今回の入門コラムでは、「人が音を聴いた時の印象」を定量化する解析方法について、紹介します。「音質」と聞いて、皆さんはどのようなことを想像しますか?バイオリンやピアノなどの楽器の音色を連想する人がいるかもしれません。あるいは、携帯電話の着信音を連想する人もいるかもしれませんね。このように「音質」とは、単純な音の大きさやピッチ(音の高低)だけで表現できない、いわば音に対する印象を示します。この解析方法の入り口のお話を今回はしたいと思います。
音質が着目されてきた背景
我々は、日々様々な音に囲まれて生活しています。会社や家庭の中では、空調機の音、複写機が動作する音、掃除機の音など。一方、会社の社屋や家を一歩出ると、車やバイクの騒音、工場からの騒音、繁華街の店舗から聞こえる音楽など、我々の意思とは無関係に、何かしらの音が常に我々の周りに存在します。
音には大きく分けて、騒音(異音)という聞こえてほしくない音、不快ではないが心地よくもない音(普通の音)、および快音という心地よい音に分類されます。騒音(異音)はなるべく聞こえなくなるのが望ましく、普通の音はより心地良い音になるのが望ましい、というのは容易に想像できると思います。
最近では、様々な工業製品の音や、環境音もこの考え方に倣い、従来の大きい音を小さくする(静音化)という考え方から、心地よい音に「音質」を変える(快音化)という考え方が広まってきています。
音質を評価するためのパラメータ
「快音化」のためのアプローチとして、音質評価解析が用いられます。音質評価解析は、その名の通り、「音質」を「評価」するための「解析」手法であり、以下に示す基本的な音の印象について、定量的に評価することができます。
- ラウドネス (Loudness) 人間の感じる「音の大きさの印象」を表す
- シャープネス (Sharpness) 〃 「音の甲高さ感の印象」を表す
- ラフネス (Roughness) 〃 「音の濁り感の印象」を表す
- 変動強度 (Fluctuation Strength) 〃 「音の変動感の印象」を表す
- トーナリティ (Tonality) 〃 「音の純音感の印象」を表す
音質評価解析の例
自動車のアイドリング音に含まれる異音を解析した事例をご紹介します。
エンジンが暖まる前のアイドリング音に「シャリシャリ」という高い音色で時間変動する異音が聞こえます。エンジンが十分暖まった後では、この音は聞こえません。
この異音の周波数を特定するため、1/3 オクターブ解析を行った結果を図1に示します。「シャリシャリ」と時間的な変動感を伴うので耳障りに聞こえますが、この異音そのもののレベルが小さいため、各周波数の音の大きさで比較しても、明確な差が生じません。
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図1 1/3 オクターブ解析によるアイドリング音の比較
そこで、音の変動感を評価できる変動強度で両者を比較してみます(図2)。暖機運転前の音
(左)には4kHz あたりに大きな値を持ちます。これは、この時の音に4kHz の音の成分の時
間変動感が大きいことを表しています。「シャリシャリ」という音色に聞こえる印象と一致します。一方、暖機運転後(右)のグラフでは、4kHz 成分の値はそれほど大きくありません。
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図2 音質評価解析(変動強度)によるアイドリング音の比較
このように、音の大きさやピッチ(音の高低)だけで表現できない、音に対する印象を定量化する際に、音質評価解析が良く用いられます。この例では、不快に感じる音(異音)の特徴量を見つける例としてご紹介しましたが、不快ではないが心地よくもない音(普通の音)を、より心地よい音や魅力的な音に改善する際にも、この解析方法が良く用いられます。
このコラムをお読みになって音質評価解析について興味を持った方、また各パラメータについ
て詳しく知りたいという方は、是非当社の技術レポートをご一読ください。
(2022年5月18日発行メールマガジンより抜粋)