第4回で、パワースペクトルは、時間軸信号 x (t) のパワー(2乗平均値)を周波数成分毎に分解したものと言いましたが、具体的にはどのように計算されるのか、またその単位はどうなるのでしょうか?
時間軸信号 x (t) のフーリエ変換を X (f) とすると、X (f) は一般に複素数となりますので、
X (f) = X R (f) + j X I (f)
と表すことができ、X (f) を複素フーリエスペクトルと言います。ここでX R (f) は実数部、X I (f) は虚数部です。
また、その絶対値(振幅)と位相とに表現することもできます。
振幅 |X (f)|=√{X R (f) 2 + X I (f) 2}
{ }内は√の中を表します。
位相 θ (f) = arctan (X I (f) / X R (f) )
各々を振幅スペクトル、位相スペクトルと呼ぶことがあります。この位相は、時間軸信号の時間窓の最初を基準とした位相となります。逆に振幅と位相情報が与えられると、逆フーリエ変換により、完全に元の時間軸信号を再現することができます。
振幅スペクトルの2乗をパワースペクトルと定義します。
P (f) =|X (f)| 2= X R (f) 2 + X I (f) 2
このように、パワースペクトル P (f) は、周波数毎のパワー成分を表し、元の時間軸信号の位相情報は失われていますので、これから元の波形を再現することはできません。その単位は、x (t) の単位により、V^2 (または物理量の2乗) となります。不規則信号の場合は、無限大の信号を時間窓毎に切り出して、多数回(理論的には無限大)の平均により、P (f)(P (f) の推定値) を求めます。
厳密に言いますと、パワースペクトル P (f) は、分析周波数幅 Δf を通過する時間信号のパワー (2乗平均値) で、周期的な信号ならば、ラインスペクトルとなり、分解周波数幅 Δf に無関係となりますが、不規則信号のような場合では、連続スペクトルとなり、パワーは分解周波数幅 Δfに依存します。このような場合では、パワースペクトルの各バンドを分析バンド幅 Δf で割って、単位周波数 (すなわち 1 Hz) で規格化します。
これをパワースペクトル密度 (Power Spectrum Density,PSD) と呼び、その単位は V^2 / Hz となります。
次に衝撃波形のような過渡信号のスペクトルを考えます。過渡信号は、その持続時間は有限なので、2乗平均する時間幅によってその値が変わってしまいます。そこで、上記の PSD に 2乗平均する時間 T (FFT の時間窓長)を掛けてその平均時間幅に無関係とします。これをエネルギースペクトル密度 (Energy Spectrum Density,ESD) と言い、その単位は、V2 s/Hz となります。そもそもエネルギーとは、時間軸信号 x (t) の 2 乗積分値で、それを積分時間で割った(すなわち平均化した)ものをパワーと定義されますので、PSD と ESD の関係がよく理解出来ます。
(注釈)
不規則信号 x (t) の全体エネルギーは
Lim Integral (0 to T) x 2 (t) dt ・・・(1)
T→∞
Integral (0 to T):0 から T まで 1 周期の 1 階積分、
x 2 (t):x (t) の2乗 を表します
で定義され、連続的な信号では無限大となりますが、過渡的な信号では有限となります。また、パワーはその時間平均値となるので、
Lim 1/T * Integral (0 toT) x 2 (t) dt ・・・(2)
T→∞
で定義され、有限値となります。
これまでは、1 ch の信号のスペクトルに関して説明しましたが、次回からは、2 ch 間の周波数の関数についてお話します。
(2003年5月29日発行メールマガジンより抜粋)