前回、音の三要素の一つ「音の大きさ」について、音圧と基準値との比によって音圧レベ
ルとして表現することを示しました。今回は、その音のレベルからはじまって、音の特性
を把握するための情報の基本的表現について解説したいと思います。大掴みの内容になりま
すので、技術的に詳細な部分は、ホームページのリンク先をご参照いただければと思います。
さて、音の三要素の後の二つは、「音の高さ」と「音色」でした。これらは即ち、音の周波
数特性と時間特性ということができます。下図1は、音の大きさの次元として単一数値で
表した騒音レベル(後述)に対して、音の高さの次元(周波数特性)、時間の次元(時間特
性)を考慮したときの物理的な情報の表現方法を示しています。以下、この図に沿って説
明していきます。
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図 1
音の物理的な測定として、騒音計を用いた音圧レベルまたは騒音レベルの測定は、音の最
も基本的な測定です。騒音計は、音響センサであるマイクロホンによって、大気圧からの
圧力変動をセンシングして、瞬時音圧から実効値とした音圧を求め、レベル化(dB 値)し
て音圧レベルを表示します [1]。
この音圧レベルが騒音測定の基本量ですが、人の聴感との対応では、A 特性という周波数補
正曲線を用いた騒音レベル(A 特性サウンドレベル)が広く使われています [2]。騒音に対
する人間の異なる反応を、A 特性という1 本の周波数補正曲線で単一数値にしてしまうこと
は、ある意味驚くべき簡略化です。騒音の評価のための共通の「ものさし」として機能す
るためには、人の騒音に対する感覚を反映したものであることともに、簡便でなければな
りません。その意味では、A 特性の簡便性は、極めて優れた簡略化のプロセスと言ってもい
いのではないでしょうか。現在採用されているA 特性の元になっているフレッチャー・マ
ンソンの40 phon 曲線が提案されて70 年以上が経ちましたが、最近の膨大な被験者による
精度の高い実験で、その曲線に近い結果が得られています [3]。
A 特性は1つのフィルタですが、人間は、20 を越える臨界帯域と呼ばれる聴覚フィルタを
持っており、このフィルタが音を区別するために重要な役割を果たしています。異なる臨
界帯域にある音は、別々の音と認識ができるために、人は、雑音の中でレベルとしてはノ
イズに埋もれている音声を聴き取ることができます。この話の深いところは、また別の機
会にしたいと思いますが、聴覚のメカニズムにご興味があれば [4] を参照してください。
さて、我々の周囲にある音は、周波数特性を持っていて、時間的にも変動しています。
騒音レベルでの評価は、周波数特性と時間特性をいわば平均的に捉えた量(時間的には瞬
時の量を扱う場合もある)といっていいと思います。解析の対象によっては、周波数と時間
のいずれかまたは両方の情報を取り出し、総合して観察することが必要な場合があります。
例えば、騒音レベルには寄与しないが、ある周波数に卓越した騒音を発生する機器があり、
その騒音が製品の音響品質を左右するような場合は、周波数を軸にした表現方法で表示し
て検査や実験をすることが必要です。また、機器が稼動するときに発生する過渡音が、あ
る時間的なタイミングで騒音レベルにも影響するような音を発生するようなケースでは、
まず騒音レベルの変化を時間軸で表示してみることが肝心です。フィールドの環境測定で
も定番であったレベルレコーダがこれに当たります。余談ですが、この記録紙には視覚的
一覧性があり、後解析可能な騒音を録音した記録とともにあると大変有用でした。
周波数軸での分析では、縦軸に音圧レベル横軸に周波数が定番です。時間的な情報を無次
元化しても情報の損失が少ない場合、即ち、瞬時の音、時間変動が少ない定常的な音、ま
た、一定の時間の平均値としての音の評価には有用な表現です。この周波数分析では、分
析の目的や対象により、周波数の幅の粗さを変えて分析します。
環境騒音や工場騒音など比較的広帯域に及ぶ騒音で、その周波数特性が問題になる場合は、
オクターブバンドで分析 [5] するのが一般的です。また、壁や床などの遮音性能の評価もオ
クターブまたは1/3 オクターブバンド分析を用います。1/3 オクターブバンドの帯域幅は、上
記の臨界帯域のバンド幅と近いことからも、聴感的な評価とも整合すると考えられています。
機械の稼動音で狭い帯域の周波数に卓越した成分があるような場合や、構造共振による振
動から発生する音を扱う場合には、周波数の情報をより細かく観察できるFFT 分析 [6]また
は1/N オクターブバンド分析を行うのが一般的です。
図にも示しましたが、騒音レベルやオクターブ分析の場合、時間的に平均した結果で評価
する指標としてLeq(等価音圧レベル)、LAeq(等価騒音レベル)が広く使われています。これ
らの指標については、次回もう少し詳しく解説したいと思います。
定常音や変動の少ない音のように、時間的に平均することに適した信号に対し、非定常な
過渡信号などは、時間的に平均することにあまり意味を持たない場合もあります。このよ
うな場合は、時々刻々と変化する音圧レベル(または騒音レベル)の周波数特性を3 次元
の情報として表現する必要があります。この表現方法には大きくは2 通りあり、図に示す
ように、レベル、周波数、時間の3 軸を立体的に表示する方法と色を使用する方法です。
通常、この種の解析は、時間間隔、軸や色の設定など自由度があるPC ベースのアプリケー
ション上で扱います。
音の評価には、A 特性のように人の感覚と相関が高く、かつ単純化したものが広く使われま
す。計測器の解析能力が向上すると、解析の次元が増えて情報量としては一見豊富に見え
ますが、計測の目的から乖離した複雑さは、抽出すべき情報を曇らせてしまう面もありま
す。複雑化した情報から、計測~解析~結果表示のプロセスの中で、本来の目的(評価や
検査)に合わせて評価量を単純化することが重要なポイントとなります。
「騒音計とは」 6-5 騒音レベル(A-weighted sound pressure level)
産総研:聴覚の等感曲線の国際規格ISO226が全面的に改正に
(2009年7月23日発行メールマガジンより抜粋)