(6)伝達関数とボード線図
伝達関数はある伝達系の入力と出力の関係をあらわします。
伝達関数=出力信号/入力信号 として、伝達関数を周波数ごとの振幅比と周波数ごとの位相差(入力信号を基準にして)の一対であらわす方法がボード線図です。インパルスハンマと加速度センサーで打撃試験をする場合は、入力信号はインパルスハンマの力信号(単位 N)、出力信号は加速度センサーの加速度信号(単位 m/s2)、打撃した点と加速度センサーを取り付けた測定点間が伝達系となります。出力/入力である振幅比(加速度/力)は、力を1N で加振したとき加振された測定点の加速度の大きさを表しますから、任意の大きさの力が加わったときどのような大きさの加速度になるか予測するには、その力の大きさを伝達関数に掛けるだけで求めることができでます。このようなことから周波数応答関数(伝達関数)はフィルター特性(関数)と考えると理解しやすいでしょう。ここでの注意点は力の波形も加速度の波形もフーリエ変換できますから周期関数、簡単に考えるとある周波数の sin 波と考えることです。
例えば測定されたボード線図より 10 Hz の振幅比が 0.8(m/s2/N)とすると、大きさ 2N で正弦波 10 Hz の力がかかった場合の加速度は 0.8×2=1.6(m/s2)となります。このようなことから周波数軸で表現されるボード線図は良く利用されます。
(7)周波数応答関数と伝達関数
周波数応答関数と伝達関数を混同して使用しましたが、一般的にFFTアナライザで測定されるものは周波数応答関数 FRF(Frequency Response Function)と呼ばれ、
FRF=入出力のクロススペクトル÷入力のパワースペクトル
(または出力のパワースペクトル÷出入力のクロススペクトル)
で求められています。
伝達関数(Transfer Function)は測定対象のインパルスレスポンスのラプラス変換で定義されますが、実用的には両者はほとんど同じ意味で用いられています。
さてFFTアナライザーで求める周波数応答関数は、入力信号が力でその応答である変位、速度、加速度のうち、どれを取って表現するかにより表1のような名称が定められています。
表1
|
定義 |
和名 |
英名 |
関係 |
単位(SI) |
|
変位/力 |
コンプライアンス |
Compliance |
G |
m/N |
|
速度/力 |
モビリティ |
Mobility |
jωG |
m/(Ns) |
|
加速度/力 |
アクセレランス |
Accelerance |
-ω2G |
m/(Ns2) |
|
力/変位 |
動剛性 |
Dynamic stiffness |
1/G |
N/m |
|
力/速度 |
機械インピーダンス |
Mechanical impedance |
-j/(ωG) |
Ns/m |
|
力/加速度 |
動質量 |
Apparent mass |
-1/(ω2G) |
Ns2/m |
(注)コンプライアンスはレセプタンス(receptance)、アドミッタンス(admittance)、あるいは動柔性(dynamic flexibility)とも呼ぶ。 アクセレランスは、イナータンス(inertance)とも呼ぶ。
表1ではコンプライアンスをG(ω)と記しGに対する他の周波数応答関数の関係を示します。これらの関係は複素指数関数で表現できることに由来します。速度は変位を1度微分するから変位にjωを乗じたものになり、加速度は変位を2度微分するから(jω)2=−ω2を乗じたものになるためです。これらの関係からわかるように、周波数応答関数は一般には複素数となり、j=ejπ/2であるからjωを乗じる毎に振幅をω倍し位相を90°づつ進めることに相当します。積分は微分とは逆にjωで割り算することになり、90°づつ遅れることに相当します。次式は変位xを基準にし微分で求める方法と、加速度aを基準に積分で求める方法をあらわします。
変位=x 加速度=a
速度=jωx 速度=a/(jω)
加速度=(jω)2x 変位=a/(jω)2
=−ω 2x =−a/ω2
FFTアナライザーではこのような周波数軸上での微積分機能を有しており、表1の周波数応答関数を表示することができます。
参考文献:モード解析入門 長松 昭男 著 コロナ社
(8)動質量、動剛性の意味
