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音の測定事例 - 第7回「FFT分析とオクターブバンド分析(その3)」

今回は前々回、前回(音の測定事例 - 第5回「FFT分析とオクターブバンド分析(その1)」、同第6回「FFT分析とオクターブバンド分析(その2)」)に引き続き、オクターブバンド分析と、FFT分析の2つの方法による分析結果を紹介します。

今回の分析対象は、コーヒー缶の打撃音と、自転車のベル音の2つです。いずれも衝撃的な音で継続時間が短いもので、その音圧レベルを測定する際でも、分析方法や分析条件により測定結果が異なってきます。この現象はとくに測定対象物の動作確認や良否判定の際の閾値の定め方に大きく影響します。

コーヒー缶の打撃音の分析

コーヒー缶の打撃音は次のような信号です(波形データ内をクリックすると、WAVファイルが開き、実際の音を聞くことが出来ます)。

  • 図1 コーヒー缶の打撃音(データ長;1秒)
    図1 コーヒー缶の打撃音(データ長;1秒)

(1)コーヒー缶の打撃音のFFT分析

コーヒー缶の打撃音のような衝撃音で、継続時間が短く、FFT時間長のうちにほぼ無音になる場合は、トリガをかけFFT分析する方法が使われます。

コーヒー缶の打撃音をFFT分析した結果を図2、図3に示します。周波数レンジは25 kHz、窓関数はレクタンギュラウィンドウで、トリガをかけて分析しました。サンプル点数は4096点および16384点で、それぞれFFT時間長は64 ms、256 msになります。

Overall値は、サンプル点数4096点(64 ms)のとき83.56 dB、16384点(256 ms)のとき77.72 dBとなり一致しません。パワースペクトルの各周波数成分の値、束ねオクターブの各バンドの値も同様に一致しません。Overall値は、時間波形の振幅2乗値の平均値に一致しますので、FFT時間長が長いと後半の無音部分も平均に加えられてしまい、サンプル点数が多い(FFT時間長が長い)ほど測定値は小さくなります。理論上は時間長が倍になると3 dB下がります。

  • 図2 コーヒー缶の打撃音のFFT分析結果(25 kHzレンジ、4096点)
    図2 コーヒー缶の打撃音のFFT分析結果(25 kHzレンジ、4096点)
  • 図3 コーヒー缶の打撃音のFFT分析結果(25 kHzレンジ、16384点)
    図3 コーヒー缶の打撃音のFFT分析結果(25 kHzレンジ、16384点)

(2)コーヒー缶の打撃音のFFT定時間スケジュール分析

FFT定時間スケジュール分析は、一定時間間隔で繰り返しFFT分析をおこない、その結果からOverall値や特定の周波数成分の時間変化を計測するものです。

コーヒー缶の打撃音を分析した結果(Overall値および1.9 kHz ~ 2.1 kHzのパーシャルオーバーオール)を図4に示します。周波数レンジは25 kHz、窓関数はハニングウィンドウで、時間間隔は10 ms。サンプル点数は1024点/4096点/16384点の3種類で、それぞれFFT時間長は16 ms、64 ms、256 msになります。

Overall値の最大値はそれぞれ88.31 dB、86.20 dB、81.61 dBでした。サンプル点数が多いほど値が小さくなる傾向にありますが、サンプル点数等を変えた際に結果が何dB変化するかは理論的には求まりません。また、グラフの形状も分析条件に大きく依存するため、衝撃音のような時間変化の激しい信号の分析には向きません。

  • 図4 コーヒー缶の打撃音のFFT定時間スケジュール分析(25 kHzレンジ、10 ms間隔) サンプル点数1024点(上段)、4096点(中段)、16384点(下段)
    図4 コーヒー缶の打撃音のFFT定時間スケジュール分析(25 kHzレンジ、10 ms間隔)サンプル点数1024点(上段)、4096点(中段)、16384点(下段)

