これまで、3回にわたって伝達関数に関するお話をしましたが、今回は、「パワーとエネルギー」という別のテーマに関してお話します。音響や振動での分野では、パワー加算やエネルギー加算、または、パワー平均やエネルギー平均などは同じような意味合いでよく用いられています。ここでは、電気、機械、音響分野に加えて信号処理の分野では両者をどのように使い分けているかについて、定性的な話をします。
物理的には、物理系が他に対して仕事をする能力をもつとき,これを系のエネルギーと呼びます。また、単位時間に仕事をする能力をパワーと呼び、エネルギーの時間微分となるので、仕事率とも呼ばれます。そのSI単位は、エネルギーがJ(ジュール)でパワーがW(ワット)です。
電気系では、パワーはもちろん電力(単位はW)で、エネルギーは電力を積分した電力量(実用単位は、kWh)です。
エンジンやモータなど回転体の出力もパワー(仕事率)で普通馬力とも呼ばれ、その単位も馬力(ps)でしたが、最近はkWです。回転体の出力(パワー)は、トルク(回転力)と回転速度の積として求められます。
リチウム電池など電池の仕様として、エネルギー密度(1kgあたりどの位の電気エネルギーを蓄えられるのか)と、パワー密度(1kgあたりどの位の出力(パワー)を出せるのか)があります。車に搭載する場合では、エネルギー密度がEV車の航続距離を伸ばすには需要な要素となり、パワー密度は、加速などには重要な要素となります。
音響系では、音源から単位時間に放射される音のエネルギーとして音響パワーが定義され、単位はWです。音響パワーをP(W)とすると、それをレベル化したものを音響パワーレベル(LW)と呼び;
.................................(1)
となります。ここで、P0は基準値で10-12(W)です。通常、音響パワーは時間平均値で定常的な音源に適用されます。そのため、衝撃性のある単発音などの音源には適用できないので、音響パワーを時間積分した音響エネルギー(単位はJ)が使われます。音響エネルギーをJ(J)とすると、それをレベル化したものを音響エネルギーレベル(LJ)と呼び;
.................................(2)
となります。ここでJ0 は基準値で10-12(J) です。
さて、信号処理の分野では、時間信号x (t)のパワーは、信号の2乗平均値;
.................................(3)
と定義されます。x (t)が周期関数の時は、無限大計算は不要です。また、時間信号x (t)のエネルギーは;
.................................(4)
となります。
(注意)
式(4)のエネルギーは、連続信号など無限に続く信号では発散して、過渡信号などの有限の信号で意味を持ちます。すなわち、エネルギーは信号の2乗値の全積分、パワーは単位時間あたりのエネルギーで、時間信号x (t)の単位をEUとすると、エネルギーはEU2 s、パワーはEU2の単位となります。
次に、時間信号x (t)の周波数分析を考えます。信号のパワーやエネルギーをある周波数バンド毎に分解してその分布を求めたものを、各々、パワースペクトル(単位:EU2)、エネルギースペクトル(単位:EU2 s)と呼びます。さらに、同じ時間信号でも、分析するバンド幅に依存してそのスペクトル値が変わるので、単位周波数あたりに分析して、パワースペクトル密度(PSD)、エネルギースペクトル密度(ESD)を利用する場合もあります。そして、その単位は、PSDがEU2/Hz、ESDがEU2 s/Hz となります。
このように、信号処理の分野でのパワーやエネルギーは、最初に述べたような分野のように物理的な意味合いはなく、単に信号の2乗の次元を持って処理をしている量であることになります。
実際のFFTアナライザやオクターブバンド分析器などの加算、減算、平均処理、オーバオール計算などの処理は、すべて時間信号の2乗の次元の量で演算処理を行っています。この意味において、パワー加算とエネルギー加算、パワー平均とエネルギー平均などは、同じことを指しているといってよいでしょう。
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【参考資料】
- 「スペクトル解析」日野幹雄著 浅倉書店(1977年)
- 「騒音用語事典」日本騒音制御工学会編 技報堂出版(2010年)
(2015年3月19日発行メールマガジンより抜粋)