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基礎からの周波数分析 (13) -「パワースペクトル(その2)」

前回は、電気計測器としての FFT アナライザで最も基本的で重要な関数であるパワースペクトル(その1)をお話ししました。今回は、前回に続いてパワースペクトル(その2)です。

前回の繰り返しになりますが、パワースペクトルは、周波数の関数であり、元の時間信号に含まれる周波数毎のパワー(単位時間当たりのエネルギー)を表します。FFT アナライザでパワースペクトルを求める概念的な図を図 1 に示します。この図にあるようにフィルタを使って説明すると、FFT アナライザでパワースペクトルを求めることは、バンド幅が Δfの非常に急峻な L 個のフィルタ群(L は前回明した周波数軸上の分析ライン数で、例えば L= 800)に時間信号 x(t)を同時に通してその 2 乗平均値(パワー)を求めることと等価です。

(注意:実際の FFT アナライザでこのような信号処理をしているわけではありません。)

  • 図 1 FFT アナライザでパワースペクトルを求める概念的な説明図
    図 1 FFT アナライザでパワースペクトルを求める概念的な説明図

ここで、問題になるのは(パワー値に影響を与える)バンドパスフィルタのバンド幅 Δf です。「基礎からの周波数分析(8) 「離散フーリエ変換(DFT)」」で述べたように、周期的な時間信号は、離散的な周波数分布(ラインスペクトル)を持ちます。それゆえ周期的な時間信号であれば、そのパワースペクトル値は、ほとんど影響を受けません(図 2 を参照)。

  • 図 2 バンド幅 Δf の違いに影響を受けないラインスペクトルのパワー値
    図 2 バンド幅 Δf の違いに影響を受けないラインスペクトルのパワー値

それに対して、周期性のないランダム信号(不規則信号)のスペクトルは、連続スペクトルとなるので、分析するバンド幅 Δf によりそのパワー値は大きく変化します(図 3 のイメージ図参照)。例えば、バンド幅が 10 Hz の場合と 5 Hz の場合を比較すると、そのスペクトルの形状にもよりますが、10 Hz の方が 2 倍ほど大きくなります。この影響を最小化するために、通常は単位周波数(1 Hz 幅)当たりでパワー値を規格化します。この単位周波数(1 Hz 幅)で規格化されたスペクトル関数を、パワースペクトル密度関数(Power Spectral DensityFunction、以下 PSD)と呼びます。具体的には、前回のパワースペクトル(その 1)で説明したパワースペクトル P(k)の周波数分解能を Δf とすると、PSD G(k)は;

  • 基礎からの周波数分析 (13) -「パワースペクトル(その2)」_No.1

.................................(1)

として求められます。

  • 図 3 連続スペクトルの分析バンド幅によるパワーの違い
    図 3 連続スペクトルの分析バンド幅によるパワーの違い

フーリエスペクトル X(k)を用いた PSD の定義式は;

  • 基礎からの周波数分析 (13) -「パワースペクトル(その2)」_No.2

.................................(2)
となります。以下、簡単のために極限を省略して説明します。前回説明したように、X(k)は、複素フーリエ係数 ck の T 倍なので;

  • 基礎からの周波数分析 (13) -「パワースペクトル(その2)」_No.3

.................................(3)

下式(4)のように、周波数分解能 Δf は FFT の時間窓長 T の逆数なので;

  • 基礎からの周波数分析 (13) -「パワースペクトル(その2)」_No.4

.................................(4)
式(3)は式(1)と等しくなることが分かります。

パワースペクトル P(k)と同じように、時間信号 x(t)の 2 乗平均値(全パワー)と PSD G(k)との関係は;

  • 基礎からの周波数分析 (13) -「パワースペクトル(その2)」_No.5

.................................(5)