(3)コーヒー缶の打撃音のオクターブタイムトレンド分析

オクターブタイムトレンド分析はオクターブ分析の結果を一定時間間隔で並べたもので、その結果からOverall値や特定のオクターブバンドの時間変化を計測するものです。

コーヒー缶の打撃音を分析した結果(Overall値および2 kHzバンド)を図5に示します。分析条件は1/3オクターブ、演算間隔は1 ms、周波数重み付けはZ、動特性(時間重み付け特性)は、10 msと125 msです。

Overall値の最大値は動特性が10 msの場合が87.36 dB、125 msの場合が79.23 dBと異なります。また、FFT定時間スケジュールの結果とも一致しません。

動特性ですが、測定対象物の音を人が耳で聞いたときにどう感じるかを評価したい場合は、騒音レベルの測定条件と同じ125 msで分析します。対象物の動作確認や良否判定の場合で、音の継続時間が短い場合は125 msより短い値を使う場合もあります。ただ、測定値は測定条件によって異なりますので、動作確認や良否判定などの閾値は、分析方法や分析条件を決めてから定める必要があります。

  • 図5 コーヒー缶の打撃音のオクターブタイムトレンド分析(Z特性、10ms間隔) 動特性(時間重み付け特性): 10ms(上段), 125ms(下段)
    図5 コーヒー缶の打撃音のオクターブタイムトレンド分析(Z特性、10ms間隔)動特性(時間重み付け特性): 10ms(上段), 125ms(下段)

自転車のベル音の分析

自転車のベル音は次のような信号です(波形データ内をクリックすると、WAVファイルが開き、実際の音を聞くことが出来ます)。

  • 図6 自転車のベル音(データ長:2秒)
    図6 自転車のベル音(データ長:2秒)

(1)自転車のベル音のFFT分析

自転車のベル音のような2回以上の音が鳴り継続時間も長い場合、1回のFFT時間長には納まりませんので、FFT分析する際に信号全体を平均化処理(アベレージ)することがあります。平均化処理の演算方法には、パワースペクトル加算平均、パワースペクトルMAX OA、パワースペクトルピーク保持など、何通りかの方法があります。

周波数レンジは25 kHz、サンプル点数は4096点、オーバーラップは75%、窓関数はハニングウィンドウで、平均時間は2秒(信号全体)で分析しました。

図7にパワースペクトル加算平均の結果、図8にパワースペクトルMAX OAの結果、図9にパワースペクトルピーク保持の結果を示します。MAX OAは2秒間の間でOverallが一番大きかったときのパワースペクトルを求めます。ピーク保持は周波数成分ごとの最大値を保持します。

Overall値は、加算平均が70.07 dB、MAX OAが84.66 dB、ピーク保持が85.58 dBでした。

パワースペクトル加算平均の結果は無音区間も含めたパワー平均であり測定結果は小さめの値を示しますが、信号全体を反映した値です。また、騒音計で測定した時間平均サウンドレベル(Leq)と比較的よく一致します。ただし、平均時間の長さは常に同じにする必要があります。

パワースペクトルMAX OAの結果は信号が一番大きかったときのスペクトルを示します。ただし、今回の信号のように2つ以上の区間からなる信号の場合、分析結果には大きいほうの区間の音だけしか反映されません。

パワースペクトルピーク保持の各周波数成分は同一時刻のものとは限らないのですが、良否判定用途などで良品・不良品での差が顕著に出るケースでは使用されることもあります。なお、ピーク保持においてはそのスペクトルから束ねたオクターブバンドデータには意味がありませんので、図には表示しておりません。

  • 図7 自転車のベル音のFFT分析(パワースペクトル加算平均)
    図7 自転車のベル音のFFT分析(パワースペクトル加算平均)
  • 図8 自転車のベル音のFFT分析(パワースペクトルMAX OA)
    図8 自転車のベル音のFFT分析(パワースペクトルMAX OA)
  • 図9 自転車のベル音のFFT分析(パワースペクトルピーク保持)
    図9 自転車のベル音のFFT分析(パワースペクトルピーク保持)

