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音の測定事例 - 第5回「FFT分析とオクターブバンド分析(その1)」

騒音計が表示する騒音レベルは、周波数の重み付け特性Aをかけた瞬時音圧から算出した値で、すべての周波数帯域(普通騒音計であれば20 Hz ~ 8 kHz、精密騒音計であれば10 Hz ~ 20 kHz)の信号成分が含まれます。

騒音対策をおこなう場合、騒音の周波数によって対策方法が異なるため、騒音の周波数分析が必要になります。周波数分析の手法の1つにJIS C 1513:2002「音響・振動用オクターブ及び 1/3オクターブバンド分析器」に定められたオクターブバンド分析があります。

JIS C 1513に準拠したオクターブバンド分析器がない場合、FFTアナライザによりFFT分析をおこない、FFT分析結果をオクターブバンドごとに束ねてオクターブバンド分析データを算出すること(いわゆる束ねオクターブ)があります。

定常的な信号であれば、オクターブバンド分析の結果とFFT分析による束ねオクターブの結果は一致しますが、信号に変動があれば一致しません。計測コラムでは今回と次回(2013年6月)にわたり、それぞれの分析方法と実測データの分析結果をご紹介します。

オクターブバンド分析

オクターブバンド分析とは、ある周波数帯域幅を持った複数のバンドについて、それぞれのバンドを通過する信号のレベルを分析します。1/1オクターブ分析では1オクターブのバンド幅をもつフィルタを使用します(図1)。 1 kHzバンド(fm = 1000 Hz)の場合、f1 = 707.11 Hz、f2 = 1414.2 Hzになります。

  • 図1 1/1オクターブバンドフィルタ
    図1 1/1オクターブバンドフィルタ

1/3オクターブ分析では1/3オクターブのバンド幅をもつフィルタを使用します(図2)。1 kHzバンド(fm = 1000 Hz)の場合、f1 = 890.90 Hz、f2 = 1122.5 Hzになります。

  • 図2 1/3オクターブバンドフィルタ
    図2 1/3オクターブバンドフィルタ

1/3オクターブバンド分析の結果(例)を図3に示します。25 Hzバンドから20 kHzバンドまでの30バンドについて、それぞれのバンドフィルタを通過した信号のレベルに周波数重み付けA特性をかけた値を表示しています。Overallは25 Hzバンドから20 kHzバンドまでのレベルにA特性をかけて総和をとった値です。AllPassはバンドフィルタを通さずに全周波数帯域の信号をレベル化した値です。AllPassはFLAT特性(A特性をかけていない)の値であるため、Overallより約3 dB大きい値になっています。また、元データに18.75 kHzを超える成分が含まれていないため、20 kHzバンドは-400 dBと表示されています。

  • 図3 1/3オクターブバンド分析結果(例)
    図3 1/3オクターブバンド分析結果(例)

オクターブバンド分析器

時間重み付けサウンドレベルメータとオクターブバンド分析器のブロック図(一例)を図4、図5に示します。サウンドレベルメータ(騒音計)のうち、時間重み付けサウンドレベルを測定できるものを時間重み付けサウンドレベルメータと呼び、図4のように実効値検波・時間重み付け回路(動特性回路)や、対数演算回路を持ちます。なお、動特性という用語は騒音計旧規格(JIS C1502, C1505)でのものであり、新規格(JIS C1509)では時間重み付け特性と呼ばれております。

  • 図4 時間重み付けサウンドレベルメータのブロック図(例)
    図4 時間重み付けサウンドレベルメータのブロック図(例)

図5に示すオクターブバンド分析器(音響用)のブロック図は、サウンドレベルメータとほぼ同じですが、あいだにオクターブバンドのバンドパスフィルタが入ります。また、通常、周波数補正はおこなわず、平坦特性(FLAT)を用います。このタイプの分析器は1度に1つのオクターブバンドしか分析できません。

  • 図5 オクターブバンド分析器のブロック図(例)
    図5 オクターブバンド分析器のブロック図(例)

