本文にスキップする

Select your region & language

Global

Region

基礎からの周波数分析(26)-「伝達関数と信号出力」

FFT アナライザで、ある系の伝達系の特性を計測するためには、その系を励振する(すなわちその伝達系に特定の信号を入力する)必要があります。2 Ch 以上の FFT アナライザでは簡便に伝達関数を測定するために、通常信号出力機能が備わっています。今回は、伝達系への励振方法や、系に入力する信号とそれを使う際での注意点などをお話します。

出力信号と伝達関数を測定する方法との組み合わせで大きく分類すると、下記の表 1 のようになります。(1)は、単一の周波数の正弦波信号をスイープしてある帯域での伝達関数を求めます。それに対して、(2)は、広い帯域で周波数成分を含む特殊な信号で、その広い周波数帯域を同時に分析できる FFT の特徴を有効に利用できるものです。

表1 出力信号と伝達関数を測定する方法との組み合わせ

信号の特性 信号名  分析手法
(1)単一の周波数信号 正弦波 FRA、FFT
(2)広帯域信号 ランダム波
擬似ランダム波
スエプトサイン
インパルス
 FFT

以下、これらの信号の性質やそれに対応した分析手法などについて説明します。

  • 図 1 正弦波スイープによる伝達関数の測定
    図 1 正弦波スイープによる伝達関数の測定

正弦波スイープ法は、単一の周波数で系を加振して 1 点だけの伝達関数を求め、その単一の周波数を変えながら(スイープしながら)計測を繰り返すことにより、指定された周波数範囲における伝達関数を求める方法です(図 1)。この方法は、加振している時間波形は正弦波なので直感的でわかりやすく、古くからおこなわれている古典的な方法です。

また、1 回の計測で 1 点の周波数だけの伝達関数を求める手法なので、多点同時に求めるFFT である必要がなく、FRA(Frequency Response Analysis)と呼ばれる 1 点の DFT で求め手法がよく使われます。この計算手法を使った分析器をサーボアナライザと言います。どちらの手法にせよ、系への入力信号と系からの出力信号成分からノイズ成分や高調波成分を取り除いて分析することができ、いわゆるトラッキングフィルタの機能を実質的に備えています。

この手法は、以下の特徴を持っています。

  1.  他の波形に比べて非常に大きなエネルギーの信号で加振することができるので、船、橋、大型建築物など大型構造物の振動試験に利用できます。
  2. 1 回で 1 つの周波数だけの計測となるので、分析器のオートレンジ機能が使え、ダイナミックレンジの高い測定が可能となります。
  3. 振幅を自由に制御することができ、系の非線形性を調べたり、ある振幅特性となるように系の入力や出力を制御することができます。
  4. 1回の測定で1点の周波数を求める方法ですから、スイープする周波数帯域、その速度、周波数分解能などは自由に制御することができます。特に広い周波数帯域では、ログスイープ(対数分解能)機能も可能です。(注意:通常この機能は、FFT でなく FRAで行います。)
  5. 最大の欠点は、測定に時間がかかるということです。
  • 図 2 FFT と連動した広帯域信号を使った伝達関数の測定
    図 2 FFT と連動した広帯域信号を使った伝達関数の測定

表1における(2)は、FFT の分析する周波数帯域と連動した特殊な広帯域信号を使い、全帯域を FFT 技術により同時に測定することができます(図 2)。本方式の特徴は以下です。

  1. 広い帯域を同時に求めるので、高速に測定できます。
  2. 伝達関数の信頼度を確認できるコヒーレンス関数も同時に求めることが可能です。
  3. FFT の原理上、リニア分解能の測定しかできない。

以下、表 2 に記載の信号について説明します。

1. ランダム波(不規則波)

