジアン)です。

(2)式のオイラーの公式を(6)式に適用すると;

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;と更に簡単な表現の式となります。(9)式の表現を使う大きなメリットは、図形的に分
かりやすくなることに加えて、複素数同士の乗算と除算の計算が簡単になることです。具
体的な計算例は省略しますが、乗算は絶対値(実数)の乗算で偏角は加算となり、除算は
絶対値(実数)の除算と偏角は減算となります。
複素数を極形式(ベクトルの長さと偏角)で図形的に表すと、虚数単位i の意味がよく理解
できます。複素数z にi をかけると言うことは、ベクトルz を90 度(π/2)だけ反時計回り
(正の方向)に回転させることに相当します。なぜなら;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.8

;だから;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.9

;と、偏角がπ/2 だけ増えた値となるからです(図2)。

  • 図 2 複素数にi を掛ける意味
    図 2 複素数にi を掛ける意味

これと同じ考えで、実軸(x 軸)上の正の点(実数)にi を2 回かける(i2 = -1 だから-1
をかけること)と、180 度回転させることになり、数直線上の負の点となります。このよう
に、負の数も虚数を使えば統一的に説明できます。

(4)式の複素数z に対して、虚数部の符号を逆にしたものをz の共役複素数と呼び;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.10

;表し、図形的には実軸(x 軸)に対称な位置P’(x, -y)となります(図1)。共役複素数
に関しての重要な性質は和<(11)式>と積<(12)式>が実数となることです。すなわち;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.11

実数係数の代数方程式が複素数解を持つならば、その共役複素数も必ず解になるという事
実も共役複素数の性質から説明できます。(11)、(12)式は、実数係数の2 次方程式の「解
と係数の関係」を表していることになります。(1)式にて、実数の信号x (n)をDFT した結
果の複素フーリエスペクトルX (k)も一般には複素数となりますが、負の周波数成分と正の
周波数成分とは必ず複素共役の関係となります。

歴史的にみて、虚数単位 i が明示的に出てくるのは、2 次方程式(例えば、x2 + 1 = 0)の解
を求めるときですが、この時は解なしとしていましたが、3 次方程式の場合は、その解が実
数となる場合でも解の公式(カルダノの公式)を使うと虚数が出てくる場合があります。

例えば、x3 -15x-4 = 0 の例では;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.12

;だから、x = 4、-2+√3、-2-√3 の3 つの実数解がありますが、カルダノの公式を使うと、(13)の方程式の解の1つは;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.13

;と解けます。もちろんカルダノ(16 世紀、レオナルド・ダ・ヴィンチと同時代の人)の
時代は、虚数は認知されておらず、平方根の中が負数になる数字は認められていなかった
ので驚きをもって迎えられたことでしょう。

しかし、(14)の立方根の中は明らかに複素数ですが、2 つの立方根の中をよく見ると共役
複素数の関係であることが分かります。立方根をとっても共役複素数の関係は変わらない
から、(14)は実数となるはずです。

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.14

とおくと;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.15

;となるから、(14)の値は、(11)式を使って;

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.16

;と見通しよく求めることができ、このように(9)式を利用することによって、複素数の
累乗や累乗根が非常に簡単に計算することができます。

もう1つ複素数の偏角を利用した計算例を紹介します。円周率πを求める(16)式(ハッ
トンの公式)や(17)式(マチンの公式)で表される公式があります。

  • デジタル計測の基礎 - 第16回「複素数の話」_No.17


これらの左辺を2つの複素数の偏角の和と考えると、複素数の積から右辺の値(角度)を
求めることができます。例えば、(16)式の場合では、左辺は (4 + i)3 (99 + 5 i) の偏角を表
していて、これを計算すると、4913+4913 i となりこの偏角は、π/4 となることが理解でき
ます。同様に、(17)式も、(5 + i)4/(239 + i)となりこれを計算すると、2+2 i となります。

最後に、(2)のオイラーの公式について考えてみます。(2)式の左辺e iθは複素指数関数と
よばれ、三角関数と同じ周期(この場合、2π)を持つ周期関数であり、また複素関数なの
で2 つの情報を表現しています。更に、指数関数の大きなメリットである「微分演算が簡
単で微分してもその関数の形は変わらない」という特徴も持っています。

図 3 で示すように、複素指数関数e iθを4 回微分すると完全に元に戻る性質があり、(2)式
の右辺の三角関数でも同じ微分演算をして同様に元に戻りますが(図4)、図3 の複素指数
関数のほうが、すっきりしていることが理解できます。

  • 図 3 eiθを4 回微分する
    図 3 eiθを4 回微分する
  • 図 4 sinθを4 回微分する
    図 4 sinθを4 回微分する

これらの性質は、図5 のように、複素数z にi を4 回かけて、円周上を1 周して元に戻るこ
とに対応していると、筆者は理解しています。

  • 図 54 複素数にi を4 回掛ける
    図 54 複素数にi を4 回掛ける

今回は、複素数の基本的な話となってしまいましたが、次回は、信号処理への応用に関し
て話ができればと思っております。

最後に参考にした文献をあげておきますので、興味のある方は、ご参照下さい。

○ 参考文献

  1. 「虚数の話」ポール・J・ナーイン著(好田順治訳、青土社)
  2. 「虚数の情緒」吉田武著(東海大学出版会)

(2009年1月22日発行メールマガジンより抜粋)