これらの周波数応答関数はそれぞれどのような意味を表しているのでしょうか。動質量=力/加速度 の物理的な次元を考えてみましょう。
力(N)= 質量(kg)× 加速度(m/s2)ですから
力/加速度 = 質量(kg)
になります。
同様に動剛性の力/変位は、力=バネ定数×変位ですからバネ定数(剛性)になります。
周波数応答関数は周波数特性であり、質量を M、剛性を K とすると
周波数=1/(2π)・√(K/M) ・・・(1)
(K/M )はルート中を示す
ですから周波数応答関数は質量の変化、剛性の変化と見ることができます。
この質量の変化、剛性の変化についてもう少し考えていきましょう。
体験的に振動しているものに振れると振動の大きさが下がるところと、下がらないところがあります。これは振動的には変化しやすい腹のところと変化しにくい節のところと考えられ、実際それぞれの位置で振動測定を行うと変化しやすいところでは振動は大きく、変化しにくいところでは振動は小さいことが観測されます。そのときの腹、節の点の周波数応答関数は図1のようになります。
図1 振動モード
図の内容を周波数応答関数的な見方をすると、Y 軸は比率ですから上述の様に力が一定と考え、腹の部分は加速度が大きくよって周波数 f1 における質量は小さく動きやすい個所、節においては質量が大きく動きにくい個所になります。質量が大きいほど、手で触って加わる質量(付加質量)の影響が少ないことは、測定対象を支持する点を節にとることの理由です。腹の部分に触ると、わずかな付加質量で全体の質量が変わり、共振周波数 f1 が低い方向へ変化します。測定対象が軽い物では加速度センサーはできるだけ軽量のもの、場合によっては非接触式の変位計やレーザードップラ振動計を使う理由がここにあります。重たいものを動かそうとしたら大きな力がいることでも感覚的にわかりますよね。
さて、付加質量がある場合の周波数は m:付加質量、共振周波数 f2 とすると式 (1)より
f2=1/(2π)・√(K/(M+m) ・・・(2)
になります。(8)項で述べたように M+m=力/加速度は振動モードの形とその周波数 f2 によって決まる動的な物理的定数とみなすことができます。
f2 をいろいろな周波数として考えると、これは重さを秤で測るような静的な質量とは異なり、振動解析上の動的質量と呼んでいます。
同様に K=力/変位も動的剛性(動剛性)と呼ばれます。
(9)機械インピーダンス
質量、バネ定数のほかにもう1つの振動要素として減衰があります。力/速度(N/ms−2)は減衰を表します。機械系の要素は電気系の要素とそれぞれ
電圧 V=起振力 F、
電流 I=速度 u、
抵抗 R=減衰 R、
コンデンサ C=(1/バネ定数) C、
インダクタンス L=質量 m
と対応して考えることができます。
インピーダンス(R、C、L)=V/Iは力/速度ですから力/速度は機械インピーダンスとよばれ、(9)項と同様に動的な減衰を表しています。
減衰は構造内部の内部減衰と粘性減衰などの外部減衰との合成です。この減衰量は損失係数測定などとして試験して求めていますが基本的に温度や計測条件によって変化する性質があり、測定にはこのことに留意する必要があります。
(10)振動モード
振動モードがどのようになっているか調べるには、加振点を1箇所定め、測定対象の形状を表すように測定点を複数設定し周波数応答関数の測定を行います。これは周波数応答関数の測定で加振力に対する応答(変位、速度、加速度)は測定点での分散された質量とバネ定数の測定を行っているといいなおすことができます。よって、一般的な構造物の振動は連続体の振動を各測定点における集中質量・バネ定数のモデル作成のためのデータ収集を行っていることとなります。
実際は測定されない点も多くあり無限質点系モデルである測定対象を有限の測定点でモデル化をおこなうことになり、モデル誤差として内在されていることに注意する必要があります。
ボード線図から簡易的に 10 Hz の振動モードを描くには、各加速度測定点の位置を X 軸に取ります。各測定点の 10 Hz の位相差、振幅比を読取り、位相差の極性が+では Y 軸の+方向へ、位相差の極性が−では Y 軸の−方向へ、振幅比の大きさ分の座標点にマークを付していきます。マーク点を線でつなぐと 10 Hz の振動モードを描くことができます。
(2004年7月22日発行メールマガジンより抜粋)