この信号は、全く周期性のない振幅も位相も不規則な信号で、その振幅特性はほぼ正規分布(ガウス分布)で、またその周波数特性は充分平均化をすることにより平坦特性を持ち、俗にホワイトノイズと言われるものです。(注意:ガウス分布ノイズとホワイトノイズとは、全く性質が違うものです。)この信号を使うことの最大の長所は、振幅依存性を持つ系や非線形な系に対して適用して充分な平均化処理を行うことにより、線形近似された伝達関数を推定することができるということです。
また、この信号は、周期性のない連続信号なので FFT アナライザでは通常ハニング窓を使いますが、漏れ誤差を避けられないことが最大の欠点です。特に共振点付近では、その誤差が大きくなり、コヒーレンス関数で確認することができます。この欠点を補うための工夫は、FFT アナライザの時間窓の一部だけ信号を発生させその時間窓内で応答信号を収束させるようにした、バーストランダム波(短時間不規則波)を使うことです。
このバーストランダム波は、元のランダム波の長所を保持しながらその欠点を克服した、非常に応用範囲の広く実用的な信号で、実験モード解析ではよく使われています。これの欠点は、信号のパワーが比較的小さくなり、SN 比の低下を招きやすいため注意が必要です。

  • 図 3 ランダム波の時間波形とそのスペクトル(平均後)
    図 3 ランダム波の時間波形とそのスペクトル(平均後)
  • 図 4 バーストランダム波の時間波形とそのスペクトル(平均後)
    図 4 バーストランダム波の時間波形とそのスペクトル(平均後)

2. 擬似ランダム波

この信号は、振幅を一定にして位相だけランダムにしたフーリエスペクトルを逆 FFTして求めた時間窓で繰り返す信号です。この信号は、時間窓で繰り返す周期的な信号ですから、FFT と同期してその周波数分解能のあった周波数(すなわち bin)にだけパワーのある離散的なスペクトルを持ちます。そのため、例えば 2048 点の時間窓であれば 800 ラインのスペクトルを持ちますから、いわば振幅一定の 800 個の正弦波を、位相をランダムにして加算した時間波形とみなすことができますので、別名、マルチサイン波(多重正弦波)とも言われます。
この信号の長所は、時間窓に同期した信号なので方形窓(レクタンギュラ)が使え、漏れ誤差を生じないことです。
電気回路など線形性の系ではほとんど平均をすることなく、高速に伝達関数を求めることができますが、非線形系では、平均の効果が得られず、ほとんど使えないのが欠点です。
また、逆 FFT により、任意の振幅特性を持つ擬似ランダム波を作り出すことができる
ので、ランダム加振コントローラなどに利用されています。

  • 図 5 擬似ランダム波の時間波形とそのスペクトル(平均なし)
    図 5 擬似ランダム波の時間波形とそのスペクトル(平均なし)

3. スエプトサイン波(高速掃引波、チャープ波)

この信号は、通常 FFT アナライザの周波数レンジ幅を下限から上限まで連続的に正弦波を
掃引して、その時間窓で繰り返すような波形です。
この信号の性質は、ほぼ上記の擬似ランダム波と同じで、方形波窓を使うことができるため、漏れ誤差がなく、また線形系では、高速に伝達関数を求めることができますが、非線形系には使用できないことです。
擬似ランダム波とスエプトサイン波の違いは、周波数の時間局在性などにより、比較的減衰の小さい系では、擬似ランダム波のほうが適しています。

  • 図 6 スエプトサイン波の時間波形とそのスペクトル(平均なし)
    図 6 スエプトサイン波の時間波形とそのスペクトル(平均なし)

4. インパルス波

この信号は、時間波形上のある1点にだけ信号のパワーが局在する信号で、擬似ランダム波やスエプトサイン波と同じく、FFT アナライザの時間窓で繰り返した波形です。振動試験では、通常加振器で使うことはほとんど無く、インパルスハンマを使った簡便な試験として利用されています。
基本的な性質は、上記2つの信号と同じですが、波高率(クレストファクタ)は比較して大きいため、外乱の影響を受けやすいのが欠点です。

