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基礎からの周波数分析(28)-「回転機械の設備診断」

これまで、「振動計測の基礎」として5回にわたって、自由振動、強制振動、振動伝達率、振動減衰、固有振動数と減衰比、そして、振動波形の振幅、周波数、位相や、振動の表し方(加速度、速度、変位)などについてお話してきました。

今回は、振動法による回転機械の設備診断についてお話します。

回転機械の異常原因はいろいろ考えられますが、そのほとんどは、周波数と関連があり、周波数分析を行い、振動騒音のどの周波数レベルが増大しているかを見ることにより、多くの場合異常原因を判定することが可能です。

回転機械に発生する異常振動の代表的な要因としては以下の項目が、考えられます。

  1. アンバランス
  2. ミス・アライメント
  3. ガタ
  4. 軸の曲がり
  5. 軸受の損傷
  6. 歯車の損傷
  7. 回転次数成分との共振

今回は、この内⑤番「軸受の損傷」について、簡単に説明します。

転がり軸受は、機械の回転部、旋回部、揺動部などに数多く使われ、回転機械の構成部品の中でも特に劣化が激しく、定期的なメンテナンスを必要とするもっとも重要な部品の1つです。

  • 図1 転がり軸受の運動
    図1 転がり軸受の運動
  • 図2 転がり軸受の外輪に傷が発生した場合
    図2 転がり軸受の外輪に傷が発生した場合

図1は、転がり軸受の運動を示し、回転軸と直結している内輪が回転すると、転動体(ボール)は自転しながら公転します。あたかも、地球のまわりを回る月のような運動で.この転動体が回転することによって振動が発生します。これを転動体通過振動と呼びます。図3は、正常な軸受けの振動時間波形で、この場合、転動体通過振動の振動レベルは比較的小さい値をとります。なお、この時間波形は、軸受けのケーシングに接触式の圧電型加速度ピックアップを取り付け、FFTアナライザでモニターしたものです。

  • 図3 正常な軸受けの振動時間波形(縦軸は加速度、m/s<sup>2)
    図3 正常な軸受けの振動時間波形(縦軸は加速度、m/s2)
  • 図4 傷がある場合の軸受けの振動時間波形(縦軸は加速度、m/s<sup>2)
    図4 傷がある場合の軸受けの振動時間波形(縦軸は加速度、m/s2)

例えば、図2にあるように外輪にスポット傷がある場合は、転動体が回転してスポット傷に衝突する毎に衝撃振動が発生します。これは、あたかも外輪をハンマリングしたかたちになり、ワークの固有振動数相当の高周波(通常は数kHz以上)の衝撃振動となります。また、この衝撃振動は、明らかに、ある周期を持った繰り返し振動です。

次に、図3と図4の時間波形のスペクトル分析をした結果が、図5「正常の軸受けの振動パワースペクトル」と図6「傷がある場合の軸受けの振動パワースペクトル」です。
図5と比較して図6では、4 kHz付近の周波数での振動のレベルが増大しており、外輪の傷に依存した高周波の衝撃振動が発生していることがわかります。

このように、正常時の軸受けの初期データを基準として、その変化分を確認することにより、異常の発生を判定することができます。

具体的には、特定の周波数帯域での振動レベルを振動コンパレータやFFTコンパレータなどで、定期的にモニターすることにより、設備診断システムを構築することが可能となります。

  • 図5 正常の軸受けの振動パワースペクトル
    図5 正常の軸受けの振動パワースペクトル
  • 図6 傷がある場合の軸受けの振動パワースペクトル
    図6 傷がある場合の軸受けの振動パワースペクトル

軸受けの損傷による振動診断では、さらに軸受けの損傷箇所を推定する手法、すなわちFFTアナライザを使った精密診断技術がよく使われています。
転がり軸受にスポット的な傷が発生した場合、図4に見られるように、繰り返しの衝撃振動となり、この衝撃振動の発生する周期は、転がり軸受の傷の発生部位(内輪、外輪、転動体)によって異なります。

