今回は、FFTアナライザのパワースペクトルとともに算出されるオーバオール値について、お話しします。
以下の過去のコラムもご参照ください。
デジタル信号処理の基礎 - 4 「時間軸信号のパワーとパワースペクトル」
デジタル信号処理の基礎 - 8 「いろいろなパワースペクトル」
FFT アナライザにおけるオーバオール値(Overall Value、以下 OA 値)とは、音や振動などの時間信号を FFT によりパワースペクトルを求め、その分析周波数帯域全体の合成パワーを意味して、具体的な表示方法は、Fig. 1 にあるように、パワースペクトルグラフの右上の三角マークとなります。
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Fig. 1 OA 値(Overall Value)の表示方法
ここで、入力信号を x ( t )、そのパワースペクトル密度関数を G ( f )とすると、パーセバルの公式(Parseval’s Formula)またはパワースペクトル(密度)関数の定義から;
;の関係があります(厳密な説明は省略します)。① 式の右辺は OA 値に相当しますので、OA値の物理的な意味は、「入力信号x ( t )の2 乗平均値(またはパワー)に相当する」となります。
FFTアナライザにおけるOA値の具体的な計算方法は、弊社HPの「FFT解析に関する基礎用語集」の該当ページ「オーバオール」を参照してください。
多少補足しますと、パワースペクトルP ( f )であるば、ΣP ( f )となり、パワースペクトル密度関数G ( f )であれば、(ΣG ( f ))Δfとなります。
OA 値の具体的な数値表現は、対数表示(dB 表示)とリニア表示があり、リニア表示にはパワー(2 乗平均値)とその平方根である実効値表示に分けられます。また、分析周波数全体のパワーだけでなく、ある周波数帯域に限った部分オーバオール値(Partial Overall Value、以下 POA 値)を求めることができます。
次に、騒音計や振動計などからの出力結果と FFT アナライザからの OA 値との関係はどうなるのでしょうか? 前回のメルマガで記した内容に追加した Fig. 2 を参照下さい。
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Fig. 2 AP 値と OA 値
センサからの AC 信号を周波数分析せずにそのまま実効値計算した値をオールパス値(Allpass Value、以下 AP 値)と呼ぶことがあります。定常的な信号であれば、AP 値と OA値はほぼ等しい値となります。音響関係で一般的な分析手法であるオクターブ分析では、両方の値を同時に表示することがあります。(弊社の DS-2000 シリーズの例:Fig. 3)
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Fig. 3 オクターブ分析での AP 値と OA 値
AP 値と OA 値とで明確に違いが出る場合は、周波数帯域が考えられます。例えば、精密級騒音計の AC 出力を 10kHz 帯域で分析した OA 値と騒音計の表示値(AP 値)とを比較するとき、仮に 10kHz 以上の周波数帯域に相対的に大きな信号成分が存在するとしたら、明確に差が出てきます。
OA 値を使う主なメリットは、以下が考えられます。
- 周波数帯域を明確に規定して求める(POA 値の算出)ことができるので、算出方式が同じであれば、機種やメーカが違ってもほぼ同じ結果が得られる。
- 周波数重みがフラットである AC 信号を分析しても、後処理で A 特性などの周波数重み付きのデータを算出することができる
最後に、周波数分析器での音や振動のレベルの校正に関する点をお話しします。
一般的に、音や振動の物理量校正には、校正器から出力される単一正弦波の校正信号を FFT
アナライザなどに入力して、その数値を読み取り校正値として換算します。その校正信号
の読み取り方法ですが、以下の理由により FFT アナライザの OA 値がお薦めです。(これは私見です)
- 騒音計や振動計などは、単一正弦波のレベルを読んでいるのでなく、AP 値が表示されているのであり、その相当値である OA 値が適している。
- FFTアナライザのウィンドウの影響により、単一正弦波のピークレベルにバイアス誤差が生じるので、OA値を読み取ることでその誤差を避けることができる。
(以下の過去のコラム参照)
もちろん 2 の点に関しては、フラットトップなどのウィンドウを使うことにより同様に避けることができます。
(2008年3月25日発行メールマガジンより抜粋)