前回は、騒音の評価指標として最も広く利用されているLAeqについて説明しました。LAeqは、音の高低については周波数補正曲線(A特性)によって、また、時間的な変動についてはエネルギー的に平均した簡便で大変扱いやすい指標です。一般環境騒音では、ラウドネス(感覚的な音の大きさ)との対応がいいことで国際的にも広く利用されていることも前回説明しました。しかし、LAeqがすべての音に対して、人の感覚に合う指標として有効というわけにはいきません。今回は、マスキング効果、臨界帯域について説明し、ラウドネスとLAeqとの対応がとれないケースの実例をサンプル音とデータで紹介します。
日常生活の中でよく経験することとして、「マスキング効果」があります。騒々しい場所(例えば地下鉄の電車の中)での会話が聞き取り難くいのは、地下鉄の音(雑音)によって会話(信号)がマスクされるからです。逆に静かな環境(例えば、アイドリングストップ時のバスの中)では、ひそひそ話でも気が引けます。少し難しい表現をすれば、マスキングとは、ある音の刺激閾がマスキング音の存在により上昇する過程のことで、上昇した閾値をマスキング閾といいます。
第4回の「音の分析の次元」で、「人間は20を越える臨界帯域と呼ばれる聴覚フィルタを持っていて、このフィルタが音を区別するために重要な役割を果たしている」と述べました。この臨界帯域は、500 Hz以下ではその帯域幅はほぼ100 Hzで、500 Hz以上では、1/3オクターブバンド幅に近い帯域幅のフィルタです。同じ臨界帯域に、雑音と信号が同時に存在する場合、信号は雑音にマスクされやすく、信号音が聞こえにくくなり、それぞれが異なる臨界帯域にあるときは、マスキングの影響はなく、信号音は聞こえ易くなります。臨界帯域フィルタの形は、高音側に偏った山形をしています。したがって、マスキング効果は、臨界帯域の中心周波数より高い領域では大きく、反対に低い領域では小さくなります。臨界帯域とマスキングについては、詳細な説明を弊社ホームページに載せていますのでご参照ください [1] 。
さて、当然ではありますがLAeqをはじめとする物理量は、このような聴覚の特徴を反映することができません。物理的にレベルとして扱う場合、同じ臨界帯域にあってもなくても2つの音は、エネルギー的に加算して求めますが、聴感的には、同じ臨界帯域に2つの音がある場合は、いずれか高いほうの音が低いほうの音にマスクすることになり、ラウドネスは、エネルギー的に加算したLAeqと対応しません。このような臨界帯域に基づくラウドネスの算出については、Zwickerがチャートを用いたラウドネスレベルの算出法を提案し、ISO532Bで標準化されています。
ラウドネスレベルは、第4回のコラムで文献を引用しながら若干説明をしましたが、改めてJIS Z 8106の定義を記すと「ある音について、正常な聴力を持つ人が、その音と同じ大きさに聞こえると判断した1,000 Hzの純音の音圧レベル」(量記号はLN、単位記号はphon)となります。純音については、ラウドネスの等感曲線 [2] からラウドネスレベルを読み取ることができますが、複合音の場合は、ISO532Bで示されているように、1/3オクターブバンド分析をした後、ラウドネスチャートを用いて求めることになります。
では、具体的にLAeqと対応しないケースとしてどんな音が考えられるでしょうか。特定帯域に純音成分などがある場合は、このケースに相当します。例えば、機械の異音が含まれている場合は、LAeqとラウドネスとの対応が劣化します。
ここでA特性ではほぼ同じレベルで、ラウンドネスが異なる音のサンプルを聴いていただきます。下のグラフは、6つの機械音のA特性音圧レベルとラウドネス(sone)*1のトレンドを表示したものです。音のサンプルも6つの機械音に対応しています。
このように、臨界帯域、マスキングの要素を組み込んだラウドネスでは、聴感と比較的一致した音の大きさを表しているといえるのではないかと思います。
*1 ラウドネス(sone)とラウドネスレベルは以下の関係があり、ラウドネスは音の大きさの尺度として、感覚量に比例した数値です。音圧レベル20 dB以上では、10 dBの上昇でラウドネスが2倍になる関係があります。
9-3 時間平均サウンドレベル(time-averaged sound level)について
(2009年9月17日発行メールマガジンより抜粋)