  • 図7 転がり軸受に発生する衝撃振動
    図7 転がり軸受に発生する衝撃振動

そのため、図7のような、衝撃振動の発生周期、すなわちその逆数である周波数が求められれば、傷の発生部位を特定することができます。

基礎からの周波数分析(28)-「回転機械の設備診断」_No.1

設定项目
f0:軸の同転周波数[Hz]
D:軸受のピッチ円直径[mm]
d:転動体の直径[mm]
a:転動体の接触角[deg]
Z:転動体数

  • 図8 転がり軸受の構造と傷による衝撃振動の周波数計算式
    図8 転がり軸受の構造と傷による衝撃振動の周波数計算式

詳細な説明は省きますが、図8にあるように、傷による衝撃振動の繰り返しの周波数は、軸受けの諸元と回転体の回転速度が分かれば、求めることができます(注意:ここでは、傷は1つの原因につき、1箇所だけとしています)。

内輪、外輪、そして転動体の傷による衝撃振動の周波数をそれぞれ、fin、fout、fball とすると、一般には、fout<fin<fball となります。

さて、転動体の傷による衝撃振動の繰り返し周波数は、どのようにして求めたら良いのでしょうか?

図7に見られるように、実際の衝撃波形の周波数は数kHz以上と高く、それに対して求めたい衝撃振動の繰り返しの周波数は通常数10 Hzと非常に低いので、元の振動波形をそのまま低い周波数レンジで分析すると、高い周波数成分が欠落してしまい、その繰り返し周波数の情報を得ることができません。そこで、衝撃性振動波形のエンベロープ(包絡線)処理を行い(図9)、比較的単純な時間波形に変換してそれを低い周波数レンジで分析することにより、衝撃振動の繰り返し周波数を求めることができます。

  • 図9 図7の衝撃波形をエンベロープ処理した時間波形(青線)
    図9 図7の衝撃波形をエンベロープ処理した時間波形(青線)

図10が、実際にエンベロープ処理するシステムの構成例で、エンベロープ処理をする前に、回転1次成分や低周波の振動成分は衝撃波形を抽出する際にノイズとなりますので、不要な振動成分を除去するためのバンドパスフイルタを使うことが、この計測のノウハウになります。

  • 図10 転がり軸受けの精密診断の計測構成図
    図10 転がり軸受けの精密診断の計測構成図

実際の衝撃振動時間波形をエンベロープ処理した時間波形の例は図11で、傷の周期がより明確になったことがわかります。

  • 図11 傷がある軸受け振動のエンベロープ波形
    図11 傷がある軸受け振動のエンベロープ波形

また、このエンベロープ処理した時間波形を周波数分析した結果が、図12です。この時のスペクトルピークの周波数は71 Hzで、それに対して計算により求めた外輪に傷がある場合の周波数は71.13 Hzとなり、この軸受は、外輪に損傷があると判定することができます。

  • 図12 外輪に傷がある軸受振動のエンベロープ処理後のスペクトル(グラフの右におけるfoutは、計算によって求めた値です)
    図12 外輪に傷がある軸受振動のエンベロープ処理後のスペクトル(グラフの右におけるfoutは、計算によって求めた値です)

最後に、まとめです。

  1. 回転機械の異常原因は、ほとんど振動や騒音の信号の周波数成分に違いが出ることが多く、FFTアナライザにとって、重要なアプリケーションの1つです。
  2. 転がり軸受の内輪、外輪、転動体(ボール)のどこかにスポット傷があると、転動体通過振動と呼ばれる衝撃的な繰り返し振動が出てきます。
  3. スポット傷による衝撃的な振動は、軸受を構成する部品の共振現象なので、その周波数帯域は数kHz以上と高周波となります。
  4. 衝撃的振動の繰り返し周波数は、軸受のどの部分に傷があるかによって違いが出てきますので、その周波数成分を分析する精密診断技術がよく使われます。
  5. 衝撃振動の繰り返し周波数を抽出するために、前処理としてバンドパスフイルタとエンベロープ処理をして、周波数分析します。

【キーワード】
転がり軸受、内輪、転動体、転動体通過振動、FFTアナライザ、圧電型加速度ピックアップ、外輪、スポット傷、固有振動数、振動コンパレータ、精密診断技術、エンベロープ、包絡線、バンドパスフイルタ

【参考】
「回転機械診断の進め方」豊田利夫著 日本プラントメンテナンス協会(1991年)
「FFTアナライザ活用マニュアル」城戸健一編著 日本プラントメンテナンス協会(1984年)

(2016年7月22日発行メールマガジンより抜粋)