最近、“フーリエスペクトルとパワースペクトルの違いはなんですか?”というような質問がありましたので、今回は、再度、フーリエスペクトルについてお話します。
小野測器の FFT アナライザ DS/CF シリーズや時系列データ解析ツール Oscope には、パワースペクトルだけでなく、フーリエスペクトルと呼ばれる周波数関数があります。
フーリエスペクトルに関しては、このシリーズ基礎からの周波数分析(11)-「フーリエスペクトル」で、すでに詳説していますが、ここでは、再度より具体的に上記の FFT アナライザにおけるその関数の意味合いと用途について説明します。
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図 1 2Ch FFT アナライザの基本的な関数と処理の流れ
図1 が、一般的なFFT アナライザでの基本的関数とその処理の流れです。この図にあるように、ある時間まで切り取った有限の時系列データを FFT した結果がフーリエスペクトルで、パワースペクトルは、求められたフーリエスペクトルから計算されます。
いま、切り取られた N 点の時系列データx (n) (n = 0, 1, ..., N −1) の有限フーリエ級数は;
ここで、
となります。さらに、FFT は複素数の演算を行いますので;
とおくと、複素有限フーリエ級数は;
となります。ここで、式(5)が離散的な有限フーリエ変換(すなわち、FFT)で、ck を複素フーリエ係数と呼びます。小野測器のFFT アナライザでは、これをフーリエスペクトルと呼んでいます。基礎からの周波数分析(11)-「フーリエスペクトルでも説明しましたが、フーリエスペクトル X (f)の通常の定義は、複素フーリエ係数 ck に時間窓長 T 倍した値となりますが、ここでは、等しいものとします。
離散的な表記ということで、フーリエスペクトルを X (k) (=ck )とすると、X (k)は、時系列データ x (n) に含まれる周波数成分の大きさ(強さ)を表し、複素数となるので;
ここで、振幅に関して注意することがあります。式(1)では、N/2 点だけの有限フーリエ級数展開でしたが、式(5)では、N 点の複素フーリエ係数が求まることになっています。これは、ck を N/2 点を境に前半と後半に分割すると、両者は同じ情報が得られるからです。 すなわち、N/2 を中心にして、実数部は線対称、奇数部は点対称の関係(複素共役);
となりますので、X (k)を片側スペクトルとみなして、式(3)を使って;
と求めることができます。式(11)は一定周波数の正弦波の実効値を表しており、振幅(ピーク値)表記では;
となります。|X (k)|を振幅スペクトル、 θ (k) を位相スペクトルと呼ぶことがあります。
このように、フーリエスペクトルは、周波数毎の振幅と位相情報をもつ複素数です。
次に、位相は何を表しているのでしょうか?
フーリエスペクトルの位相は、その周波数における正弦波がFFT の時間窓のどこから始まるか、すなわち式(2)において、初期位相φ k を示しています。ただし、意味のある位相情報を得るためには、トリガー機能が必要です。
(例 1)x (t) = A cos (2π f t)の振幅はA、位相は 0 deg
(例 2)x (t) = A sin (2π f t) の振幅はA、位相は-90 deg(= -π/2)
(例 3)x (t) = A cos (2π f t) + B sin (2π f t)の振幅は
位相はA = B = 1 の場合は、振幅は√2、位相は-45 deg(= -π/4)
パワースペクトルは、フーリエスペクトルの振幅の 2 乗として求められます。
フーリエスペクトルと同じように離散的に表記すると、式(11)から;
このように、パワースペクトルは、信号の 2 乗平均値(=実効値の 2 乗)となります。パワースペクトルでは、位相情報がなくなります。
パワースペクトルは、瞬時のスペクトルで使うことはなく、変動成分の平滑化や
ランダム性信号のスペクトル推定精度を上げるために、通常平均処理を行います(図 1 における平均化ループ)。
最もよく使われる平均化処理として、下記のような加算平均が使われます。
音や振動の信号のスペクトル分析では、信号の強さを知りたいので、通常位相情報は必要なく、式(14)の平均化されたパワースペクトルを計測することが主目的となります。
表 1 フーリエスペクトルとパワースペクトルとの比較
| フーリエスペクトル | パワースペクトル | |
| 振幅情報 | ・信号の周波数毎の強さ ・平均しないパワースペクトルに等しい |
・信号の周波数毎の強さ ・2 乗平均値に相当する |
| 位相 | 求められる(トリガー必要) | なし |
| 平均化 | 通常、平均はできない | 平均化して信号の強さを求めることができる |
| その他 | IFFT を使って元の時系列データを再現できる | 元の時系列データに戻せない |
表 1 にあるように、通常の周波数分析では、パワースペクトルを使い、フーリエスペクトルは使用しません。フーリエスペクトルの最大の特徴は、位相情報が得られることで、普通、以下のような用途が考えられます。
- 振幅と位相(実数部と虚数部)情報があるので、逆フーリエ変換(IFFT)を使って元の時系列データを再現させることができる(図 1 参照)。さらに、周波数帯域制限をして、フィルタリング処理も可能となる。
- 回転体のバランシング計測に応用が可能。1 回転 1 パルスを入力してそれをトリガー信号とすることにより、意味のある位相情報が得られ、アンバランスを修正する位置情報を算出できる。
- トラッキング解析において位相トラッキングを行うことにより、回転速度毎に振幅だけでなく位相も得られる。
①モード円(ポーラ線図)から、回転体の危険速度を検出できる
②多点同時のトラッキング解析により、特定回転速度の実稼働アニメーション(ODS)へのデータを取得できる。
最後に、まとめです。
- フーリエスペクトルは、時系列データをフーリエ変換したもので、複素数となり、振幅と位相の 2 つの情報を持ちます。
- パワースペクトルは、フーリエスペクトルの振幅を2 乗したもので、平均しない場合では、両者の振幅情報は同じになります。また、パワースペクトルでは、位相情報が失われます。
- 時間信号のスペクトルを求めることは、通常は平均パワースペクトルを求めることであり、フーリエスペクトルは使いません。
- フーリエスペクトルの用途としては、
①IFFT を使って時系列データの再現
②バランシング計測
③位相トラッキング
などがあります。
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【参考】
「地震動のスペクトル解析入門」大崎順彦著 鹿島出版会(1984 年)
「ディジタルフーリエ解析(Ⅱ) -上級編-」城戸健一編著 コロナ社(2007 年)
(2016年11月25日発行メールマガジンより抜粋)