(2)自転車のベル音のFFT定時間スケジュール分析

FFT定時間スケジュール分析は、一定時間間隔で繰り返しFFT分析をおこない、その結果からOverall値や特定の周波数成分の時間変化を計測するものです。

自転車のベル音の打撃音を分析した結果(Overall値および1.9 kHz ~ 2.1 kHzのパーシャルオーバーオール)を図10に示します。周波数レンジは25 kHz、窓関数はハニングウィンドウで、時間間隔は10 ms。サンプル点数は1024点/4096点/16384点で、それぞれFFT時間長は16 ms、64 ms、256 msになります。

Overall値の最大値はそれぞれ86.19 dB、84.55 dB、81.56 dBでした。サンプル点数が多いほど値が小さくなる傾向にありますが、サンプル点数等を変えた際に結果が何dB変化するかは理論的には求まりません。また、グラフの形状も分析条件に大きく依存するため、このような信号の時間変化を分析したり比較したりする場合は、あらかじめ分析条件を定めて計測します。

図10 自転車のベル音のFFT定時間スケジュール計測(25 kHzレンジ、10 ms間隔)

  • 図10 自転車のベル音のFFT定時間スケジュール計測(25 kHzレンジ、10 ms間隔) サンプル点数1024点(上段)、4096点(中段)、16384点(下段)
    図10 自転車のベル音のFFT定時間スケジュール計測(25 kHzレンジ、10 ms間隔)サンプル点数1024点(上段)、4096点(中段)、16384点(下段)

(3)自転車のベル音のオクターブタイムトレンド分析

オクターブタイムトレンド分析はオクターブ分析の結果を一定時間間隔で並べたもので、その結果からOverall値や特定の周波数成分の時間変化を計測するものです。

自転車のベル音をタイムトレンド計測した結果(Overall値および2 kHzバンド)を図11に示します。分析条件は1/3オクターブ、演算間隔は1 ms、周波数重み付けはZ、動特性(時間重み付け特性)は、10 msと125 msです。

Overall値の最大値は動特性が10 msの場合が85.23 dB、125 msの場合が79.77 dBと異なります。また、FFT定時間スケジュールの結果とも一致しません。動特性ですが、測定対象物の音を人が耳で聞いたときにどう感じるかを評価したい場合は、騒音レベルの測定条件と同じ125 msで分析します。対象物の動作確認や良否判定の場合で、音の継続時間が短い場合は125 msより短い値を使う場合もあります。ただ、測定値は測定条件によって異なりますので、動作確認や良否判定などの閾値は、分析方法や分析条件を決めてから定める必要があります。

  • 図11 自転車のベル音のオクターブタイムトレンド分析(Z特性、10 ms間隔) 動特性(時間重み付け特性):10 ms(上段)、125 ms(下段)
    図11 自転車のベル音のオクターブタイムトレンド分析(Z特性、10 ms間隔)動特性(時間重み付け特性):10 ms(上段)、125 ms(下段)

(2013年8月22日発行メールマガジンより抜粋)

まとめ

今回はオクターブバンド分析と、FFT 分析について、「コーヒー缶の打撃音」と「自転車の
ベル音」の分析結果を紹介し、分析方法にどのような差が出るかを示しました。

リアルタイムオクターブ分析器がない場合には、FFT アナライザによるFFT 分析を検討す
る場合がありますが、一般に結果は一致せず、その差は分析対象信号の性質や分析条件に
よって変わってきます。

とくに測定対象物の動作確認や良否判定をおこなう場合には、分析方法・分析条件を決めた
上で、閾値を定める必要があります。動作確認や良否判定の閾値を定めた場合には、分析
方法・分析条件もあわせて記録します。分析条件等が不明であると、後日、同一の結果を得
ることが困難になります。

やむを得ない事情で分析方法や分析条件などを変更しなければならない場合には、閾値の
補正が必要です。この補正量を理論的に求める事ができるケースはまれで、多くの場合は
実際のデータを2 つの方法で分析し、相関があることを確認した上でその補正量を求める
ことが必要になります。