となり、PSD を積分することにより、時間信号 x(t)の 2 乗平均値を求めることができます。

PSDは、アンプの自己ノイズ評価やランダム振動試験用のスペクトル形状用として使われ、その物理単位は V 2 /Hz 、または任意の物理量を EU とすると、E U 2 /Hz です。特に、物理量が振動加速度のときは、加速度スペクトル密度(Acceleration Spectral Density、ASD)とも呼ばれることがあります。加速度の単位を m/s 2 とすると、ASD の単位は m2/s 3となります。

まとめますと、パワースペクトル密度関数(PSD)は、元の時間信号に含まれる単位周波数(1 Hz 幅)当たりのパワー(単位時間当たりのエネルギー)を周波数の関数として表現したものになります。

次に、時間信号 x(t)が、無限に続く波形でなく衝撃波形のような有限な時間波形の場合を考えます。

  • 図 4 有限な衝撃波形とそれを分析する時間窓長
    図 4 有限な衝撃波形とそれを分析する時間窓長

「基礎からの周波数分析(6)-「フーリエ変換と畳み込み」」で説明したように、式(2)において ( ) 2 X k はエネルギースペクトルであり、PSD はそれの時間当たりのエネルギー(パワー)であることを意味していますので、FFT 時間窓長 T で除算した形になっています。そのため、図 4のような衝撃波形の PSD を求めると、例えば、T1 と T2 の時間窓でそのパワー値に違いがでてきますので、求められた PSD にさらに時間窓長 T を乗算する処理を行います。

このように求められた周波数関数を、エネルギースペクトル密度関数(Energy SpectralDensity Function、以下 ESD)と呼びます。ESD を E(k)とすると;

E (k ) = T G (k ) .................................(6)

ESD は、ショック波形などの過渡的な信号のエネルギー分布を求めるのに使われます。また、PSD と同じように、ESD を全周波数帯域で積分すると、元の時間信号の全エネルギー(2 乗平均値に T を乗算したもの)に等しくなります。その物理単位は V2s/Hz、 または任意の物理量を EU とすると EU2s/Hz です。

FFT アナライザでは、次表 1 のように、あるバンド幅でのパワースペクトル、PSDESD 3 種類のスペクトルを使い分けます。

表 1 3 種類のスペクトルの比較

スペクトルの種類

物理的な意味

対象となる信号

物理単位

パワースペクトル

周波数バンド幅毎のパワー分布

周期信号

EU2

PSD

単位周波数毎のパワー分布

連続ランダム信号

EU2/ Hz

ESD

単位周波数毎のエネルギー分布

過渡信号

EU2/ Hz

最後に、まとめです。

  1. FFT アナライザでパワースペクトルを求めることは、分析バンド幅が Δf の非常に急峻なフィルタ群に時間信号 x(t)を同時に通してその 2 乗平均値(パワー)を求めることと等価です。
  2. 周期的な信号のスペクトルはラインスペクトルとなりそのパワー値は分析バンド幅にあまり影響を受けないので、通常のパワースペクトルが適用できます。
  3. 時間的に続くランダム信号のスペクトルは連続スペクトルとなり通常のパワースペクトルではその分析幅によりパワー値が依存するので、パワースペクトル密度関数(PSD)が適用されます。
  4. ショックパルスのような過渡的な信号は有限でそのパワー値は分析時間窓長に依存するので、エネルギー密度関数(ESD)が適用されます。

【キーワード】

パワースペクトル、パワー、ラインスペクトル、ランダム信号、連続スペクトル、パワースペクトル密度関数、PSD、加速度スペクトル密度、ASD、エネルギースペクトル、エネルギースペクトル密度関数、ESD

【参考資料】

  1. 「スペクトル解析」日野幹雄著 朝倉書店(1977 )
  2. 「ディジタルフーリエ解析(I)-基礎編-」城戸健一著 コロナ社(2007 )
  3. 「やさしい FFT アナライザの使い方」山口・小野編著 オーム社(1994 )

(2014年1月23日発行メールマガジンより抜粋)