  • 図 7 インパルス波の時間波形とそのスペクトル(平均なし)
    図 7 インパルス波の時間波形とそのスペクトル(平均なし)

これまで、説明した伝達関数測定用の信号のまとめです。

表 2 各種信号の性質の比較のまとめ

信号名

波高率

漏れ誤差

時間窓

トリガー

非線形性の除去

測定時間

その他

正弦波

1.4

なし

Rect / Hann

不要

不可

長い

最もダイナミックレンジよく測定できる

ランダム波

あり

Hann

不要

可能

中程度

線形近似可能

バーストランダム波

なし

Rect

必要

可能

中程度

線形近似&漏れ誤差少ない

擬似ランダム波

4 以下

なし

Rect

不要

不可

短い

線形系に適する

スエプトサイン波

2 以下

なし

Rect

不要

不可

短い

線形系に適する

インパルス波

30 以下

なし

Rect

必要

不可

短い

手軽な方法

一般に、振動試験において加振方法は、その計測方法や信号の形状などから、加振器を使
用する正弦波加振とランダム加振、インパルスハンマを使用するインパルス加振の 3 種類
に分類されます(図 8)。

  • 図 8 加振信号による加振方法の違い
    図 8 加振信号による加振方法の違い

 

これらの加振方法の比較は、これまで説明した信号の性質から表 3 のようになります。
表 3 3 種類の加振方法の比較

加振源 波形とスペクトル 加振器 時間 特徴
正弦波スイープ 表 3 3 種類の加振方法の比較_No.1 電磁・油圧加振器

加振力大
定常応答

一定 G で加振可能

ランダム波
(バーストランダム)
表 3 3 種類の加振方法の比較_No.2 電磁・油圧加振器 実働波形に近い
非線形系でも最適な伝達関数測定可能
定常応答
インパクト
(衝撃)
表 3 3 種類の加振方法の比較_No.3 インパルスハンマ 手軽
加振力制御出来ない
自由応答

最後に、まとめです。

  1. FFT アナライザで、伝達関数を推定するためには、最適な信号が必要であり、それを大きく分類すると、正弦波スイープと FFT 処理に最適化された広帯域信号に分けられます。
  2. 正弦波スイープ法は、1 回の計測で 1 つの周波数点だけ計測しますので、非常に高精度でダイナミックレンジの高い伝達関数を求めることができますが、測定に時間がかかるのが難点です。
  3. ランダム波は、充分な平均操作により非線形性の強い系を線形近似することが可能ですが、漏れ誤差を生じるという欠点があります。
  4. 上記のランダム波の欠点は、バーストランダム波を使うことで解消することができます。
  5. 擬似ランダム波、スエプトサインは、同じような性質を持つ信号で、FFT 窓に同期した信号なので、漏れ誤差が生じなく、線形性の系に対しては高速に伝達関数を求めることができます。
  6. 振動試験での加振方法は、現在は、正弦波スイープ試験、ランダム試験、ハンマリング試験の主に使われています。

【キーワード】
伝達関数、FRA、FFT、正弦波スイープ、DFT、サーボアナライザ、トラッキングフィルタ、オートレンジ機能、ダイナミックレンジ、コヒーレンス関数、ログスイープ、リニア分解能、ランダム波、不規則波、正規分布、ガウス分布、ホワイトノイズ、線形近似、ハニング窓、漏れ誤差、バーストランダム波、短時間不規則波、実験モード解析、SN比、擬似ランダム波、マルチサイン波、多重正弦波、方形窓、スエプトサイン波、高速掃引波、チャープ波、インパルス波、波高率、クレストファクタ、インパルスハンマ

【参考】

  1. 「モード解析入門」長松昭男著 コロナ社(1994 年)
  2. 「機械力学ハンドブック」金子成彦・大熊政明編 朝倉書店(2015 年)
    <12. 振動試験法(383p ~ 400p)>

(2016年3月17日発行メールマガジンより抜粋)