同時に複数のオクターブバンドの分析をおこなう分析器をリアルタイムオクターブ分析器と呼びます(図6)。1/1オクターブ分析で31.5 Hzから16 kHzまで分析する場合は10個のオクターブバンドフィルタと実効値検波・動特性回路、対数演算回路が必要です。1/3オクターブ分析で25 Hzから20 kHzまで分析する場合は30個必要です。そのほかに、バンドフィルタを通さずに全周波数帯域の信号をレベル化したAllPass値を分析する回路を持ちます。

  • 図6 リアルタイムオクターブ分析器のブロック図(例)
    図6 リアルタイムオクターブ分析器のブロック図(例)

FFT分析器(FFTアナライザ)

FFTアナライザはFFT分析をおこなう装置です。例えば、周波数レンジ:20 kHz、サンプル点数:16,384点の場合、周波数分解能は3.125 Hz刻みになりますので、0 Hzから20 kHzまで、3.125 Hzきざみの計6,401ライン(0 Hzを含む)のパワースペクトルが得られます。

1/3オクターブバンドの1 kHzバンドは、f1 = 890.90 Hz、f2 = 1122.5 Hzですので、このパワースペクトルの890.625 Hzから1121.875 Hzまでの成分を合成すれば、パワースペクトルから1 kHzバンドの信号レベルが算出できます(※)。このようにして、FFT分析で得られたパワースペクトルから各オクターブバンドの信号レベルを計算したデータを束ねオクターブと呼んでいます。

※ 実際には、f1未満や、f2を超える周波数成分を無視するのではなく、オクターブフィルタの広がり(図1、図2の赤線で示した特性)を加味して合成します。

リアルタイムオクターブ分析とFFT分析の束ねオクターブの比較

4 kHzの繰り返しトーンバースト信号(音圧レベル:91 dB、継続時間:200 ms、繰返し周期:2 s)を1/3オクターブ分析した結果を図7、図8に示します。リアルタイムオクターブ分析の動特性(時間重み付け特性)は速い(125 ms)としました。FFT分析は周波数レンジ:20 kHz、サンプル点数:16,384点、窓関数:ハニングでおこないました。このときのFFTフレーム時間長は0.32秒になります。

  • 図7 リアルタイムオクターブ分析(上)とFFT分析の束ねオクターブ(下)のカラーマップ図
    図7 リアルタイムオクターブ分析(上)とFFT分析の束ねオクターブ(下)のカラーマップ図

リアルタイムオクターブ分析結果では、バースト信号が途切れると、動特性の影響を受けオーバーオール値や各オクターブバンドの値が125 msで約-4.3 dBの傾きで減少していきます。他方、FFT分析結果ですが、フレーム時間長は0.32秒ですので、バースト信号が途切れた0.32秒後には信号レベルは0(デシベル値はマイナス無限大)になってしまいます。

  • 図8 リアルタイムオクターブ分析(上)とFFT分析の束ねオクターブ(下)のオーバーオール値のタイムトレンド図
    図8 リアルタイムオクターブ分析(上)とFFT分析の束ねオクターブ(下)のオーバーオール値のタイムトレンド図

リアルタイムオクターブ分析結果でのオーバーオール値の最大値は90.0 dBで、トーンバースト信号の音圧レベル91.0 dBよりも1.0 dB小さくなっています。他方、FFT分析結果は約91.0 dBであり、分析方法により約1.0 dBの差が出ました。また、タイムトレンドのグラフも大きく異なります。

まとめ

今回はクターブバンド分析FFT分析による束ねオクターブ分析方法の概要を紹介しました。また、繰り返しトーンバースト信号の分析結果を紹介し、2つの分析結果に差がでる事をしめしました。次回(2013年6月)には、さらにいくつかの分析結果を紹介する予定です。

  • JIS C 1509-1:2005 サウンドレベルメータ(騒音計)- 第1部:仕様
  • JIS C 1513:2002 音響・振動用オクターブ及び1/3オクターブバンド分析器
  • JIS C 1514:2002 オクターブ及び1/Nオクターブバンドフィルター

(2013年4月18日発行メールマガジンより抜粋)